(第15章)政治とカネ

(第15章)政治とカネ
 
洋館の大ホールでゾイ・ベイカーは話を続けていた。
「私はあんた達、いやBSAAやブルーアンブレラに借りがある。」
「じゃ!貴方が?同盟の情報提供者ですね!」
「それじゃ!1998年製のタイプライターが置いてある木の机の上に
メモと兜の模様が付いた鍵が置いたのもあんただったのか?」
「ああ、そうだ!だから同盟の情報提供者だ。
あっ!そうだ!これを実は……」
ゾイが言葉を続けようと口を開いた時、無線機から何度も連絡音が聞えた。
ゾイは「待ってくれ!」と一声を掛けた後、
すぐさま無線機のスイッチを入れた。
「はい!こちらガドルT型」
「ジョン・C・シモンズだ!君が問い合わせた件だが。」
その後、しばらくゾイは無線でジョンと連絡を取り続け、
何度か「はい」「成程」と受け答えした後、無線を切った。
「ジョン・C・シモンズからですね」
「HCFとグローバル・メディア企業についての情報がどうとか?」
「ああ、こちらの秘密組織ファミリーの
構成員のスパイと情報屋を利用してね。
HCFとグローバル・メディア企業を調査した結果、
ある可能性が出て来た。」
「そのある可能性とは?」
「つまり!この『R型』の暴走事件の裏で
米政府の権力者が絡んでいた可能性だ。
しかも今年の大統領予備選挙に出馬予定の
民主党多数党内幹事の男のようだ。」
名前はフランシス・スペイシーだ
あんた達は必ずテレビで見た事ある筈だ!」
烈花は脳裏にテレビのホワイトハウスの討論会で野党と激しく議論し続ける
銀髪に立派な黒いスーツとネクタイをした男の姿が浮かんで来た。
「ああ!あいつか!その男は一体?裏で何をしていた?」
「順を追って説明する」
ゾイは大きく深呼吸し、話を続けた。
「フランシスは政府の為に試作の軍用AI(人工知能)や優秀な兵士、
もしくはBOW(生物兵器)やウィルス兵器等の研究開発用に
多額の資金をHCFとグローバル・メディア企業に
提供していた可能性がある。
彼と思われる人物から提供された
多額の資金はそれぞれの研究と開発費に利用された。
つまり、HCFではBSAA北米支部で回収した『R型』の研究。
更にアッシュ博士やダ二ア・カルコザ博士によるHCFの産業スパイの
リー・マーラの肉体にプラントE44の植物細胞を移植する改造実験に。
グローバル・メディア企業は試作の
軍用AI(人工知能)の開発に利用されている。」
「俺の娘の身体に埋め込んだって言う!あの軍用AI(人工知能)か!!」
「そうだ!その資金はその男から提供された可能性がある!」
「証拠は?物的証拠とやらは掴んだのか?」
「残念だが。どうやらフランシスと言う男は用心深い性格の様で。
それぞれの多額の資金に関係ありそうな資料やデータは
既に何処かに隠されているか処分されているようだ。
また関係する人物も既に何人か電車事故や
交通事故等を装って殺害されている。」
「ぐっ!くそっ!」と烈花は僅かに悔しさを滲ませ、
思わず地団駄を踏んだ。
「フランシスと言う男は反メディア団体
ケリヴァーによる非常に過激な活動も
かなり警戒していたようだ。いや、むしろ嫌悪感を募らせていた。」
「一カ月前にニュースで見ました。」
「ああ、迷惑極まりない活動だったな。
確かにあれは本人もかなり嫌だっただろう。」
「そうですね。彼らはニューヨーク中の学校や幼稚園、病院などの公用施設
ホワイトハウスの無断侵入、更にメディアを扱う各地のテレビ局、新聞社、
ゲーム会社に対する執拗な暴力や暴言、
殺人予告メールの送信を繰り返して」
「それはグローバル・メディア企業にも被害が及んだ様だ。
更に彼らはその企業の極秘研究施設に無断で潜入した結果
軍用AI(人工知能)の詳細な情報を知り過ぎた。
また命を狙われる立場に置かれても懲りる事も無く。
今度はその軍用AI(人工知能)の研究開発に利用された資金源が
政府の米民主党下院多数党幹事のフランクから
提供されたものだと突き止めた。
彼らは今年の予備大統領選挙に出馬する予定のフランシスをターゲットに
自分達が得た極秘研究所で開発と研究がされていた軍用AI
人工知能)の情報を自身のサイトにアップした。」
「そう言えば。その極秘研究所で開発と研究がされていたと言われている
軍用AI(人工知能)の詳細情報がアップされてから
二日も経たない内に彼らのサイトが閉鎖されましたね。」
「いわゆる政府の圧力と言う奴か?」
「そうだ!しかし彼らは『出馬を取りやめ!
軍用AI(人工知能)を創り出し!
世界中の人々を洗脳しようとしている罪を認めろ!フランク!』。
『メディアの悪魔・フランシス』
『メディアの権力者は消えろ!フランシス!』
とネット上のSNSに大量に投稿し、
彼の予備大統領選挙の活動を妨害した。」
