(第7章)呪縛

(第7章)呪縛
 
BSAA北米支部
ようやくBSAAのSOA(Special operations)のエージェントに復帰した
ジル・バレンタインは自分のオフィスの机に積み上げられた
幾つかの資料と報告書をまとめていた。
どうやら直ちにエージェントとして捜査と
諜報の仕事に戻れる訳では無いらしい。
ジルは目の前にある幾つかの資料や報告書を見るなり、うーんと唸った。
彼女はレベル10の行動権が与えられている為、
その幾つかの資料や報告書は北米支部を超えて
捜査や作戦に関わっているエージェント達が送った
各国のバイオテロや違法なウィルス兵器やBOW(生物兵器
の開発や売買に関する資料や報告書がほとんどだった。
また今回の御月製薬の違法な生物兵器開発の捜査に参加する
向こう側(牙狼)の世界の元老院に所属する冴島鋼牙と烈花法師に関する
資料が他の各国のエージェントの資料とは別に何故か山積みとなっていた。
仕方が無いのでまずはそちらを片付ける事にした。
その二人に関する資料はまず健康診断の結果、
2人の経歴、心理適性診断の結果、その他に個人情報等々。
「えっ?まさか?2人共?エージェントになるの?」
彼女は驚いた。そして確認の為、
職場電話でBSAA代表のマツダに連絡した。
「彼らは本来、表舞台に立ってはいけない、闇の中の存在だ。
彼らの存在を隠すなら、
BSAAのエージェントにした方が良いと思ってね!
そうすれば捜査もスムーズに進むし、
異世界間の無用な対立も避けられるだろう。」
マツダBSAA代表の回答にジルは思わず納得した。
更に自分にはそんな発想は無かった事に気付き、
改めてマツダ代表は変わった人だと思った。
職場電話を切ると再び目の前の
山積みの資料や報告書に向き合い、黙々と仕事を続けた。
その資料の内容はほとんどが極秘資料だった。
ジルはその山積みの資料の中から御月製薬の社長の御月カオリと
その周辺の交友関係が書かれた資料を引っ張り出し、
しっかりと眼を通した。
資料の内容は以下の通り。
「御月カオリ。御月製薬の社長。
彼女は存在しない筈の14番目のウェスカーの被験者の
父親である勇気・御月・ウェスカーの一人娘である。
つまりあの不老不死の世界を創り出そうとした
オズウェル・E・スペンサーが
推し進めていた『ウェスカー計画』のアレックス、
アルバートと深く関わっていると推測されるが現在調査中。
ただ現在、アルバートトアレックスが死んだ今、
彼女とその父親が最後のウェスカーの子供となる。」
それからジルは御月カオリの父親の勇気・御月・ウェスカーの
出生と経歴に関する資料にしっかりと目を通した。
更に娘のカオリの出生と経歴もしっかりと目を通した。
そして御月親子の出生と経歴の資料を全て読むと息を深く吐いた。
彼女は深く椅子にもたれた。
「この呪縛はいつまで続くの?」
ジルはチッと舌打ちした。
もうあいつらの呪いに縛られたくない!
でも、なんでまだいるのよ!!いい加減にしてよ!!
彼女は心の中で怒りと悲しみが湧き上がるのを感じた。
また大勢の人間が……ウィルスのせいで死ぬの?
もう……あたしは……目の前で……見たくない……。
ジルの青い瞳から涙がツ―と零れ落ちた。
彼女の脳裏にウロボロスウィルス、Tウィルス、Tアビスに
感染した異形の化け物達に次々と大量の鮮血を撒き散らし、
悲鳴と助けを乞う絶叫と共に冷たい死体になり、
山積みになる光景が浮かんで来た。
ジルは急なフラッシュバック現象に苛まれ、顔を歪めた。
やがて幻視や幻聴は更に酷くなった。
彼女の脳裏には冒涜的で名状し難い形をした怪物が見え始めた。
それは紫色の人型のタコの姿をしていた。
ジルは慌てて自分の胸のポケットから
オレンジ色のフィルム型の箱を取り出した。
彼女は激しく震える手で上部の白いキャップを開けた。
中から円形の錠剤を2個、掌に乗せ、
落ちない内に一気に口の中に投げ入れた。
ちなみにその円形の錠剤は精神科医アシュリー・グラハム
処方された一般的な精神安定剤である。
