(第8章)諜報

(第8章)諜報
 
御月製薬北米支部にある社長室。
御月製薬の社長の御月カオリは目の前の机に置いてある電話に出ていた。
その間、彼女はトントンと指を何度も叩き付けていた。        
「それで?ゾルバリオスは?」
御月カオリ社長の質問に御月製薬の社員と
思われる男はおずおずとこう返事した。
「ジョン・C・シモンズ、いやベルゼビュートに倒されました。」
「なんですって!!そんなバカな!賢者の石が??」
「ええ、しかし賢者の石の力を持つゾルバリオスは倒されました。
それともう一つ深刻な問題が……。」
御月カオリ社長は額に眉を寄せ、鋭い目つきになった。
「何よ!何の問題が!!」
実は陰我のあるオブジェをゲートに出現し、人間に憑依する
魔獣ホラー達がこちら側(バイオ)の世界に
とうとう一匹も出現しなくなりました。
故に新たなM-BOW(魔獣生物兵器)の製造は困難になりました!」
「おのれぇっ!ジョンめ!これじゃ!例の計画がっ!」
「M-BOW(魔獣生物兵器)の研究・開発計画は中止となりました!」
その御月製薬の社員は大きく溜め息を付いた。
「ぐっ!仕方が無いわね……」
御月カオリは忌々しげに唇を強く噛みしめた。
しばらくしてまた電話が掛って来た。
「はい!何?ハイブ警備隊・HQ(本部)から?」
「侵入者を発見!しかし侵入者の位置は不明!」
「そう!直ぐに警戒態勢に入りなさい!」
「了解しました!」
間もなくして別のハイブ警備隊の隊員の声が聞えた。
「こちらHQ(本部)異状なし!」
「こちらHQ(本部)異状なし!」
「んっ?これは?」
しばらくして電話からパンと言う小さな破裂音がした。
次の瞬間、ザーッとノイズが掛った。
「えっ?どうしたの?もしもし?」
「うっ……ザーザーザーくそっ!ザーザーザーザーザーザー」
チャフ……ザーザーザー……グレネードか?」
やがて電話は切れた。
どうやら最新の無線電話にしたのが仇となったらしい。
結局はチャフによる電波障害により
ハイブ警備隊と一切連絡が付かなかった。
「もう!くそっ!普通の電話回線の固定電話にすればよかった!」
御月カオリは悔やんだが今はどうにもならなかった。
しばらくして電波障害は収まり、再びハイブ警備隊との連絡がついた。
「どうなったの?捕まえた?捕まえたら拷問室に!!」
御月カオリは侵入者が捕まった事を期待した。
しかし結果報告は残念だった。
「こちらHQ(本部)侵入者に逃げられました!」
「茶色のポニーテールの迷彩服の日本人女性!」
「繰り返します茶色のポニーテールの迷彩服の日本人の女性を
ハイブのスタッフが目撃したと報告有り!」
「日本人の女にポニーテール?」
「監視カメラに一切映らず!何処に逃亡したかは不明!」
「何しているのよ!早く侵入者を狩り出しなさいっ!」
御月カオリはキーキー声で怒鳴り散らした。
「目撃者は一人だけです!他にはいません!」
「以前発見されず!捜索中です!」
「だから!早く見つけなさい!馬鹿共!」
御月カオリは鼻息荒く怒鳴りつけた。
「現在!ハイブ警備隊所属の警備兵が全力で犯人逮捕を!
今しばらくお待ちを!」
それからまた無線電話は切れた。
御月カオリは社長の椅子に座り、次のハイブ警備隊の連絡を待ち続けた。
しかも10時間以上もー。
やがてハイブ警備隊から連絡が帰って来た。
「こちらHQ(本部)異状なし!」
「こちらHQ(本部)異状なし!」
「HQ(本部)こちらも!異状なし!恐らく既に脱出されたのだろう……」
「了解した!こちらHQ(本部)帰投します!」
「うーっ!くそっ!待ちなさい!良く探しなさい!
あーも畜生!マヌケ共めええええっ」
御月カオリは社長椅子の上で何度も子供の様に地団駄を踏んだ。
その後、御月カオリはすぐさまハイブ警備隊を全員、社長室に呼び付けた。
「盗まれた情報は?」
ハイブ警備隊の面々は完全に黙っていた。
御月カオリは鋭い眼光でハイブ警備隊の面々を睨みつけた。
次の瞬間、ハイブ警備隊の面々はビックンと全身を激しく震わせた。
「いえ、何も盗まれてはいません……」
「表面的には……」
「ただ何者かにハッキングされた痕跡が……」
ドオン!と御月カオリは両手で机を叩いた。
「何を盗まれた!正直に言いなさいっ!」
ガクガクブルブルブルガクガクブルブルブルガクガクブルブル。
ハイブ警備隊の面々は更に全身を頻繁に震わせた。
「不明です。恐らく」
「ハッキングされた痕跡があったのは……」
「ハイブの技術者の報告によると」
ハイブ警備隊の隊長は震える声である報告をした。
その瞬間、御月カオリ社長はヒステリックな甲高い声を上げた。
 
ニューヨークの上空を飛行しているヘリコプターの内部では
セントラルパークから乗り込んだあの茶髪のポニーテールに
迷彩服の日本人の女性が胸に付けている無線のつまみをいじり、
耳に付けたマイクでBSAA北米支部にいるある男と連絡を取っていた。
彼女は口を開いた。
「こちらアナコンダ!任務は完了した!」
「こちらジャッカス!任務ご苦労です!」
「ああ、上手く行ったよ」
「流石です!」
ジャッカスの誉め言葉にアナコンダは思わず笑った。
しかし突然、アナコンダの指に嵌められていた
髑髏の魔導輪ザルバがしゃべり出した。
その声はかなり緊迫していた。
アナコンダ!眼の前にホラーの気配だ!」
「ああ、分っている!」
アナコンダは茶色の瞳で目の前にいる日本人の男性兵士を睨みつけた。
同時にヘリコプター内は一触即発の雰囲気となった。
しばらくして日本人の男性兵士はくクククッと笑った。
「すごいなあーもうばれちゃった?」
日本人の男性兵士は黒い帽子を取った。
どうやら青年らしい。
やがて日本人の男性兵士はニヤリと笑った。
「はじめまして!僕は真魔界竜アナンタ!」
「まさか?あのメシア一族の全ての魔獣ホラーを喰った。」
「そうさぁ!今は凄くお腹いっぱいでねぇ!」
「何の用だ!捕食以外にホラーがする事など!」
するとアナコンダはまたクククッと笑った。
「まあまあ、そんなに警戒しなくてもいいさ!
ただ僕は自己紹介と挨拶ついでにある事を伝えたくてね。」
「ある事?まさか?あんた?」
「そう、僕の目的はジル・バレンタインを手に入れる事!
僕!いやメシア一族の寄る辺の女神になって貰う!
「なんだって!!」とアナコンダ
「まさか?ジルが……」と魔導輪ザルバ。
アナンタはよっこらしょと席を立った。
「それじゃ!ジルや鋼牙によろしくね!」
アナンタは生身のまま高度1000mの高さにあるヘリから飛び降りた。
やがてオレンジ色の閃光がアナンタの全身を包んだかと思うと
アナンタは日本人の男性兵士の肉体から前に彼女が見たのと同じ
千の頭を持つオレンジ色に輝く巨大な大蛇となり、
あっと言う間に闇夜の彼方に飛び去った。
それをアナコンダと魔導輪ザルバはヘリの
入口から身を乗り出し、黙って見送った。
 
(第9章に続く)