(第45章)希望

(第45章)希望
 
鋼牙はセントラルパークの公園の芝生
を力強く踏みしめ、大きくジャンプした。
そして牙浪剣を両手で構え、ヒュウウッと空を切り裂き、
剣先をオレンジ色に輝くシュブ二グラスの心臓に向け、突き進んで行った。
牙浪剣の剣先がシュブ二グラスの心臓に迫る。
ドスウウウン!と言う重々しい音が周囲の空気を震わせた。
鋼牙が放った矢の様な一撃はオレンジ色に輝く心臓に突き刺さっていた。
「ぐっ!まだ……じゃ!まだ!我は!闘え……」
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は雄叫びを上げた。
そして片手でグイッと手首を一気に捻った。
やがてシュブ二グラスのオレンジ色に輝く心臓に
徐々にクモの巣状のヒビが入り始めた。
そしてクモの巣状のヒビはオレンジ色に輝く心臓から
真っ赤に輝く鎧に覆われた全身にまで広がって行った。
シュブ二グラスは悔しそうに呻いた。
「ぐッ!何故じゃ?何故?外なる神たるホラーに歯向かう?!
何故?我ら混沌に屈せぬ!何故じゃ??」
「俺達!人間は混沌の闇の中を彷徨い続ける
さだめ(運命)だったとしても!
心の奥に灯った希望の灯は決して消えたりはしない!
故に混沌に屈する事は無い!
我が名はガロ!黄金騎士!そして!俺達と共に闘ってくれた人間達は!!
混沌の闇を照らす!守りし者!希望の光だ!!」
「ぎいいいいいいやああああああああっ!」
シュブ二グラスは断末魔の甲高い絶叫を上げた。
同時にシュブ二グラスの15mの巨大な肉体は一気に粉々になった。
その後、粉々になった肉片は赤い粒子となって完全に消滅した。
ようやくセントラルパークに静寂が訪れ、何時も通りの時に戻った。
「やっ……た……勝った!!
クレアは喜びを噛みしめた。
「あたし達?勝ったの?外なる神に?」
すると元の青い瞳に金髪を帯びた茶色のポニーテールに戻った
ジルはクレアとモイラを見ると優しく微笑んだ。
「やったあああああああああっ!」
「やった!嘘!本当に!あたし達!!」
クレアは未だに外なる神たるホラーを倒した自分が信じられずにいた。
まるで夢、いや、悪夢から覚めた様だった。
モイラは大はしゃぎで立ち上がり、ガッッポーズを何度も繰り返した。
「全く大したもんだぜ!お二人さん!」
「礼を言う……だが……無茶を……」
鋼牙が言い掛けているのを遮るようにモイラは。
「ねね。祝いしようよ!事件解決のさ!」
モイラはどうやら有頂天の様だった。
「やれやれ困ったもんだ!」
流石の鋼牙も一瞬だけ苦笑いを浮かべた。
「テンションが高いな……」
「まだまた大人には早いわね!」
「無茶の話だけど!本当に御免なさい!」
クレアはペコリと頭を下げた。
「貴方が一人で戦うのを知っていて。どうしても!放っておけなかったの。
兄が……いつも……そうだった……から……。」
「成程、熱血で仲間想いなところはクリスそっくりだぜ!」
ザルバはカカカッと笑った。
クレアは恥ずかしくて顔を赤らめた。
「やだ!あたしなんて!兄さん程じゃ……」
「そうか?そっくり過ぎて!
あんたが双子だったら絶対!俺でも間違えそうだ!」
「あっ!はっ……そう……」
「気にすんな!こいつジョークが苦手なのさ!」
「ザルバ!」
鋼牙は恥ずかしくなり、少し顔を赤らめた。
 
