(第3章)七夕 『2016年7月7日より』

(第3章)七夕 『2016年7月7日より』
 
ここは天上高い、かの有名な天の川に掛るカササギの大橋。
その橋の上では古のしきたり通り、織姫と彦星が再び会おうとしていた。
だがそんなロマンティックで感動溢れる織姫と彦星の再会に水を差すように
カササギの橋のド真ん中に巨大な卵状の物体がドスンと落下していた。
やがて巨大な卵の物体は変形し、巨大な魔獣ホラーの姿となった。
巨大な魔獣ホラーは獣のように咆哮した。
「グウオオオオオオオオッ!」
そして天の川にかかるカササギの橋の上に現れた
巨大な魔獣ホラーに対峙するように黒い魔導衣を着こんだ
さらさらした茶色の髪。きりっと少し眉と目が釣り上がった
一人の魔戒法師が「おおっ!」と歓声を上げ、見上げていた。
その隣でこの天の川の煌びやかな星達がさらさらと流れる景色とは
異質なBSAAと書かれた緑色の分厚い服を纏った筋肉質の男性が
呆然と巨大な魔獣ホラーを見上げていた。
「おいおい!魔獣ホラーが天の川に来るなんて聞いていないぞ!邪美法師!!」
邪美法師と呼ばれた黒い魔導衣の女性は「何を今更」
と言いたげに表情を曇らせた。
しかし邪美法師は仕方が無く口を開いた。
「今更!強い男になりたいって言ってここまで付いてきたのは
クリス・レッドフィールド!あんただよ?」
「でも!まさか本当にここは地上から……」
「だいじょっぶだって!!あたし達は黄金の蜂蜜酒を飲んでいるから
この辺の真空(だっけ?)の中でも平気さ!」
「そういう問題じゃないんだが……」
クリスは呆れ果て、首を左右に振った。
「なっ!なんですか?あの化け物は!!」
邪美法師の背後に隠れていた青い着物の男は恐ろしく醜い姿をした
魔獣ホラーに完全に恐怖を感じ、震える唇でそう言った。
夏彦星殿!下がっていて下さい!」
「ここは俺達が倒す!必ず!織姫に会わせてみせる!」
クリスと邪美法師は夏彦星を庇うように前に一歩進み出た。
邪美法師は素早く魔導筆を上下左右に的確に振った。
すると十字型の紫色の光線が放たれた。
十字型の紫色の光線は巨大な魔獣ホラーの顔面に直撃し、大爆発を起こした。
クリスはホラー封印が込められた銃弾をスナイパーライフル
に数発込めると両手で構え、引き金を引いた。
放たれたホラー封印が込められた銃弾はスコープの狙い通り、
巨大な魔獣ホラーの胸部のオレンジ色に輝く眼球を撃ち抜いた。
「グウオオオオオオオッ!!」
巨大な魔獣ホラーは苦痛に野獣の咆哮を上げ、右膝を付いた。
「あの魔獣ホラーは何なんだ??」
「あいつは魔獣ホラー・ハンプティ!!」
クリスは驚いた表情をした。
「まさか?ハンプティダンプティか?」
邪美法師は呑気にへえーと口を動かした。
ハンプティは立ち上がり、怒り狂った咆哮を上げた。
その凄まじいハンプティの咆哮に夏彦星は「ひいっ!」と小さく声を上げた。
ハンプティは手の甲に付いた半円の鋭い突起を持つ拳を振り上げた。
同時に猛スピードで振り下ろした。
手の甲に付いた半円の鋭い突起を持つ拳は真っ直ぐ
邪美法師に向かって高速で迫った。
「遅いねぇ」
邪美法師はそう呟くと目にも止まらぬ速さで魔導筆を動かした。
そして空に『反射と』いう文字を絵書いた後、「ハアッ!」と気合を込めた。
同時にその『反射』と言う文字の通りにハンプティの手の甲に付いた
