(第39章)統合

(第39章)統合
 
マンハッタンのセントラルパーク。
アメリカ・マンハッタンにある都市公園である。
公園の周囲の摩天楼で働き暮らすマンハッタンの
人々のオアシスとなっていた。
またこの都市公園は映画やテレビの舞台
としてたびたび登場し、有名となっていた。
そして夜、スポーツ用の広い芝生エリアの中央にようやく
1000人の人間を捕食し、完全体になろうとしていた
ソフィア・マーカーの姿があった。
彼女は既に成長しきり、16歳の少女から
美しい成人女性に華麗に変容を遂げていた。
ソフィア・マーカーのあからさまな
強大な邪気を探知したザルバとジルに案内され、
鋼牙、クレア、モイラは彼女と対峙していた。
いよいよ最終決戦である。
やがてソフィアは高らかに周囲の空気を揺らす様な重低音でこう言った。
「1000人の人間を喰らい、
ソフィア・マーカーからシュブ・二グラスへ!
我は魔獣ホラーの新たな始祖!
我は新たな真魔界の創造と永遠を司る者!
我は完全なTウィルスを持つ者!
我はタイラント・プライムなり!
さあ!人間界から真魔界に続くゲート(門)をいざ開かん!
我と繋がりし!『ホーンデッド』達よ!ここに集うがいい!」
「完全なTウィルスって……
しかも彼女がタイラント・プライムってどういう事?」
モイラが尋ねた直後、ジルとクレアは
あの忌まわしい脳幹の鋭い痛みに襲われた。
「うっ!まただわ!」
「なっ?なんで?あたしまで?まさか?あの少女の夢のせい?」
続けてキイイイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
堪らずクレアとジルは身体をくの字に曲げ、両耳を塞いだ。
更に全身の筋肉は発熱した。
全身の筋肉が引き裂かれるかのような痛みが襲った。
やがてジルとクレアの意識は急激に低下し、自我が保てなくなった。
「ジル!クレア!しっかりしろ!」
「畜生!思った通りだぜ!鋼牙!あいつは!」
 
最初のジルとクレアの症状が始まってから
約10分後のマンハッタンの何処かの空き地。
一休みしていたマルセロ・タワノビッチは
急に脳幹に鋭い痛みを感じていた。
「おのれ!ソフィア・マーカー!
御月カオリの投与実験の過程で注射器を媒介に
T-エリクサーに血液感染したわしの精神まで
躊躇なく利用するつもりか!」
続けてキイイイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
そして全身の筋肉が発熱し、全身の筋肉が引き裂かれる様な痛みが襲った。
しかし彼はアシュリーやクレアとは違い、
強靭な精神力で自らの自我を保ち続けた。
まさかソフィア・マーカーの体内にある
T-エリクサーの力がこれほどのものとはのう。
T-エリクサーは真っ黒で縞模様の不思議な服を着た
少女の夢を媒介に一万人の人間の女性達に夢感染させていた。
故に多くの人間共が気付かない内に既に感染は
ニューヨーク中に広がっていた……。
だとしたら感染経路が不明で感染していた芳賀真理の精神も危ないのう!
しかし仮にジョンに彼女の危機を知らせたとしても……。
現時点でワクチンや抗ウィルス剤が無い以上!
T-エリクサーに対抗する術は無い……」
 
マンハッタンにある秘密結社ファミリーの本部に当たる大きな屋敷。
芳賀真理は何故かかなり厳重なセキュリティ
が施された隔離部屋に監禁されていた。
彼が雇っていたウィルス感染専門の医師の説明によれば。
「自分の体内に賢者の石を取り込んだ事で
欠陥を修復した完全なTウィルス。
『T-エリクサー』を検出したから」だと言う。
しかも自分は『T-エリクサー』に感染しながら
人間の姿と理性を保っていた。
そして自分は『無症候性キャリア』だか『保菌者』
だかよく分からない言い方をされた。
つまり人から人に感染すると
バイオハザード(生物災害)を引き起こす危険があるから。
実際ラクーンシティやテラグリジアと
いった人間の都市が地図上から抹殺されたと言う。
今回は賢者の石、外神ホラーが深く関わっている以上、
通常のTウィルスなんかよりもさらに危険な事態を引き起こす恐れがある。
そんな風にジョンや医師から説明され、感染経路も不明な以上、
今後は無闇に外を歩き回らせるのは危険だという判断もされた。
だーからー退屈極まりない!!
この隔離部屋に一人閉じ込められていると言う訳。
しばらくして真理はまるで子供のように大きな声で叫んだ。
「ねえ。せっかくベッドもあるんだから。
だーれかーしましょう。ねーえーねーえー」
彼女は部屋の中でそう叫んだが誰も答えなかった。
それから真理はふくれっ面になりベッドの上にドカッと仰向けに寝転んだ。
とりあえず彼女は布団を頭からかぶり、寝る事にした。
やがて真理はすやすやと寝息を立てた。
それから数時間後、ベッドの上でずっとすやすやと眠っていた
芳賀真理の脳裏にソフィア・マーカーの重低音の声が聞えた。
「結局!汝は妊婦とならなかったか……
しかたあるまい!汝の精神を統合する!」
彼女の声が止んだ瞬間、真理は突如、脳幹の鋭い痛みに襲われた。
彼女は布団を跳ねのけ、上半身を起こした。
続けてキイイイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
全身の筋肉が発熱し、全身の筋肉が引き裂かれる様な痛みが襲った。
やがて彼女の意識は急速に低下し、自我が保てなくなった。
そして両茶色の瞳がひっくり返り、白眼に変わった。
彼女はバタリと仰向けにベッドの上に倒れ、完全に意識を失った。
 
