(第46章)祝賀

(第46章)祝賀
 
ジルの隠れ家。
ニューヨーク中に出現した賢者の石の力を持つ魔獣ホラー及び、
シュブ二グラスを無事に討伐し、全ての事件が解決した祝いに
ジルの隠れ家に戻った鋼牙、ジル、クレア、モイラは
祝賀会を開こうとしていた。
テーブルにはモイラが買って来たケンタッキーフライドチキンバレル4個。
ジルが台所で作ったピーマンとナスの炒め物。
クレアが作ったクッキー。
鋼牙はトマトとレタスのみじん切りをボールに入れたサラダを作った。
飲み物にビールの缶と日本酒の瓶が置かれていた。
「おービールと日本酒!」
早速、モイラはビールの缶のふたを開け、ゴクゴクと飲んだ。
「うーぷあああああっ!」
大きく声を上げ、天井を見るとフフフッと笑った。
クレアはコップについだ日本酒を一口飲んだ。
「ううう、日本酒は美味しい!!」
「そうなのか?鋼牙?」
ザルバの質問に鋼牙は冷静に答えた。
「ああ、結構おいしいぞ!」
鋼牙もコップについだ日本酒を半分ほど飲んだ。
「鋼牙!分かっていると思うが……一気飲みは……」
「分かっている!」
クレアはそんな鋼牙とザルバのやり取りを見ながら、
取り皿に炒めものを取り、パクパクと食べていた。
「あーおいしい!ジルの料理最高!」
日本酒のせいで早くもほろ酔いなのか、そう高らかにクレアは宣言した。
「うまいよ!ああ生きてて良かったああっ!」
モイラも鋼牙が作ったトマトとレタスのみじん切りを入れた
サラダをフォークで取り、パクパク食べた。
「そうか!それは良かった!」
鋼牙もモイラが買って来たフライドチキンにかぶりつき、
少し嬉しそうな表情をした。
暫く3人は美味しそうに夕食を楽しんだ。
さっきの精神と体力を激しく消費させる
シュブ・二グラスとの死闘の後の食事は格別に旨かった。
それからしばらくしてモイラはこう質問を鋼牙に投げかけた。
「ねえ?このあたし達が住んでいる世界、
えーとこちら側(バイオ)の世界と宇宙を支配している
唯一神が白痴の魔王ホラーのアザートスなら。
元々の唯一神の『YHVA』と『ARF』は何処に行ったの?」
「遠くで。なんだ聞いていたのか……」
「そうなんだ!さっきからずっと気になっていてさ!」
モイラはビールを一口飲んだ。
「俺達の住む、あっち側(牙狼)の世界と宇宙を支配しているのが、
その唯一神の『YHVA』か『ARF』だと俺様は昔聞いた事があるぜ!
モイラは「へえー」と頷き、納得した表情をした。
モイラの表情を見ていたザルバは「ほっ!」と一安心した。
それからこれ以上罰当たりな話にならない内に
話題を変えようと鋼牙がモイラとザルバの横から口を挟んだ。
「やれやれ。もう外なる神の相手はこりごりだ!」
「そうだな。あいつら強すぎるんだぜ!」
「そうね。まさかあんな神様。
しかもクトゥルフ神話最高神の一体と闘う
大事になるなんて思っても見なかったわ。」
「正直勘弁して欲しいぜ!全く!」
「ええ、そうだ!ジル!貴方これからどうするの?」
「えっ!ああ、今考えていたんだけどね。
明日、ちゃんと聖ミカエル病院に戻ろうかと思うの。」
「そうだね!これからリハビリをしてBSAAに復帰して貰わないと!
あたし達も明後日にはテラセイブに戻らないとね!」
「じゃ!この隠れ家も封鎖かぁ?寂しいなぁ」
「でもみんなそれぞれ帰るべき場所がある。
そこでやるべき仕事がある!そうだろ?」
