(第4章)天使の様な悪魔の子。

(第4章)天使の様な悪魔の子。
 
一人の女の子が公園の滑り台を滑って遊んでいた。
そこにごく普通の一人の一般的な私服を着た
中年男性のトーマス・アンダーソンが現れた。
「おじさんだーれ?」
女の子は滑り台から立ち上がり、トーマスに向き直った。
トーマスは穏やかに微笑んだ。
「ねえ?君?神とか天使とか信じる?」
すると女の子は無言で首を左右に振った。
「ううん、信じるも何もこちら側(バイオ)の世界に存在しないんだもん!」
女の子の返答にややトーマスは動揺した。
「どうして?信じられないんだい?」
すると女の子は首を左右に振り、黒髪をふり乱した。
「だって!知っているもん!こちら側の世界(バイオ)には絶対に存在しないもん!」
「なっ!何故?!」
「会った事ないもの!こちら側(バイオ)の世界の
目に見えないものは存在しないの!」
しばらくしてトーマスはハアーと息を吐いた。
「かわいそうに辛い事があったんだね!」
「別に辛い事も何もないよ!ただ真実を言っただけ!」
「いや、神や天使も存在する!
君も神や天使の為に善行を尽くせばきっとヨハネの黙示録終末の日に
イエス・キリストや神や天使が救いが来るんだよ!」
じゃ!善行をしない人は一人残らず皆殺しなの?
「いや……そんな事は……」
「つまりイエス・キリストや天使や悪魔について来ないとみんな殺す』。
なんだか悲しい連中ね……まるでヒトラーみたいだね。」
女の子の純粋な返答にトーマスは黙り込んだ。
「おじさん!いい事を教えてあげる!」
女の子はまるで天使の様な悪魔の笑顔をトーマスに向けた。
トーマスは女の子の天使の様な悪魔の笑顔に背筋が激しく凍りつき、ぞっとした。
「こちら側(バイオ)の世界や向こう側(牙狼)の世界や
たくさんの並行世界の他にね!真魔界っていう世界があってね。
その真魔界には貴方達の大っ嫌いな悪魔や
鬼のモデルになった魔獣ホラーが住んでいるの!
彼らは太古の昔から貴方みたいな太った人間の肉体と魂を食らい続けているの!」
「なんだって??」
トーマスは激しく面食らった。
更にトーマスは懐から新約聖書を取り出した。
彼は落ち着きを払い、こう言った。
「そんなはずは無い!いいかい?この新約聖書には!」
「聖書に書かれている事はこちら側の(バイオ)の世界においては
全て現実から逃げ出そうとした人間達が書いたくだらないおとぎ話なの!」
「違う!違う!新約聖書は神の霊感で書かれた誤りの無い神の言葉なんだ!」
「可哀そう、そんなおとぎ話しか信じられないなんて……」
女の子はトーマスに憐れみをこもった青い瞳を向けた。
「君は!いったい何なんだ!」
トーマスは激しく怒り、大声を上げた。
「何故?ここまでこの世界に存在する筈の神や天使を否定するんだ!」
何せ無理も無い僅か3歳の女の子に神や天使、イエス・キリスト
新約聖書の内容を全て躊躇無く否定されたのだ。
怒り出すのも無理は無かった。
「自分自身を救えるのはね。神でも天使でも悪魔でも無いわ。
自分自身の強い意志と心を持って苦難の道を切り裂き、振り向かず突き進むのよ。
ママが教えてくれたの。それとね。人間には光もあれば闇もあるんだって。
そして両方を持つ人間は心も意志も悪魔よりも強いんだって。」
トーマスは沈黙した。
「もう時間だから帰るね!」
女の子はブランコを降りた。
そしてタタタタタッ!とトーマスの元を元気よく走り去った。
「あの子。本当に……」
トーマスは女の子の言ったことを思い出しながら
しばらく呆然と手に持っていた新約聖書を長い間、眺めていた。
それからトーマスが公園から出た。
ふと見るとさっき話した女の子が黒みを帯びた茶色のポニーテールの背が高く
脚の長い成人女性と一緒に帰って行く様子が見えた。
「今日!おじさんと話したの!」
「えっ?また話をしたの!アリス!」
「うん!」
トーマスはその背中を見た時、ふと思い出した。
「まさか?ママはジル・バレンタイン??じゃ!さっきの女の子は?彼女の娘か?」
やがてトーマスは驚愕の表情に変わった。 
 
(END)