(第1章)遭遇

(第1章)遭遇
 
2017年。7月19日。
穏やかな広大なカリブ海を航行する一隻の船があった。
船にはアメリカの大学に通う大学生の5人の若い男性である。
大学生達はこのカリブ海の古い伝承と古びた地図を頼りに
このカリブ海の何処かに存在する人魚が住む幻の暗黒環礁を求めて
船の舵を取り、広大なカリブ海を10時間以上かけて航行し続けていた。
やがて大きな船の甲板に出た2人の大学生の男達は双眼鏡を片手に
頻繁に覗き込み、周囲の海上にめぼしい島が無いか観察していた。
しかし望遠鏡にも肉眼にも見えるのは広大な青空と
様々な形をした白い雲、そして大きな太陽だけだった。
幻の環礁らしきものは当然見えていない。
「おい!マジでここだろうな?」
一人の茶髪の短い髪の若い男のマルク・ウイラスが隣で古びた地図を
読んでいる黒髪の若い男のジミー・クライエッドに声を掛けた。
「ああ、多分、多分、ここの筈だ!」
ジミーはトントンと古びた地図の一点を指さした。
「全然見えないぜ!」
マルクは双眼鏡で周囲の海を覗き込み、不満に満ちた口調でそう言った。
「帰ろうぜ!」
「ああ、俺も賛成だ!」
「やっぱり!存在しないんだよ!」
再び船の甲板に出て来た残りの
2人の大学生の友人の男達は口々にそう言った。
「いや!いや!まて!ここなんだ!絶対に!ここなんだ!」
ジミーは再び今度は激しくトントンと古びた地図の一点を指さし続けた。
「おいおい、正気か?2日間か掛けてこの海域を探したんだぞ!」
「きっとその地図もでっちあげ!きっと嘘っぱちなんだよ!」
「そうさ!帰ろうぜ!早く!普通の人間の女と一発ヤリたいね!」
そう口々に言うと3人は甲板のテーブルを囲み、
暇つぶしにトランプで遊び始めた。
「ああ、ちくしょう!役立たず!」
ジミーはチッと舌打ちをした。
一方、マルクは双眼鏡で周囲の海を覗き込み続けていた。
しかしとうとう「駄目だ!何も見えん!」と言うと双眼鏡を降ろした。
「だけど……」
「ジミー!駄目なんだよ!ここには存在しないんだ!」
「マルク!そんな筈は無い!そんな筈は……」
マルクスと呼ばれた若い男は自信を失い掛けた口調で弱々しく反論した。
「はあージミー!そろそろ切り上げよう!
これ以上!ここにいても無理だよ!」
「だが!マルク!お願いだ!お願いだ!」
しかしマルクは大きく溜め息を付くとジミーから離れた。
3人は甲板のテーブルを囲み、
暇つぶしにトランプで遊び始めた彼らにこう伝えた。
「あと一時間探して見つからなかったら今度こそ切り上げるぞ!」
すると3人の大学生の友人達は口々に不満の声を洩らした。
「ええっ!」と大学生の友人のセバスチャン・マイヤー。
「まだ!探すのかよ!」と大学生の友人のフランク・オーカス。
「もう!勘弁してくれ!海は見飽きたよ!」
と大学生の友人のアンガス・フレッチャー。
「あと少しの辛抱だ!悪いが協力してくれ!」
すると3人の大学生の友人達は椅子から立ち上がると
双眼鏡を片手にそれぞれの持ち場に戻って行った。
それから1時間半が経過した頃。
不意に何処かからか美しい女性の歌声が聞えた。
そして思わず余りの美しさに3人の大学生は聴き耳を立てた。
「なんだ……歌声?」
「どっちの方角だ!」
「あっちだ!」
アンガスはセバスチャンの指さした方角を双眼鏡で確認した。
フランクも双眼鏡でセバスチャンの指さした方角を確認した。
すると遠くに小さく幻の暗黒環礁と思しきものが見えた。