半円の鋭い突起を持つ拳が衝突した瞬間、
カキィイン!と言う音と共に弾き返された。
弾き返された手の甲に付いた半円の鋭い突起を持つ拳は
ハンプティ自身の顔面に激突した。
「グオォォオオオオッ!」
ハンプティはその場で勢い良くカササギの橋の床に仰向けに転倒した。
「身を持って知る事だね!自分の行いは必ず自分に帰ってくる!
良いことも悪い事もね!」
邪美法師は得意満面に仰向けに倒れているハンプティに魔導筆を向けた。
ハンプティもさっきの邪美法師の説教でそうとう頭に来たのだろう。
素早く上半身を起こし立ち上がった。
そしてオレンジ色の不気味な眼球をグルグルと動かした。
続けて胸部から数発ものオレンジ色に輝く球型の炸裂弾を放った。
「無駄だ!」
クリスは静かにそう言うとスナイパーライフルを両手で構え、スコープを覗いた。
そして天性の才能により飛んで来た数発の
オレンジ色に輝く球型の炸裂弾を全て正確に撃ち抜いた。
撃ち抜かれたオレンジ色に輝く球型の炸裂弾は
次々と風船のように破裂し、完全に消滅した。
「グッ!グオオオオッ!グググググゥ!」
ハンプティは大きく獣の様に唸った。
その後、再び巨大な卵状の物体となった。
やがてハンプティはあっという間に空へと飛び去った。
邪美法師とクリスは卵型の物体が飛び去るのを黙って見送った。
「逃げられたか……」
「あーあー後もう少しで封印できそうだったのにね。」
邪美法師はがっくりと肩を落とした。
「だが夏彦星殿は無事さ!」
クリスは笑顔でまだ少し震えている夏彦星の顔を見た。
「あっ!あんた達!なんて強いんだ……」
「大丈夫かい?」
邪美法師は手を伸ばし、夏彦星を立たせた。
「どっ!どうも!毎年毎年すまないね!」
「いいって事さ!元老院の仕事で天の川の
織姫と彦星の護衛任務は当然さ!守りし者としてね!」
「ああ、そうさ!」
「感謝しています!きっと織姫も帝王も安心するでしょう!」
そしてカササギの橋を渡って無事、織姫と彦星は
今年も無事に出会う事が出来たのであった。
邪美法師はとクリスはしばらく織姫の『機織りでいい着物が出来た』とか
『牛は凄く元気で今年は子供をたくさん産んだ』とか。
他愛のないごく普通の日常的な会話を間近で聞き、
クリスと邪美法師は心の底から彼らの生活が羨ましく思えた。
「本当に君達が羨ましいよ」とクリス。
「そうですか?貴方には恋人はいませんの?」と織姫。
「あーあー」と彼女にどう答えようか?クリスは心の中で迷った。
「いる事は!いるんだけどね!」と邪美法師。
「そーですかーいつかその人と幸せになれるといいですね!」
「せっかくの七夕ですもの短冊に願いを書いてみたらどうですの?」
織姫はフフフッと笑った。
「あっ!うーん!」
クリスは脳裏にジルの姿を思い浮かべた。
「やっぱり……」
クリスが言いかけた時、邪美法師は魔導筆と短冊を彼に渡した。
「ダメだよ!本当は彼女と幸せになりたいんだろう?」
「うっ……」
クリスは軽く唸りつつも渋々と短冊に願い事を書いた。
そして邪美法師はクリスから魔導筆を受け取った。
「じゃ!あたしは『戦友達』全員の健康と幸運を願って!!」
邪美法師は魔導筆で短冊に願い事をスラスラと書いた。
そして年に一度の織姫と夏彦星の再会は無事に終わり、
織姫と彦星は再び別れを告げた。
その後、2人は次の年の7月7日の七夕までの再会を楽しみにしたのだった。
 
(END)