マンハッタンにある秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷の書斎。
「どうやらシュブ・二グラスとジルと鋼牙達の決着はついたようだね。」
「ああ、そうじゃ!間違いないのう!」
マルセロは椅子に腰かけ、ジョンが出した紅茶を一口飲んだ。
「ジルと彼女のお腹の中にいる名も無き一人娘は我々、
メシア一族にとって希望となり、救世主になるのかのう?」
「少なくとも我々はジルのお腹の中にいる
名も無き一人娘には手は出さないつもりだ!
ただ母親になったジルだけは
外神殺しの救世主として利用しようと考えている!
ジルを利用した後は必ず!
御月製薬を潰し、M-BOWを一匹残らず殲滅する!」
ジョンの穏やかな表情は既に憎しみに満ちた表情になっていた。
「そうじゃろうな?当然わしも!」
「もちろん君は除くよ!僕を裏切らない限りね!」
「そして!時間が経ち、再び復活したシュブ二グラスとニャルラトホテプ
の手によってメシア一族である無数の同胞達が賢者の石の力により、
メシア由来の魔獣ホラーから外神ホラーに産み直される前に
何らかの処置を施さねばならない!出来なければ!
我々メシア一族の魔獣ホラーは種として完全に絶滅する危険性がある!!」
「どう解決するつもりじゃ?」
「アナンタを復活させた!丁度ね!」
ジョンの返答にマルセロは危うく飲みかけた紅茶を吹き出しそうになった。
そしてみるみる険しい表情になった。
彼の額には歳相応の数本の細いしわが現われた。
「本気であの『真魔界竜』を復活させたのか?」
ジョンは無言で頷いた。
「とは言えまだ物体(オブジェ)の中にいるがね!」
ジョンは書斎の片隅に置かれている箱舟のプラモデルを指さした。
「そうだよ!僕はジョンのお陰で目覚めたのさぁ!」
その魅惑的な声は確かにジョンが指さした
箱舟のプラモデルから聞こえていた。
「まさか?アナンタか?」
「そうだよ!僕がアナンタだよ!」
「成程のう!」
「僕は目覚めた。しかしそちら側(バイオ)
の世界に行けるのは当分先の様だけどね。」
「我々にとって!いや、メシア一族にとってT-エリクサーの力は
レギュレイス一族やゼドム一族よりも遥かに脅威だ!
実際、T-エリクサーを投与された一部の我等、同胞の魔獣ホラー達は
非常に厄介で鋼牙もジルも仲間の人間達もかなり苦戦したようだ!」
「でもジルって女の人は外神殺しの力に目覚めて鋼牙と
協力してシュブ二グラスを討ち取ったんだろ??」
「そうさ!凄いだろ?」
「凄いね!しかも彼女は
10年前にレギュレイスに手傷を負わせたとも聞いたね!
僕はそんな彼女の肉体が欲しくて堪らないよ!」
ジル・バレンタインは外神ホラーの
ニャルラトホテプと文字通り契約を果たした為、
ジルとニャルラトホテプの精神と肉体は繋がっている。
故に君が彼女を手に入れるのは非常に困難を極めるだろう。
しかし幸いにも肝心のニャルラトホテプは窮極の門にある混沌の独房に
幽閉されており、こちら側(バイオ)の世界に奴の力が及ぶ心配は無い!
そこでだ!アナンタ!」
「分かっているよ!さっきの話は全て聞いていたからね。
今こそ!『メシアの子宮』と称される古の僕の出番だろ?」
「そうだよ!これから起こるであろう外神ホラーとの乱世を
我々メシア一族が種として生き延び、
存続させるにはジルと同様に外神殺しの力を潜在的に持つ、
新たに産み直された同胞が沢山、必要になるだろう。」
「ハハハハハハハ!それは面白いのう……。」
マルセロは力無く笑った。
「これは大仕事になりそうだね!」
「それにT-エリクサーのワクチンの中にある賢者の石の力なら
君の能力をさらにアップさせられるかも知れない。」
「じゃが?メシア様の意見は?」
「そもそもメシア様の意向だからさ!
心配ないよ!それよりも君の身体についてだが。」
「ああ、その事ならこっちも全く心配ないよ!
僕の身体は常に人間界と真魔界の地底ナーガローガーに繋がっているからね!
ジル・バレンタインを僕達、メシア一族のカルキ(救世主)に仕立て上げる!
フフフッ!今から楽しみで堪らないよ!!」
 
(第46章に続く)