「おいおい、マジかよ……」
「あったのか……」
「マジで……大発見じゃないか!」
すぐさまアンガスは別の方角から双眼鏡で
環礁を探しているジミーとマルクに報告した。
「見つけたぞ!幻の暗黒環礁だ!」
するとマルクは興奮した口調でこう言った。
「何処だ!」
「北の方角です!」
慌ててマルクはアンガスが指さす北の方角に向かって望遠鏡を向けた。
確かに遠くに幻の暗黒環礁らしきも島が海の上にあった。
「やった!やった!見つけたぞ!」
マルクとアンガスは思わずお互い興奮し、抱き合った。
それから直ぐに舵取り役のセバスチャンがすぐに操縦室に戻り、
船の方向を北の方角に向け、全速前進でさっき見つけた環礁に向かった。
間も無くして5人の大学生が乗る船は幻の暗黒環礁に近くに接近した。
その時、セバスチャンは双眼鏡と通して
暗黒環礁の崖の上に何かがいるのを見つけた。
「おい!何かいるぞ!人か?」
「なんだって!」
マルクは直ぐに双眼鏡を構えた。
すると幻の暗黒環礁の切り立った崖の上に一人の少女らしき姿が見えた。
「まさか……マーメイド!」
すると他の4人も慌てて双眼鏡を構えた。
確かに有機的な島に崖の上に腰を下ろす女性らしき姿が見えた。
しかもその女性の特徴は間違いなく伝説の通りの姿だった。
胸元まで伸びた緑色を帯びた赤毛の髪と茶色の瞳と
緑色を帯びた赤毛の眉毛を持ち。
美しい白い肌に覆われた柔らかく大きな形の整った張りのある
大きな丸い両乳房と大きな美しい緑色の分厚い鱗に覆われた
大きな形の整った張りのあるお尻と巨大な魚の尻尾を初め、
ふたつに分れた大きな尾ビレがあったのだ。
間違いなくマーメイドだった。
「なんだか?日本人っぽくないか?」
「ああ、綺麗な日本人だ。」
確かにマルクはセバスチャンの言う通り、
日本人の様な顔立ちをしていると思った。
しかも絶世の美女だ!
あわててジミーはデジタルカメラを取り出し写真を撮ろうとした。
だがマーメイドは素早く切り立った崖から飛び降り、
水しぶきを上げて海の中に消えた。
「ああ、畜生!」
ジミーはマーメイドを撮り損ね、舌打ちした。
「どうする?捕まえるか?」
「当たり前だ!底引き網で捕まえる!」
「おいおい、そんなの聞いていないぞ!」
「あの子は静かに暮らしているんだ!写真だけにしようぜ!」
「駄目だ!証拠となるマーメイドがいないと絶対!
大人達は信じて貰えない!」
マルクはセバスチャンやフランク、
アンガスにそう口を尖らせて反論した。
「だけど……」
「マズイって!」
「止めた方が……」
マルクはいざマーメイドを捕獲に尻ごみする
3人の大学生の友人にこう力説した。
「いいか!本物のマーメイドを捕まえれば!
俺達は新聞やテレビで有名人だ!
しかも運が良ければ巨万の富が得られる!」
「別に金なんか……でもテレビに出られるなら……」
「成程。大学生で大金持ちになればわざわざ職を探さなくていいな!」
「巨万の富か……悪くは無いかな……」
そして3人の友人はマルクの口車に上手い事乗せられ、
マーメイド捕獲に協力した。
早速、大学生5人は出来るだけ環礁に船を近づけ、
付近の海域に底引き網を設置した。
「でも、捕まえたらどうするんだ?」
「俺の親父は漁師だ!内緒で借りて来た!」
「ばれたら殺されるぞ……」
「もとより覚悟の上だ!心配するな!
捕獲したら魚を保存する部屋に厳重に閉じ込めておく!」
マルクはニヤリと笑った。
 
(第2章に続く)