(第20章)墓石

(第20章)墓石
 
「そうだよ。あのバイオテロの事件の犯人は彼らだよ。
でも彼らもまたFBCのある男に利用されてウィルス兵器の変異データと
ワクチンを創る為に必要な臨床データを手に入れた後に用済みになり、
処分された不正なウィルス兵器及びBOW(生物兵器)研究開発の
人体実験の被害者でもあるんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「テロリストまで利用するなんてまるで悪魔だな。
いや俺様達一部の魔獣ホラー達も同じか……」
ザルバは小声でぽつりとそう言った。
トレヴァー家は?」
「彼らもごく普通の一家だったよ。
父親のジョージ・トレヴァーはアメリカでは有名な建築家でね。
貴族の洋館や仕掛け扉やカラクリの名人でね。
その為、オズウェル・E・スペンサーと言う男に依頼されて
アンブレラ社のT-ウィルス研究開発の為の研究所を
世間から隠す為に洋館を建築させた。
その後は用済みとなった父親のジョージは捕えられ、
試作中のT-ウィルスの投与実験に利用された。
更に父親を心配して尋ねて来た
母親のジェシカと娘のリサも同じく捕えられ、
同じく試作中のT-ウィルスの投与実験に利用された。
そして家族全員、短い人生、いや、特に娘のリサさんは
試作中のT-ウィルスのせいで不死身の肉体となり、死にたくても死ねない身体になり、最後はアルバート・ウェスカー
言う男の手によってようやく死ぬ事が出来たそうだよ。」
「死にたくても死ねない身体か……」
「本人には余りにも辛すぎるな。」
「娘のリサは14歳から25歳まで
ウィルスの投与実験を受けていたそうだ。」
「酷いな。14歳ならまだ子供じゃないか!!」
鋼牙はマツダ代表の言葉を聞いている内に
自然と心の中に怒りが湧き上がって来た。
「全くだぜ!人間の中にもこんな酷い連中が!」
ザルバも怒りを感じ、カチカチと歯を震わせた。
「そう、我々が亡くなった後に現場から遺体と遺骨を回収し、
ウィルスの滅菌の為の抗ウィルス剤投与やその他、
様々な処置の後、このお墓に埋葬出来たのは
ほんの氷山の一角でしかないんです。」
「つまり?まだ世界中の何処かで彼らの様な
人体実験に無理矢理させられた
被害者の遺体が何処かにあると?」
「そうですね。まるでゴミの様に捨てられてね。
今後もこのような悲しい人達が増えて行くかも知れませんね。」
そう言うとマツダ代表は鋼牙の背後にあるもう一つの墓石の前に立った。
鋼牙は振り向いて幾つかの墓石に刻まれた名前を見た。
『ベイカー家』
『父親・ジャック・ベイカー』
『母親・マーガレット・ベイカー』
『長男・ルーカス・ベイカー』
「彼らもごく普通の農家をしていた家族だったんだけど。
ある日、暴走したBOW(生物兵器)の少女と女性工作員
家に招いた事で運悪く被害に遭ってしまったんだよ。
結果、『ベイカー家』は3年間も暴走した
BOW(生物兵器)に苦しめられ続けていた。
但し、ベイカー家の長男のルーカスさんは別だったようですが。
そして長男のルーカスさんはクリス・レッドフィールドさんの
手によって引導を渡されました。
長女のゾイ・ベイカーさんはクリスさんや
ある老人の協力により、どうにか無事保護されました。
しかしその後、何故か彼女が保護されていた
ルーアンブレラ社極秘保護施設から消息不明になっています。
そこでBSAAは秘密組織ファミリーに何らかの関係
があるとしてブル―アンブレラ社のクリスと共
現在極秘に彼女の行方の調査を続けていました。
鋼牙はマツダ代表から失踪したベイカー家の
長女のゾイ・ベイカーの写真を渡された。
「極秘に彼女の行方の調査を行った結果、彼女は、
いや彼女の容姿に良く似た女性が『秘密組織ファミリー』
に所属している事が判明しました。」
「そうか、彼女が極秘保護施設から
抜け出して秘密組織ファミリーに入ったと?」
「まあ、あくまでも可能性に過ぎません……」
マツダ代表は『ベイカー家』から離れた場所にある墓石を指さした。
「あれが暴走したBOW(生物兵器)の少女だよ。
彼女もまたリサ・トレヴァーと似た境遇だったようだね。」
鋼牙は墓石の名前を見た。
墓石には『エヴリン』と刻まれていた。
「まさか?少女だったのか?」
「ええ、人造人間でまだ10歳前後の幼い少女だったそうだよ。」
「10歳の子供に人殺しのウィルスの兵器を与えたのか?」
「正確にはウィルスに感染した新種の特異菌だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
鋼牙は信じられず両目を丸くしたまま硬く口をつぐみ、
茫然と『エヴリン』のお墓の前で立ち尽くしていた。
その時、ふとお墓の台座にオルゴールが載せられていた。
するとマツダ代表が気付いた様でオルゴールの蓋を開けて置いた。
同時に優しい音色がゆっくりとしたメロディで流れた。
ラン♪ラララ♪ラーララ♪ラーラララーラーラーラン♪
ララン♪ラーララ♪ラーララ♪ラーラーラーラン♪
それから同じ優しい音色とゆっくりとしたメロディが続いた。
「この曲は?」
「この曲はエヴリンって子が大好きだった曲でね。
エヴリンが起こしたバイオハザード(生物災害)に遭ったけれど
あの子の母親代わりをしていた
工作員の女性のミア・ウィンターズさんの依頼でね。
特別に私が作ったオルゴールだよ。
世界で一つしかない彼女だけのオルゴールをね。」
「美しいメロディと音色だ!」
「そうですね。」
マツダ代表はオルゴールのタイマーをセットした。
「これが我々、こちら側(バイオ)の世界の厳しい現実です。
冴島鋼牙さん。ザルバさん。」
鋼牙、ザルバ、マツダ代表の周りにはやや重苦しい空気が流れた。
「だからこそ!我々、BSAAやクリスさんの妹のクレアさんと
バリー・バートンさんの娘のモイラさんが所属するテラセイブや
各国のBSAA支部バイオテロ評価委員会、本部、各国の政府や
国連が一丸となってこの問題に取り組み、一人でも多く、
その人体実験にされて遺体にされて捨てられる悲しい一般人を救い出し、
確実に人数を減らして行かねばなりません。
それが今のこちら側(バイオ)の世界に必要な事でしょう」
「ああ、そうだな」
その時、マツダ代表と鋼牙はふと気配を感じた。
続けて2人は不意に沢山のお墓のある地下室の隅っこの暗闇に目を向けた。
するとほんの一瞬だけカブトムシの仮面を被った
女性らしき人影が見えた気がした。
その後、お墓のある地下室の分厚い扉の前で
鋼牙はふとあのカブトムシの仮面の女性が気になった。
彼は地上のBSAA北米支部の迷路の様な廊下にある
使用されていない幾つかの部屋をしらみつぶしに探して見る事にした。
その時、マツダ代表の赤いスーツのポケットに
しまっていた携帯が鳴り始めた。
「失礼!電話の様ですね」
マツダ代表は電話に出た。
「そっ!そうですか?分りました!現場へ行きます!」
「何かあったんですか?」
「殺人事件がBSAA北米支部内で発生しました。
直ぐに現場へ行きましょう!」
「分った!直ぐに行こう!」
鋼牙とマツダ代表は直ぐに殺人事件が起こった
BSAA北米支部の医療施設内のリネン室へ向かって走り出した。
 
