(第28章)実験

(第28章)実験
 
「ここか?」
「多分!」
鋼牙の指摘に何故か烈花は自信なさそうに答えた。
「とりあえず!研究所の中に入って見ましょう!」
その横でジルは烈花のフォローをした。
クエントは早速、分厚いドアの横に
取り付けられた機械に端末コードを繋いだ。
そしてクエントは端末のキーをいじり、パスワードを読み取った。
やがてガチャッと共に分厚いドアのロックが外れた。
ジルを先頭にクエント、烈花、
鋼牙は分厚いドアを開けて長い階段を下りて行った。
長い階段はらせん状に下へ続いていた。
2人は無言でらせん状の長い階段を降り続けた。
やがて広い迷路のような複雑な構造の廊下に出た。
その先は様々な大小の実験室が見えた。
4人は幾つかの様々な実験室を見て回った。
最初に入った大きな実験室には
十字架の形をした大きなベッドが部屋の中央にあった。
更に十字架のベッドには両手首と
太腿を固定する為の分厚い革のベルトがあった。
「これは?」
「恐らくここで様々な人体実験を……」
鋼牙は近づいて十字架のベッドに触れようとした。
「止めた方がいいぜ!きっと酷い光景を見る事になるぜ!」
鋼牙を気遣い魔導輪ザルバが説得した。
「とにかくここで人体実験をしていたのは間違いない!」
また実験室の奥には四角い自動で開く扉があった。
扉には『実験体出入り口』と書かれていた。
「ここから実験体の出入りをさせていたんですね!」
また隅には小さな飼育籠が転がっていた。
「おい!この飼育籠からホラーの気配だ!賢者の石の力を感じる!
恐らくまだ幼体だった頃に入れられていた究極の破壊の神のものだろう」
「と言う事は?ここで?人間を捕食させて育てていた?」
「間違いないだろう!過去にハルと言う人魚のホラーが
人間を利用して餌となる人間を誘拐させていたケースもある。」
またもう一つの実験室には中央に大きな普通のベッドが置かれていた。
その普通のベッドにも両手両足首を
縛る為の分厚い革が備え付けられていた。
ベッドの脇には大きな銀の台車があり、
幾つかの注射器と空のカプセルが置かれていた。
「ここで?魔獣ホラーにもT-エリクサーの投与をしていた。」
「きっと!マルセロも、クラーケンもここでしたんだわ!」
「ああ、僅かだがクラーケンの邪気が残っているぜ!」
「他にもパズズ、メリー、シェイズ、姑獲鳥、メルギス。
いずれのホラーの邪気もあるわ!ここで間違いない!」
ジルとザルバはホラーを探知する能力によりここで魔獣ホラーに
Tエリクサーを投与する実験をしていた事を突き止めた。
それから大小の実験室を出てさほど遠くない距離に研究室があった。
中に入るとそこは空き室になっていた。
机には電源を抜かれたパソコンが一台あった。
また机の下には名札があった。
それはここで秘密組織ファミリーのスパイとして極秘研究所のハイブに
潜入していた日本人の研究員、安達由美の名前と顔写真があった。
「ここでマルセロと同じ様にスパイを……」
「だが、殺された。恐らくMーBOW(魔獣生物兵器)の……」
「もしかしたら?破壊の神の餌にされたのかも?」
「これはなんだ?」
鋼牙は机の引き出しの裏の僅かな隙間から日記を取り出した。
ジル、クエント、烈花は引き出しの中の日記を読んだ。
ただ日付が書かれておらず日記と言うよりメモに近かった。
「御月製薬北米支部極秘研究所のハイブで働き始めて10カ月余り……。
そろそろジョン・C・シモンズ様の熱い身体が恋しいです。
でも!我慢しないと!ジョン様の為に!
例のMーBOW(魔獣生物兵器)のリストと
Tエリクサーのサンプルと資料を回収しないと!
でも!焦っちゃいけないわ!ここのセキュリティは大体分っているけれど!