「確かニュースでグローバル・メディア企業も
開発も否定していましたし……。
政府もフランク氏も軍用AI(人工知能
は開発していないと否定したと話題に。」
「ああ、全くの事実無根だと。
俺は政治に詳しくないから良く分らなかったが。」
「それでも彼らは執拗にフランシス氏に抗議文をパソコンに送り続け。
更にホワイトハウスに押し掛けて夜通しデモ行進を行い。
更にフランシス氏が選挙運動に出る度にデモ行進を行い続け。
彼の予備大統領選挙の活動を妨害し続けたと言う訳だ。」
「とすると恐らく彼は相当ストレスが溜まっていたんでしょう。」
「ああ、確かにそれだけの事をされれば流石の俺も気が滅入りそうだ。」
「ではゾイさんの話が真実だとするとこの洋館内の『R型』の暴走事件は
HCFとグローバル・メディア企業とフランシス氏が反メディア団体
ケリヴァーを壊滅させる為に意図的に
仕組んだ陰謀である可能性が高いですね。
これでHCFが『E型・エヴリン』の事故を再現する為に意図的に
『R型』を確実に暴走させるよう仕向けていた
可能性も信憑性を帯びてきましたが……。
肝心のフランシス氏を逮捕するのに必要な物的証拠となる多額の資金に
関係ありそうな資料やデータが既に何処かに隠されているか
処分されている上に何人かの関係者が電車事故や交通事故等を
装って殺害されているのでは証人もいないのでは捕まえられません。」
「それと壁画室でこんな封筒を見つけた。」
ゾイはがっかりするクエントに封筒を手渡した。
「壁画室なんてあったか?」
「烈花はキョトンとした表情でクエントの顔を見た。
「ああ、あんた達が来た一階の書斎と東の物置の近くにあった。
あんた達がモタモタ探索している内に
リーが壁画室の仕掛けを解いていたぞ!」
ゾイの説明に烈花は「なっ!なん!」と口を開きかけた。
「まあまあ、仕方ありません!さて!
その封筒には何が入っているのでしょうか?」
クエントはどうにか烈花の心を静めさせた後、
封筒を開封し、中身を確認した。
封筒の中には鎧の模様が付いた鍵が入っていた。
「どうやら鎧の鍵です。」
更にクエントは封筒から一枚の紙が出て来た。
烈花とクエントは封筒から出て来た一枚の紙を読み始めた。
どうやらさっき洋館から逃走したリー・マーラが書いたものらしい。
しかもこれはHCFの上層部に当てたメールの内容のようだ。
「HCF上層部のマイケル・ケイラーへ。
「『R型』を生物兵器として利用した場合の実戦データを回収済み。
また『R型』が拡散させたT-エリクサーに感染した事で突然変異、
もしくは2次感染で変異したクリーチャーのデータも回収済み。
反メディア団体ケリヴァーのメンバーのほとんどの死亡を確認。
しかしリーダーの若村はT-エリクサーに感染したものの
ウィルス耐性により人間の姿を留めている。
また若村の右腕のマイケル・ウォーレンも
不完全なタイラントとなっている。
だがいずれ肉体が維持出来ず腐り果てて崩壊すると見られる。
HCF産業スパイ・リー・マーラより。」
「じゃ!若村と言う男はまだ生きているのか?」
「はい!そうでしょう!ウィルスに感染はしていますが、
ワクチンさえ投与できれば!」
「助かるんだな?彼の命は」
「ああ、上手く投与すれば命は助かるだろう。」                                          
「あっ!続きが書いてあります!」
「なんだ?これは?まるで別人が書いたような文章だな……」
「ですね!もしかしたら?リーさんの
心の中に別の自我が存在しているかも?
どう考えても上記に書いたHCFの上層部に
当てたメールの内容とは無関係ですね。」
「まさか?彼女は二重人格、いや解離性同一性障害なのか?」
「いや……違うな……これは……彼女と契約した者の文章だ!」
ゾイ、クエント、烈花はHCFの上層部に当てたメールの続きを読んだ。
どうやら彼が貴方達にメッセージを残したいらしいので書き残します。
『R型』の暴走を止めんとする者達よ!
汝らが『R型』を生かすも死なすも私は構わぬ!
人間あらば!生死は流転する!
私は『R型』を怪物か人間か正体を定かにし!
『真なる母の存在と愛情を失い!愚かな人間の大人達によって!
子供の大事な宝物を奪われ!心を深く抉り傷つけられ!
汚され!貶められ!虐げられた『R型』の心を救うのを良しと判ずる。
しかし!心して参れ!『R型』がもたらした生物災害に屈し!
脱落する者は!幽遠なる死を意味すると知れ!
私は試す者!検察ホラー!ハ・サタン!」
「試す者?検察ホラー?ハ・サタン?」
「と言う事は?リーさんは魔獣ホラー?」
「魔獣ホラーとは?確か太古の昔から人間を
喰らい続けて来た魔界の住人だったな?」
「ああ、だが、こんなホラーの名前……聞いた事が無いぞ……」
 
(第16章に続く)