(第26章)権力

(第26章)権力
 
BSAA北米支部の会議室。
マツダ・ホーキンス代表を初め、これから
御月製薬北米支部強制捜査に参加する者達は会議室に集まった。
マツダ代表から配られた御月製薬北米支部の極秘研究所ハイブの
詳しい見取り図と突入作戦の説明が書かれた資料を読んだ。
最初の資料にはT-エリクサーと新型ハンター。
開発コード・ハンタEYに襲われた被害者の女性の
ラッキー・キャンディの証言が幾つか書かれていた。
「姿は青いカエルの様な化け物に背中から尻尾があった」
「研究員同士での話でその青いカエルの化け物は凶暴過ぎて繁殖力が
高いから本体はとても不安定で冷凍されるかされて何処かの
保管庫に閉じ込められているらしい。」
「ハンターEYは不安定で危険か……」とジル。
「倒すのに用心残した事はありませんね」とクエント。
烈花と鋼牙はもう一つの御月製薬北米支部突入作戦の資料と
極秘研究施設ハイブの見取り図を確認し合っていた。
作戦内容は以下の通り。
「御月製薬北米支部突入作戦の概要。
BSAAは以下の配置を作戦時実行する。
御月製薬の建物の周囲を対ホラー用武器の武装した特集部隊300部隊。
BSAA医療部隊2部隊。
 
突入部隊。
冴島鋼牙。
クエント・ケッチャム。
烈花の4名。
任務1・御月製薬の社長の御月カオリの逮捕。
任務2・残り二つのM-BOW(魔獣生物兵器)の破壊。
ターゲット・ハンターEYと究極の破壊の神。以上である。」
読み終えた鋼牙と烈花はお互い顔を見合わせた。
「随分と大掛かりだな」
「これじゃ、全米の新聞やテレビに載ってしまうのでは?」
話している烈花と鋼牙はそう付け加えた。
「心配ないわ!世間にはマツダ代表や上層部が上手く新聞やテレビの
メディアの人々に魔戒法師と魔戒騎士の存在は隠してくれるわ!
外は彼らが守るわ!」
「信じよう!まずはハンターEYと
究極の破壊の神は研究所のハイブ内で仕留めたい。
外に出られると大変だ!」
「分りました!」
「そうしよう!」
烈花と鋼牙の提案にジルとクエントは答えた。
「そう言えばあのラッキー・キャンディって言う名前の少女は?」
「とりあえずある程度の事情聴取と健康診断を終えて、細胞変異や
ウィルス感染は無かったから彼女の御両親に
連絡を取って迎えに来て貰ったわ!」
鋼牙は安心したかの様にふっと溜め息をついた。
「あの子は無事に日常に帰れるんだな……」
「家に帰れるわ!ジョンが雇ったリー・マーラと
エイダ・ウォンの活躍のお陰よ」
「なんだって?」                                          
「エイダとリー?聞いた事があるHCFのスパイとか?」
「ライザーとアッシュ他2名のスパイが所属しているあの組織か?」
「つまり秘密組織ファミリーとHCFがBSAAの為に人助けを?」
「なんだか、頭が混乱して来たぜ!」
複雑すぎる人間関係に流石のザルバも眉を潜ませた。
 
