(第6章)遭遇

(第6章)遭遇
 
2人は食堂の先の木の床が長々と続く廊下に出た。
その時、下の方に続く廊下の先で物音が聞えた。
烈花とクエントは無言でそれぞれ武器を構えた。
そして慎重に下の方に続く廊下を歩き、先へ進んだ。
下の方の廊下は短く、その先は曲がり角になっていた。
最初に烈花が廊下の曲がり角を曲がった。
廊下の曲がり角の先には人型の何かが見えた。
しかも人型の何かの背中は緑色の無数の蔦が
絡み合った植物の様な姿をしていた。
恐らくスーザンを追いかけ回した
人型の植物の怪物はこいつだろうと烈花は直感した。
その人型の植物の怪物はその場で屈みこみ、両腕の触手状の蔦を曲げ、
10対の赤い鉤爪の付いた両手で何か大きな肉を掴み、
一心不乱に食べていた。
まるで必死に空腹を満たそうとするかのように。
間もなくしてその人型の植物の怪物は背後にいる烈花の存在に気付いた。
そしてゆっくりと緑色の首を曲げ、真っ赤に輝く無数の牙の付いた
つぼみの形をした頭部を彼女に向けた。
そしてその人型の植物の怪物は両手に持っていた
大きな肉を床にボトリと落した。
濡れた雑巾を叩き付ける鈍い音と共に大きな肉が転がった。
流石の烈花も青ざめ、思わず息を飲んだ。
その大きな肉は人間の頭部だった。
しかもその人間の頭部の顔面の半分の肉は食い尽され、
頭蓋骨が露出していた。
続けて人型の植物の怪物は赤みを帯びた植物の根に似た
両脚の膝をゆっくりと持ち上げた。
その後、10対の指の付いた両足で赤い床を踏みしめ、
ゆっくりと立ち上がった。
ゆっくりと立ち上がった人型の植物の怪物は
そのまま緑色の触手状の蔦の両腕を伸ばした。
そしてゆっくりと緩慢な移動速度で烈花の方に接近して来た。
ゆっくりと緩慢な移動速度で接近してくる人型の植物の怪物に向かって
烈花は両手にハンドガン・サムライエッジを構え、迷わず引き金を引いた。
ダアン!ダアン!ダアン!ダアン!と3発の銃声がした。
放たれたハンドガンの特殊弾はその人型の植物の怪物の
無数の蔦が複雑に絡んだ緑色の胴体に命中した。
しかし人型の植物の怪物は平気らしく、
そのままどんどん烈花の方へ向かって行った。
間も無くして人型の植物の怪物は
10対の赤い鉤爪の付いた両手で烈花の両肩を掴んだ。
やがて人型の植物の怪物の真っ赤に輝くつぼみの花弁を大きく開いた。
大きく開いた花弁の内側には無数の牙が並んでいた。
それとほぼ同時に襲われている烈花の元にクエントが駆け付けた。
「間違いありません!こいつは!プラントデッド!」
「うわっ!それは分ったから!こいつをなんとかしてくれ!」
「了解です!」
クエントは真横から人型の緑色の怪物に向かって銃口を向けた。
続けて彼はマシンガンの引き金を引いた。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!
放たれたマシンガンの半分の特殊弾は
人型の植物の右腕やわき腹に命中した。
人型の植物の怪物はそのまま吹っ飛ばされ、
真横の白い壁に叩き付けられた。
しかし人型の植物の怪物は「ううああああ」と呻くような声を上げた。
またしぶとくゆっくりとオレンジ色のソファーから立ち上がろうとした。
そこに烈花は真っ赤に輝くつぼみの頭部に向かって
ハンドガン・サムライエッジの引き金を何度も引いた。
やがて放たれたハンドガンの特殊弾は人型の植物の怪物の真っ赤に輝く
無数の牙の付いたつぼみの頭部に続けざまに命中した。
同時にビシャアッと言う大きな音と共に頭部はスイカの様に粉々になった。
やがて周囲の床に赤い大きな花弁がヒラヒラと舞い落ちた。
頭部が破壊されたと同時に人型の植物の怪物は
二度と立ち上がる事は無かった。
そして木の床には大量の赤い血溜まりが出来た。
なんとか撃退したクエントと烈花は先程、人型の植物の怪物が喰っていた
反メディア団体「ケリヴァー」の生き残りだと
思われる頭部の無い男性の遺体に近づいた。
