(第5章)種と卵

(第5章)種と卵
 
烈花とクエントはそれぞれ武器を構え、慎重に先へ進んだ。
間もなくして大きな四角い構造の長い廊下の右側中央の位置に
開きっ放しの豪華な装飾品が施された
ドアの付いた部屋がひとつだけ見えた。
そこでクエントはまずはこの開きっ放しの豪華な装飾品が施された
大きなドアの付いた部屋の中を探索する事にした。
「恐らくあそこがシイナ・カペラ氏の部屋の筈です。」
「そうだな、この長い四角い廊下にあるのはこの部屋しかないからな。」
2人は武器をそれぞれ両手で構え、開きっ放しの
豪華な装飾品が施されたドアを通り、部屋の中へ慎重に足を踏み込んだ。
周囲には周期的なリズムの時計の
カチカチカチカチという音が聞こえ続けていた。
そこはどうやら豪華なスイートルームだったらしい。
部屋の周囲には高価な壺や絵画が壁や大理石の机の上に置かれていた。
そしてクエントと烈花の目に最初に飛び込んで来たのは。
シイナ・カペラの上着と下着と思われる衣服が何者かの手によって、
無残にも細かくバラバラに引き裂かれて
木の床に散らばっている光景だった。
既にこの部屋にいたと思われるシイナ・カペラの姿は影も形も無かった。
しばらくの沈黙の後、最初に烈花が静かに口を開いた。
「おい、一体?この部屋で何があったんだ……」
「良く分かりませんが、かなり酷い出来事が
あった事は間違いないようです。」
クエントは両手でマシンガンを構えたまま彼女の部屋の
黄金の花柄の装飾品が施された白いシーツのベッドの周囲に目を向けた。
つられて烈花も彼女の部屋の豪華な黄金の花柄の
装飾品が施されたベッドの周囲に目を向けた。
2人は気持ち悪くなり、気分が最悪になった。
彼女の部屋の黄金の花柄の装飾品が施された豪華なベッドの周囲の床一面に
大量の透明でネバネバした粘液に包まれた植物の種子と卵子が融合した
名状し難い冒涜的な球体(恐らく受精卵)が無数に付着していた。
その数は尋常では無く、豪華なベッドと
大理石の机以外、既に足の踏み場もなかった。
クエントは早速、ジェネシス改良型を懐から取り出した。
そして魔戒フィルターで木の床に付着していた
大量の粘液に包まれた植物の種子と卵子が融合した様な
名状し難い冒涜的な球体(受精卵)を分析した。
その結果、それぞれ微量の魔導力や邪気を検出した。
つまり新型のウィルス兵器『T-エリクサー』
に含まれる賢者の石の力である。
シイナ・カペラの部屋を調べていた烈花とクエントは
豪華な大理石の机の上に彼女が遺したと思われる手記を見つけた。
2人は調査の為、シイナ・カペラ氏が遺した手記のページを開いた。
「あたしはTV局で働く元気な女の子。
あたしの母は反メディア団体『ケリヴァー』に多額の資金を提供し、
TV、ゲーム、携帯、スマホ等の
メディアツールの撲滅運動に協力しているの。
母は未だにゲーム脳を信じているようで。
あたしの好きなテレビゲームを取り上げられた。
大人になったあたしは今の恋人のケインに出会った。
そして母により、無理矢理進められて
反メディア団体に強制的に入れられた。
ケインも反メディア団体に資金を提供している父によって
あたしと同じく無理矢理、反メディア団体に入れられたらしいわ。
 
リーダーの若村さんはHCFのライザー氏と連絡して
新型のウィルスと『R型』と言う女の子を取引か何かで手に入れたらしい。
あたしは今回のバイオテロの犯行予告動画を各動画サイトや
ターゲットの会社に送り付ける役割を与えられた。
あたしは嫌だった。しかも『R型』は女の子なのよ!
まだ10歳の可愛い女の子!あの子を利用するなんて!
 