マッハッタンにある秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷。
熱い日差しの中、大きな屋敷の青く輝く大きなプールの近くの白い床の上に
置かれた紫色の椅子にジョンはのんびりと腰かけていた。
そしてプールで泳ぐ若い女性を遠くから眺めていた。
やがて白い机に置かれた携帯がブーンブーンと音を立てて震えた。
ジョンは白い机に置かれていた携帯を手に取ると耳に当てた。
「もしもし?おおっ!これは!これは!
御月カオリ社長殿!これから丁度……」
ジョンが言い終わらない内に携帯のスピーカーを
通して御月カオリのキンキン声が聞えた。
「どう言うつもりよ!HCFのスパイを
利用して大事な実験体を盗ませるなんて!
そればかりか!せっかく劣性遺伝子を駆逐するM-BOW(魔獣生物兵器
を完成させ!実用化に向けて着々と準備を進めて来たのに!
あんた達がほとんどのM-BOW(魔獣生物兵器)を殲滅し!
素体ホラーを!研究と改造の材料をあたし達から取り上げた!
私の、いやオズウェル・E・スペンサーが求めていた優性遺伝子を持つ
人間が創造する千年王国の建設も全く見通しが
立たなくなったじゃない!またゼロからやり直しよ!」
しかしジョンはカオリ社長の怒鳴り声を小馬鹿にした様に笑った。
「クククッ!優性遺伝子を持つ人間が創造する千年王国の建設?
君は唯一絶対神のYHVAにでもなったつもりかね?
これだから君達の様な選民思想の人間は昔から
平和で罪の無い世界と人々に害を与え続けている。
そして罪の無い子供達や大人を心や体を傷つけて殺している!」
「なんですって!誰に向かってそんな口を!」
「君こそ!誰に向かってそんな口を聞いているのかね?
僕は秘密組織ファミリーの長であり、権力者だ!
ついでに僕は魔王ホラー・ベルゼビュートであるぞ!
君の野望は風前の灯だ!もう分っているだろ?
既にこちらで君の様な無礼な反社会的な
選民思想の人間を厳しく処罰する法案を
極秘裏に交渉と意見交換をホワイトハウス民主党多数党内幹事の
フランシス氏と話をしていてね!丁度話がまとまったところさ!」
ジョンの言葉にカオリ社長のキンキン声が震える声に変わった。
どうやらかなり動揺しているらしく意味不明の言葉が聞えた。
ジョンはしめしめと笑い、上機嫌になった。
それから口を開き自慢気に説明した。
「君の様な現在の世界秩序のバランスを崩す選民思想者達が集う
組織や団体を厳しく24時間監視し!犯罪行為の助長や準備行為!
つまりテロリスト達がテロ行為をする為の
準備や一般市民の扇動行為を行い、
勧誘したりする組織や団体の幹部を
最高に厳しい罰として重い刑に服して貰う!
勿論アンブレラ社の残りカスの君も!
イスラム過激派の幹部や最高指導者も!
例外ではない!みな平等に処罰する!」
「反発はどうなのよ!
反メディア団体ケリヴァーや彼らの活動を応援している
あの現代社会の刺激が余りにも強すぎると言う理由でテレビや
テレビゲームを捨てる様に親や子供に
執拗に圧力をかけて本人が望んでいないのに
テレビやテレビゲームを無理矢理捨てさせるばかりか!
無理矢理おかしなプログラムに参加させて自然と遊ばせようとする
日本のNPO法人ひびきの村も反発してデモ行進を行うに決まって……」
するとジョンはいきなり犬の吠える真似をした。
「うおっふっ!うおっふっ!うおっふっ!
うおっふっ!うおっふっ!うおおおおおん!」
「ちょっと何よ犬の真似なんかして!」
「既に伝えた筈だ!米民主党多数党内幹事のフランシス氏と副大統領と
大統領も合意した!ホワイトハウスに大統領のサインもある!
選民思想者の皆さまはもはや負け犬だ!吠え声も遠吠えも
決して上院にも大統領にも届く事は無い!
彼らのデモ行進も僕から見れば
『無駄な努力、お疲れ様』と言う他に言葉が見つからない!
別の言葉も探す気も微塵も感じない!
法案可決後の君達の苦しみなど知った事ではない!
ついでに一時間前にNPO法人
びびきの村の代表の大村氏からも抗議の電話を受けた!
僕はそんな抗議などしても無駄だと伝えておいた!
所詮!自然主義の排他的な人間など!結局は目の前で起こっている
子供や大人の暴力や殺人事件が起こる辛い現実から目を背け!
テレビやゲーム、新聞、子供番組の
ヒーローなどのメディアを味方につけ!多くの情報や道徳心を武器に
この世を巣食う悪党共と闘う事を自らの意思で放棄し!
現代社会の断崖絶壁から転げ落ちた!ただの負け犬でしかない!
ついでにその法案は明日には可決!覚悟したまえ!
特に君は新しい法律の記念すべき厳罰が米裁判所で下されるだろう!
これから君がBSAAに逮捕される瞬間と
悔し涙を流す君の顔を拝みに行くよ!
その前に腹ごしらえをしよう!」
「腹ごしらえってまさか?」
「闇合成では足りない養分と水分を補う為さ!
太古の昔から我々魔獣ホラーは人間を喰らい続けて来た。
君達だって腹が減ったら?牛や豚の肉や
魚の赤みや白みを味付けして喰らうだろ?」
カオリ社長はジョンの返事を聞くや否や以前、
自分がクラゲ型の魔獣ホラーに人間の血を吸わせていた事を思い出した。
そして彼もまた魔獣ホラーだった事をたった今、思い出した。
同時に彼と普通に会話して親しくしていた
自分の無知を知り、背筋が凍りついていた。
そして言い知れぬ恐怖に駆られたカオリ社長はそそくさと電話を切った。
 
(第27章に続く)