聖ミカエル病院に勤務していたアシュリー・グラハム
突然、脳幹への鋭い痛みを感じ、
キイイイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
更に全身の筋肉は発熱し、
全身の筋肉が引き裂かれるかのような痛みが襲った。
やがて彼女の意識は急速に低下した後、
意識を失い、ナースステーションの床に倒れた。
周囲の看護婦や医師達は慌てて意識を失い、
床に倒れた彼女を介抱しようと集まって来た。
こうしてマンハッタン市内の約一万人の
女性達が上記の症状で次々と倒れた。
再びセントラルパークでは。
「ぐっ!鋼牙!上を見ろ!」
ザルバの声で鋼牙は上を見た。
「何だ……あれは……」
「ゲートだ!人間界から真魔界に繋がるゲートだ!」
「嘘!なんなの?嫌ああああああっ!サイアクだああああっ」
モイラは不意に自分の両耳に一万人もの女性達の悲鳴、恐怖、絶望に
満ちた凄まじい声が聞えて来たので大慌てで耳を塞いだ。
危うく狂気に陥るところだった。
しかし上を見上げた途端、今度は別の意味で狂気に陥りそうになった。
幸いにもソフィア・マーカーは完全には
目覚めていない為、元の姿のままだった。
しかしソフィア・マーカーの頭上には
巨大なオレンジ色に輝く脳が浮かんでいた。
更に巨大なオレンジ色の脳はニューヨーク市内のあらゆる場所から
一万個余りのオレンジ色に輝く粒子を吸い上げて行った。
ビジュルルッ!ビジュルルル!
暫くしてソフィア・マーカーの頭上に浮かぶ
オレンジ色に輝く脳の表面から血が噴き出す音と共に変化が起こった。
やがてオレンジ色に輝く脳の表面に
約一万人もの人間の女性の顔が浮かんで来た。
しかもその一万人もの人間の女性達は先程の症状で倒れた者達だった。
そして99997人の人間の女性達の姿もあった。
彼らは口々に何かを叫び、しゃべっていた。
「ジョン!ジョン!どこなの?」「あたしは死んだの?」
「多分!死んだのよ!」「貴方も?」
「多分、あの真っ黒の縞模様の少女に!」
「そんな……」「「早く脱出しないと!」
「あたしの可愛い息子は何処??」
「知らない!」「助けて!」「助けようが無いのよ!」
「マルセロさん!誰か!そこにいるの?」「なにしているの?」
「ホラーを封印しないと!」
「こっちに来ないで!」「なにすんのよ!」
「何処にいるの?」「最低のゴミね!」「ここはなんなの?」
「明日会議があるのに!」「クズ野郎!」「お前がクズでしょ!」
「息が苦しいいっ!」「狭い!胸が痛い!」「猫はどうしたの?」
「なんなの?」「知らないわよ!」「犬の餌を買わないと!」
「居心地が悪いの!助けて!」
「子供と夫があたしの帰りを待っている!」
「もう嫌!ここから出してえっ!」
「明日!会社に行かないと!」
「助けて!お願い!」「うるさいわよ!クソアマ!」
「うるさいのはそっちよ!」「貴方!誰?」
「助けてよ!」「うるさいって言っているでしょ!」
「ああ、こいつは酷い!ソフィア・マーカーは
例の真っ黒な縞模様の少女の夢を見た一万人の見ず知らずの
人間の女性の精神を無理矢理統合させたんだ!
このままじゃ!本当に人間界から真魔界に行く為の燃料にされちまうぜ!」
イデアの悪夢か……止める方法は?」
「分らん!どうすれば……こんなゲート『門』……
流石の俺様も始めて見るんだ……」
 
(第40章に続く)