(ここからは殴り書きで新しく書かれている。)
R型が暴走した!!若村!!あいつのせいで!!
あいつのせいでみんな植物人間になった!!
恋人のケイン以外誰も生きていないの??
早く止血剤と包帯でケインを治療して!!
さっさとこの呪われた館を出るわ!!こんな目に遭うなら!!
ケインと一緒に家出して、別の国で結婚式の相談をすればよかった!!
もう母のゲーム脳なんかクソ喰らえよ!!
あたしは天気予報になりたかったのよ!!
あたしは有名な天気予報士になり!
お茶の間の人々に愛されて!!ケインに愛されて!!」
彼女の手記を読んでいた烈花はいたたまれない表情になった。
何故ならカペラが遺した手記の文章には急に発生した
バイオハザード(生物災害)に巻き込まれた被害者の
最後の様子や気持ちが書きこまれていたからである。
それはこの洋館で発生したバイオハザード(生物災害)
が1998年に黄道特急事件や洋館事件と同じ位、
非常に深刻な事態である事を物語っていた。
とは言えこの洋館内で彼女がまだ
生き延びているかどうかも現時点では分らなかった。
だが、早く暴走している『R型』を止めなければ!
またかつてのラクーンシティやシーナ島やテラグリジアの様な
バイオハザード(生物災害)による大惨事を防がなくてはいけない。
とにかく新型ウィルス兵器『T-エリクサー』の感染源である
『R型』の暴走を止め、彼女を媒介にこの洋館内に
広がった新型ウィルスの無力化と鎮圧。
そして今回の事件に関わっている2人の容疑者。
つまり企業組織HCFの産業スパイのライザー氏と
反メディア団体ケリヴァーのリーダーの若村氏の逮捕。
そして企業組織HCFと反メディア団体ケリヴァーの間で行われた
新型のウィルス兵器と媒介用の子供型BOW(生物兵器
裏取引による売買の実態の解明をしないと。
「まずはこの洋館内に隠れている『R型』を見つけないと」
「ああ、できれば『R型』は倒したくない……
つまり殺したくないんだ……。
だから……俺は……自分が『R型』のお母さんだから……
どうにか説得して救い出したい。」
「そうですね。何とか説得してみましょう。」
クエントは懐からT-エリクサーの
ワクチンの入った小さなケースを取り出した。
「大切にしまってくれ。彼女を説得出来たら……」
「もちろんです!」
クエントは慎重に服の懐にしまった。
「さあ!捜査再開です!『R型』を見つけましょう!」
「ああ、分った!!」
さっきまで気持ちが沈んでいた烈花はどうにか元気を取り戻した。
その後、クエントはこのスイートルームの部屋の隅に
救急セットが転がっているのが見えた。
クエントはその部屋の隅に転がっている救急セットを回収した。
中を開けると止血剤と包帯とグリーンハーブと
レッドハーブが調合された薬が入っていた。
そのクエントの様子を烈花はスイートルーム
の入口前で複雑な表情で見ていた。
2人は再び一階にある食堂全体が見渡せる大きな四角い構造の
赤いカーペットが敷かれた長い廊下に出た。
「次は生存者のスーザン氏が人型の植物の怪物と
カブトムシの仮面を被った女性に遭遇した一階の食堂を調査しましょう」
「ああ、分った!」
烈花とクエントは二階のホールの正面にある大きな階段を降りた。
2人はそれぞれマシンガンとハンドガンのサムライエッジを構えた。
続けてクエントが烈花の先頭に立った。
彼は慎重に一階大きなホールの右側の茶色の扉を押して開けた。
そこはクエントが睨んだ通り、あの大きな長四角の食堂だった。
食堂には物凄い長さの四角の木のテーブルがあった。
そして長四角の木のテーブルの上には
茶色のタペストリーと白い皿が乗っかっていた。
更に大体8人位が座れる数のピンク色の木の椅子が置かれていた。
白黒のチェスの様な模様の床、左右の壁には女性の絵画と
美しい風景が書かれた絵画が飾られていた。
その近くには大きな四角い古びた時計があった。
どうやらまだ動くらしく時計のカチカチカチカチ
という音が未だに聞こえ続けていた。
真食堂の正面には大きな暖炉と大きな灰色のエンブレムと
小さなウッドエンブレムが飾られていた。
ふとクエントは小さなウッドエンブレムが
意外に簡単に取り外せる事に気付いた。
彼は小さなウッドエンブレムをこっそり取り外すと懐にしまった。
食堂の右側には大きな分厚い四角い棚が置かれていた。
さらにその分厚い四角い棚が置かれた周囲の壁は不自然にヒビ割れていた。
「どうやら、あのカブトムシの仮面の女性は
この壁を蹴破ったようですね。」
「そして彼女を逃がした後、分厚い四角い鉄製の箱で穴を塞いだと」
「もしかしたら!カペラ氏は生きているかも知れないし。
他にも『R型』の攻撃から逃れた生存者がいるかも知れない!」
「そうですね、この食堂の左側の壁に赤いドアがあります!
行ってみましょう!もしまだこの洋館内に
生存者がいるならどうにか保護しましょう!」
そしてクエントは食堂の右側の赤いドアの金色のドアノブに手を掛けた。
「そうだな!行ってみよう!」
烈花は再び元気を取り戻し、そう答えた。
そしてクエントは金色のドアノブを回し、ドアを開けた。
続けて烈花とクエントは食堂の先へ洋館内の生存者を捜し、
調査を続ける事にした。
 
(第6章に続く)