(第23章)月光

(第23章)月光
 
一瞬で緑色の異形の戦士アンノウンに変身したジルは
両腕を天に向かって勢い良く突き上げた。
同時にまるで野獣のような凄まじい咆哮を上げた。
「ウニャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
クエントは異形の戦士の姿を見た時、
とあるニューヨークタイムズ紙の新聞を思い出した。
「貴方がアメリカのニューヒロインでしたか!!」
クエントはフフフッと笑った。
その姿はニューヨークタイムズ紙の記事に
載せられていた写真そっくりだった。
2対の緑色の太い触角。
燃える様な昆虫に似た複眼。
ひし形に開閉する大きな口の上顎に4対の鋭利な牙が付いたマスク。
そして真っ赤に輝くポ二-テールの髪は風になびいていた。
BSAAの青いジャンバーはさっきの
ベルトと全身が真っ赤に発光した瞬間、
深い胸の谷間、両乳房のくっきりとした輪郭に沿って
緑色の分厚い鎧に覆われていた。
両肩から2対の緑色の翼が生えていた。
BSAAのジャンバーに覆われたしなやかな
両腕も緑色の円形の分厚い鎧に覆われていた。
また関節も灰色の昆虫に似た節に変わっていた。
BSAAのズボンに覆われた大きな丸いお尻も一瞬で
上半身のBSAAのジャンバーと同様、
真っ黒に輝くラバースーツに覆われていた。
真っ黒に輝くラバースーツに覆われた
長くしなやかな両脚も緑色の鎧に覆われていた。
「その格好!いいですね!それに比べて私は……」
クエントは苦笑いを浮かべつつも両手にマシンガンを構えた。
「いや!貴方もカッコいい男よ!だって!貴方の家に
御月製薬に雇われた傭兵の素体ホラー達が押し入った時、
烈花を守りながら全部!封印しちゃったんでしょ?
しかもセックスしながら!」
するとクエントは恥ずかしさの余り、顔を真っ赤にした。
「あれは……ですね……って!私を変態扱いするのは止めて下さい!」
「フフフッ!自白したわね!じゃ!メルギスを倒すわよ!」
アンノウンに変身したジルは燃える様な複眼でメルギスを見据えた。
クエントも茶色の瞳で同じくメルギスを見据えた。
しかしその時、不意にアンノウンに変身したジルは
全身の緑色の鎧に強い衝撃が走るのを感じた。
「きゃっ!なにっ?なんなの?」
「ジルさん!大丈夫ですか?」
突然、起こったジルの異変にクエントは幾分焦った。
間も無くして今度は夜の空気を震わせ、
美しいクラシックのメロディが聞え始めた。
「ん?これは?ベートベンの月光ですか?」
クエントは夜の空気を震わせるその音楽が
何処から聞こえるか周囲を見渡した。
丁度、公園の前にジョン・C・シモンズの大きな屋敷が見えた。
どうやらベートベンの月光は彼の大きな屋敷から聞こえるようだった。
その間にもジルの異変は続いた。
ジルは再び両腕を天に向かって今度はゆっくりと突き上げた。
同時にまるで野獣のような凄まじい咆哮をゆっくりと長々と上げた。
「ウニャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
やがて彼女が纏っている緑の異形の戦士アンノウンの鎧に変化が起こった。
2対の太い触角は緑色から輝く金色に変色した後、更に太く長く伸びた。
その形はまるで大きな三日月の様な形だった。
続けて両肩の2対の緑色の翼は三日月形に
大きく長くなり、七色に強く輝きを帯び始めた。
更に彼女の深い胸の谷間の緑色の分厚い鎧が
左右に大きくバカッと円形に開いた。
そして内部から金色に輝く満月の形をした大きな宝石が現われた。
また腰のベルトのバックルに付いている
球体の宝石も黄金に輝き始めていた。
「これは?フォームチェンジでしょうか?」
クエントはいきなり目の前で起こったジルの異変に戸惑いを隠せなかった。
しかしジルの呼びかけに直ぐに我に返った。
クエントが見るとさっき変身する前にジルが放った赤い光により、
周囲が明るく照らされ、自らの正体をあぶり出された事で焦った
メルギスは手早く2人を燃やして殺そうと
再び両手から真っ赤に輝く電撃弾を放った。
しかし2人はすぐさままた左右に前転し、回避した。
すかさずクエントはマシンガンの引き金を引いた。
放たれたホラー封印が込められた特殊弾は全てメルギスに直撃した。
メルギスは痛みで甲高く吠えた。
メルギスの赤い身体からは大量の赤い木の破片が周囲に飛び散った。
またクエントはもう一度リロードし、マシンガンを放った。
メルギスは怒りの咆哮を上げ、クエントに突進して来た。