マンハッタンにある秘密組織ファミリーの
本部に当たる大きなお屋敷の娯楽室。
短く切った黒い髪の日本人の青年は椅子に座り、
立派なグランドピアノを弾いていた。
弾いているクラシック曲はベートベンの月光である。
そして彼はベートベンの月光を引きながら自分の過去を回想した。
僕はかつて向こう側の世界(牙狼
の世界ともこちら側(バイオ)の世界とも違う
唯一絶対神YHVAが支配する
第3の世界『今日も安寧が明日も続く世界』で
天使や唯一絶対神YHAVAから
人々を救済しようと多神連合に属していた。
そして終わり無きLOWの闘いを続けていた。
でも僕は多神連合の神々を駆り立てて闘いを
続けても意味は無いと感じていた。
そして人間達からは偽メシアと蔑まれていた。
蔑まされ続けるのも正直僕は嫌気がさした。
そんな時、僕は真魔界から出現したメシアの涙と
名乗る『エイリス』から闇の魔導書を貰った。
闇の魔導書には僕が『真魔界を支える
真魔界竜として転生する方法』が書かれていた。
僕は仲間の多神連合の神々を迷わず裏切った。
邪魔する多神連合の神々と過去に取り込んだ無数の人間の魂を
生贄に僕は真魔界竜として転生し……自由の身となった……。
そしてベートベンの月光の曲はアナンタの回想を終えたと同時に終わった。
アナンタは目を細め、月光に照らされた満月を見た。
「そして今宵、ジル・バレンタイン
寄る辺の女神となり、僕と結ばれるのさ。」
アナンタはそう呟くと口元を緩ませ、静かに微笑んだ。
 
(第21章に続く)