ジルはしばらく椅子に座り、両手で頭をしっかりと押さえた。
そして頭の中の幻視や幻聴が止むのを待った。
頭の中で幻視は収まった。しかしー。幻聴は続いていた。
地の底から湧き出る様な不気味な言葉が
何度も繰り返し頭の中に響いて来た。
それは名状し難い外なる神を崇める文句だった。
「にゃる!しゅるたん!にゃる!がしゃんな!
にゃる!しゅるたん!にゃる!がしゃんな!
にゃる!しゅるたん!にゃる!がしゃんな!
にゃる!しゅるたん!にゃる!がしゃんな!」
やがて冒涜的で名状し難い外なる神を崇める文句も
精神安定剤の効果により徐々に小さくなり、
やがてか細くなり消えて行った。
ジルはハアハアと荒い息を上げ、ようやく両手を頭から離した。
しばらくジルは無言だった。
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙がジルのオフィスを包んだ。
もちろん誰がどう聞いても明らかにヤバい声が
聞えていたのはもちろん分っていた。
もしかしたら?もう私は人間じゃないのかも知れない?
きっと自分も怪物なのよ!多分!自分を隠しているだけで!
本当は16年前にドラキュラ伯爵に抱かれたあの日から
人間じゃなくて怪物になったのかも知れない。
彼女はその幻視や幻聴の原因を探る為、そう理由付けた。
しかし理由を付ける度にまた新たな不安が湧き上がった。
じゃ?娘は?あの子も怪物なの?
違う!違う!あの子は人間よ!怪物なんかじゃない!
そう否定し、直ぐに幻視や幻聴から来る気持ちの悪循環を断ち切った。
彼女はどうにかこの強い不安感やストレスから逃れようとあれこれ考えた。
しかし唯一自分が出来る方法が公用の場で
どれも使えない事に気付き、舌打ちをした。
ああっ!くそっ!ここじゃ!出来ないわ!
仕方が無いのでジルは目の前の山積みの資料や報告書に目を向けた。
そしてボールペンとハンコをやや乱暴に机に置いた。
ジルは微かに苛立ちを募らせ、山積みの資料や報告書に
サインを書いて、ハンコを押してと言う作業を延々と繰り返した。
しばらくしてジルのオフィスのパソコンに
一件のメールが届いているのに気が付いた。
ジルがマウスとキーボードをいじり、メールを開いた。
メールの差出人はクエントだった。
メールには御月製薬が密かにM-BOW(魔獣生物兵器
として開発・研究している究極の破壊神と呼ばれる存在
についてのある程度の情報が書かれていた。
それは以下の通りである。
「御月製薬は究極のM-BOW(魔獣生物兵器)の開発の為、
赤い筋がある件のクラゲ型の魔獣ホラーに
Tーエリクサーの投与し、経過を観察した。
カオリはやはりオズウェル・E・スペンサーと
同様の安値な生物兵器では無く独立した殲滅兵器の製造を最終目的とし、
安値な生物兵器は一切開発していないらしい。
最初に投与した他のホラー達とは異なり、
2対の口腕が太く発達し、食欲も増大した。
やがてクラゲ型を保ったまま巨大化し、攻撃的でかなり凶暴な為、
厳重なセキュリティが施されたハイブの
最高機密の巨大な部屋に幽閉されているらしい。
現在!コードネーム・アナコンダが御月製薬北米支部の地下にある
極秘研究施設ハイブの地図から場所の特定を試みている。」との事だった。
「成程、破壊の神……か……また厄介な生物を……」
とジルは小さく呟いた。
過去の記録ではミサイルやウィルス媒介様の特殊なBOW(生物兵器
が発生させるガスを用いてウィルス兵器の『Cウィルス』を周囲に散布し、
大勢の人間達に感染させる方法でテロ行為を
行ったネオ・アンブレラの例もある。
この究極の破壊の神も全身からガスを
噴射して周囲に散布し、T-エリクサーを
周囲の大勢の人間達に感染させる能力があるとしたら?
しかもそれが別の国のテロ組織の手に渡ったら?
T-エリクサーに含まれる賢者の石、
魔獣ホラーの力はあたし達にとっては未知の脅威。
なんとしてもブラックマーケット(闇市場)の流出を阻止しないと・・・・・。
 
(第8章に続く)