クエントはそれを紙一重で右側に回避した。
「今です!ジルさん!」
クエントの呼びかけにジルは素早く反応した。
ジルはひし形の大きな口を開いた。
「ウニャアアアアアアアアアアアッ!」
ジルは野獣の咆哮を上げた。
続けて両手の甲からニョキッニョキッと長く黄色い鉤爪を生やした。
ジルは両足を踏みしめ、メルギスに向かって大きくジャンプした。
両手の甲から伸びた黄色い鉤爪をメルギスの胸部に向け、急降下した。
ジルは両手の甲から伸びた長く黄色い鉤爪に賢者の石の力を収束させた。
やがて集束された賢者の石の力は赤から黄色に変化し、より強く輝いた。
黄色に輝く両手の鉤爪はメルギスの胸部に突き刺さった。
「グッ!ギエエッ!」
「ウニャアアアアアアアアアッ!」
ジルは勢い良く両足を振り上げた。
そしてメルギスの下腹部を蹴り上げた。
「グエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
メルギスは大きく呻き、身体をくの字に曲げ、
真上に10m以上の高さまで打ち上げられた。
メルギスは甲高い断末魔の絶叫を上げた。
「ギイイイイイイエエエエエエエッ!」
やがて夜空に浮かぶ満月をバックにメルギスの身体は何度も連鎖的に
爆発を繰り返し、花火の様に夜空を赤く染め上げた後、完全に消滅した。
続けてジルの形態変化した異形の戦士アンノウンの鎧は強制解除され、
元のBSAAジャンバーを着たジルの姿に戻った。
クエントは息を切らせて、ジルの元に駆け付けた。
「ジルさん!とにかく命が無事で何よりです!」
「心配かけちゃったわね!」
「ああ、はい、本当に死んじゃったかと・・・・」
ジルはその言葉を聞いた瞬間、複雑な表情を浮かべた。
彼女はまたクエントを心配させたくなかったので
すぐさま自分の表情を隠した。
ふとクエントが気付くと先程まで聞こえていた
ベートベンの月光は既に静かに止んでいた。
2人は無事、メルギスを封印した後、公園の外に停めてあった
BSAAの特殊車両に乗り、
ジョン・C・シモンズとピアノでベートベンの月光
を引いていたアナンタのいる大きな屋敷へ向かってクエントは運転した。
勿論、メルギスに噛まれた腕は既にジルが消毒を済ませて、治療していた。
彼女が巻いた包帯はBSAAのジャンバーに隠れて見えなかった。
その後、BSAAの特殊車両はジョンの大きな屋敷の門の前で停まった。
門の前にはこの大きな屋敷の主、ジョン・C・シモンズが立っていた。
そしてジルはBSAA特殊車両から降りた。
クエントは心配そうな表情を見せた後、
再びBSAAの特殊車両を走らせ、去った。
ジョン・C・シモンズは一人になったジルを大きな屋敷の食堂に案内した。
食堂は昔見た洋館と同じ、物凄い長さの四角の木のテーブル。
そして長四角の木のテーブルの上には
茶色のタペストリーと白い皿が乗っかっていた。
更に大体1000人位が座れる数のピンク色の木の椅子が置かれていた。
更に磨き上げられた新品の時計から
カチカチカチカチと時計の音が聞こえ続けていた。
ジョンとジルはとりあえず椅子に座った。
「さて、君には我々魔獣ホラー・
メシア一族のカルキ(救世主)になって貰う。」
「そして!あたしは……貴方達魔獣ホラー達の母になるの?」
「そうさ!君はあの外神ホラー・ニャルラトホテプが持つ賢者の石、
つまり始祖ウィルスの力を受け継ぐ者だ。もうすでに知っていると思うが。
君は人間を超越し、スペンサーやウェスカーに代わり、
神になる資格を得た。
もっとも今は我々、メシア一族の地母神になるがね。」
「あたしは人間を超越する気なんてない!あたしは純粋な人間でいたい!」
「だが残念ながら君は私の取引に応じた!
君はもう呪われた運命からは逃れられない!
いい加減観念したまえ!ジル・バレンタイン!往生際が悪いぞ!」
ジョンは両瞳を爛々と青く輝かせ、獣の唸り声を上げ、そう言った。
するとジルの青い瞳が微かに左右に何度も揺れた。
それはまるで牙を向いた獣に怯えた幼い少女のような瞳だった。
「心配ない簡単な事だ。お母さんと
お父さんが君を作った事と同じ事をすればいい」
するとジルは震える唇でこう答えた。
「わ、分ったわ……あいつとセックスをすればいいのね」
ジルの答えにジョンは満足げな微笑を浮かべ、こう答えた。
「そうだ。いい子だ!ジル・バレンタイン!」
彼は優しく右手で彼女の頭を撫でた。
その顔を屋敷の大きな窓から差し込んだ月光が優しく照らした。
 
(第24章に続く)