その脇にはもぎ取られた食い掛けの男性の頭部が無造作に転がっていた。
既にその男性はさっきの人型の植物の怪物に食い尽され、
今はもう見る影も無かった。
彼は床に名札を見つけた。
名札には『パルカス・グリーム』と書かれていた。
更に彼の遺体のすぐ傍に書き捨てたメモが落ちているのを烈花は気付いた。
彼女はすぐに彼が書き捨てたメモを拾った。
スティーヴン・キングのキャリーの小説の一節の様だ)
「あいつ、お前は悪魔の申し子だ!」
その時、不意に背後で女の子の笑い声が聞こえた。
烈花とクエントは素早く振り向いた。
するとあの10歳の女の子『R型』が立っていた。
「この人はね。馬鹿な大人なの。だから死んじゃったの。」
「『R』!そんな事を言うのは!止めるんだ!!」
すかさず烈花はまるで母親が子供を叱り付ける様な口調でそう言った。
「どうして?馬鹿な大人なのに?
あたしの大事な宝物を取り上げた馬鹿な大人なのに?
馬鹿でしょ?こいつ!こいつ馬鹿なのよ!
大人になっても子供じゃないの?」
「いい加減にしろ!!『R』!もう!こんな事は止めるんだ!」
「嫌!絶対!嫌よ!あたしは馬鹿な大人達に復讐するの!」
「そんな事をしても!何の解決にもならない!」
「別に解決しなくていいもん!みんな生きながら苦しんで死んでしまえば!
あたし!それでいいもん!だから!
みんなで『生きながら苦しむダンス』を踊りながら!」
「私達は貴方の復讐を止めさせます!それが大人の責任ですから!」
「いーだ!止めたかったら!ここまでおいで!バーカ!バーカ!」
『R型』は舌を出してべろべろばーをした。
その後、キャハハハハハッとけたたましく笑った。
『R型』は長々と続く廊下の上の方を一目散に駆け抜けた。
「まて!」
「待ちなさい!」
2人はすかさず『R型』の後を追跡した。
しかし『R型』は意外と足が速く、なかなか追いつけなかった。
そして長い廊下の奥の大きな茶色の扉を開き、あっと言う間に逃げ込んだ。
2人も大きな茶色の扉に追いつき、開けようと試みた。
だがいきなり茶色の扉の内側でバリバリという大きな音が聞えた。
同時にさっきまで『R型』が問題なく開けて入れた筈の茶色のドアは
押そうが引こうが全くビクともしなくなっていた。
「あれ?あれ?開きません!」
「どうやら『R型』は茶色の扉の内側を多分、
植物の蔦か大木か何かで封鎖したな」
「という事は通行不可能ですね。くうっ!悔しい!」
「他の道を探す他なさそうだな。」
「そうですね……」
クエントはがっかりした表情で目の前の茶色の扉を見た。
「こっちの扉はなんだ?」
烈花は茶色の大きな扉の右側にあるピンク色の扉を指さした。
そして直ぐにドアノブに手を掛けて回したが
鍵が掛っているらしく開かなかった。
ドアノブの方を良く見ると剣の模様が刻まれていた。
「どうやら剣の鍵が必要なようですね」
「おいおい、探すのか?」
「当たり前です。いつも私達はそうやって捜査していますから。」
「めんどい……」
「ぼやかないで下さい!」
クエントと烈花はしばらくこの先は進めそうに無いので一度、
パルカスの死体が転がっている曲がり角のある下の方に続く
廊下に戻る途中、烈花は茶色の扉を見つけた。
クエントが先頭に金色のドアノブを回し、先へ進んだ。
そこは青と緑の植物の模様の付いた
タペストリーに覆われた長い廊下だった。
長い廊下の右側には赤いドレスを着た女性の絵画が飾られていた。
2人は無言で黙々と先へ進んだ。
やがて2人の右奥の壁には白いドレスの
中世の女性の絵が飾られているのが見えた。
「誰の絵だろう?」
「知りません」
更に白いドレスの中世の女性の絵が
飾られている右奥の壁の先は長い廊下になっていた。
その長い廊下の先は工事中の為、
完全に封鎖されており、通る事は不可能だった。
仕方が無くクエントは曲がり角にあった茶色の扉を開けた。
その先は長い廊下では無く、円形の大きな部屋だった。
 
(第7章に続く)