「ええ、そうだね!いつまでもジルと鋼牙の世話にはなれないからね!!」
「おいおい!いつからそんなに世話をしていたんだ?」
「あの二人と俺とジルが会った時さ!」
「マジかよ」
「フフフッ!まあーいいじゃない!
クレアもモイラも色々、人生の勉強になったし!」
「あのなー俺達は……」
「分かっているわよ!ザルバ!」
「さて!今日、祝賀会を終えたら明日の朝には解散だ!」
鋼牙がそう宣言すると不意にモイラは
寂しくなったのか少しだけ両目から涙を流した。
「うー寂しいよ。でも仕方が無いのは分かっているさ!」
隣にいたクレアはモイラの頭をよしよしと撫でた。
「あたしも少々寂しいかな?」
クレアもモイラにもらい泣きをして両目に涙を溜めていた。
「俺様だって!寂しいぜ!なあー」
「ああ、だが出会いもあれば別れもある。
お前達と出会い、心強い戦友として魔獣ホラーと闘い抜いた
あんた達の名前も全ての記憶も決して忘れたりはしない!案ずるな!」
その鋼牙の力強い言葉にクレアもモイラも心を打たれ、
感謝の言葉を述べ、泣き出した。
「ありがとう!また会えるのを楽しみにしているわ!」
「ううーっ!もう!我慢出来ないよ!ああっ!涙が溢れて止まらないよ!」
モイラはその場で大粒の涙を流し、微かな声を上げて泣き出した。
「あーあ、少々飲み過ぎたのね」
ジルは優しく微笑み、モイラの身体をまるで
母親の様に両腕で抱きかかえた。
「この子。泣き上戸なの。ふふふふっ!」
ジルは優しく微笑み、よしよしとモイラの背中を優しく叩いた。
モイラはジルの腕の中でシクシク泣いていた。
「そうか。意外と涙もろいんだな。」
「彼の父親のバリー・バートンがそんな感じなのよ」
「成程!遺伝と言う奴か?また一つ勉強になったぜ!」
「それに!これから産まれて来る名も無きあたしの娘の為にも
早くリハビリをして、いや、その前にこの子を産まないと。」
「もう!覚悟は出来たのか?」
「言わずともよ!それにこの子は……。」
そう言うとジルは不意に黙りこんだ。
「とにかく誰の子かともかくとして!
聖ミカエル病院の医師や精神科医たちはびっくりするかも」
「ええ、多分、少々、ごたごたがあると思うけれど。なんとか乗り越えて。
この子は20歳まではちゃんとした子供に育ててあげたいの。
そして……いつか……。」
ジルは両瞼を閉じ、白いスーツの男ニャルラトホテプの化身
『ドラキュラ伯爵』の姿を思い浮かべた。
やがてジルは再び口を開いた。
「ちゃんと!父親に会わせて!家族の時を……」
鋼牙は家族と言うジルの言葉に向こう側(牙狼)の世界に
突如現れた時空の歪みに吸い込まれ、いまだに行方不明の
愛する本物の彼の妻『御月カオル』の姿を思い出していた。
カオル……必ず!迎えに行く!約束だ!
鋼牙はそう心の中で固く誓った。
その時ふとジルは静かに声を出した。
「あーあ、モイラったら、泣き疲れて寝ちゃったわ……」
ジルは良いしょっとモイラを抱き上げて、
自分のベッドの上に連れて行き、寝かせた。
モイラがジルのベッドの上ですーすーすーすーと寝息を立てていた。
ジルは音も立てずにクレアと鋼牙のところに戻った。
「もう?寝る?」
「そうね!本当に疲れ果てちゃったし」
「シュブ二グラスは封印した。もう真っ黒に縞模様の服を着た少女が
お前の夢の中にも現実にも現われる事は永遠に無いだろう。」
「ありがとう気遣ってくれて!」
クレアは微笑んだ。
鋼牙も頬笑みを返した。
 
(終章に続く)