油断しちゃいけないわ!必要なものはどうにか揃えられるけど。
必要な物リスト。
御月製薬が極秘に開発中の魔獣ホラーを利用した生物兵器
『M-BOW』と『T-エリクサー』の開発データ資料と
T-エリクサーのサンプルを盗み出す事!
セキュリティに!ハイブ警備隊と研究員に注意すべし!
それであたしはこれらを全部盗み出して
ジョン・C・シモンズ様に提供するの!
そうすればジョン様は!もっと!もっと!
あたしの身体を激しく犯して暮れるに違いないわ!
あたしが欲しいのは金と彼の長く太く逞しい(ぴー音)だから!
それにあの御月カオリ社長って女!絶対頭がイカれているわ!
会った時から変な話ばかり!劣勢な遺伝子を滅して!
優秀な遺伝子を持つ者達がこの世界を支配するとか?
少なくともあたしやジョン様の秘密組織ファミリーも望んでいないわ!
あの女はアンブレラ社の残りカスなのよ!
ハンターEYや究極の破壊の神なんて実にくだらない商品ね!
でもデータ位は他の闇市場(ブラックマーケット)の
BOW(生物兵器)やウィルス兵器の取引に使えるかも!
ジョン様には内緒でこっそり金を儲けよう!
それで素敵なドレスを着て、素敵なイヤリングやネックレスを付けて!
パーティして一晩中、彼と何十回もセックスをしまくるのよ!」
あたしはイカれた女のせいでジョン様が苦しむ姿を観たくないわ!
さっさとここから出て!M-BOW(魔獣生物兵器
のデータとサンプルを持ってジョン様のところに戻る事にしましょう!
ジョン様!必ず!戻って見せます!死ぬほど愛しているわ!
安達由美より!愛を込めて!」
「随分と彼にぞっこんですね?」
「ああ、ザルバ!確か噂では……」
「ああ、ベルゼビュートは太古の昔から超絶巧みな話術と
スカウト術で特に若い女性や権力者達を次々と仲間にし、
俺様達、魔戒騎士や魔戒法師の追跡を逃れていたのさ!
時には仲間の魔戒法師に裏切られ、逆に暗殺されたり
闘ったりする出来事が必ず起こっている!」
「問う事は今回のアメリカの権力者や
若い女性も仲間に加えている可能性が高い」
「一番厄介な相手と言う訳ね!」
「ここの捜査は十分よ!次へ!」
それからクエント、ジル、烈花、鋼牙は安達由美の研究室をあとにした。
そして4人は大小の様々な実験室からアフリカの太陽の階段の
土壌の奥深くから発見された未知の細菌に関する資料を幾つか見つけた。
また別の廊下の先にある標本室に向かった。
しかし銀色の分厚いシャッターで出入り口が塞がれていた。
またよく耳を澄ますと標本室からパチパチと火花が破裂する音。
シャアアッ!スプリンクラーの水が放水される音が聞えた。
「鋼牙!ジル!僅かだがアナンタの邪気と賢者の石だ!」
「でも!何故?彼が?ここに?」
「恐らく魔獣ホラーの標本や人間の血液や
細胞とかを色々抹消したのかも知れませんね!」
「確かに世間に魔獣ホラーの存在を世間に公表されたら困るからな。
パニックになってもマズイ!いわゆる証拠隠滅のつもりだろう!」
「しかし……何の目的で……」
「分らん!もしかしたら?御月カオリ社長の逮捕に・・・・・・」
「協力してくれると?」
ジルの答えに鋼牙は首を傾げた。
防火シャッターで閉じられた標本室を通り、
極秘研究所のハイブ内の中枢に位置する最高機密保管庫へ向かった。
クエントは端末からコードを伸ばして分厚い扉の横の差し込み口に入れた。
そしてコントロールパネルの前に腰をおろし、
めまぐるしい速度でキーを叩き始めた。
やがて分厚い扉は音も無く開いた。
「すげえなおい!」とザルバ。
「大したもんだ!」と鋼牙。
「はい!システムは意外に少し複雑でしたが」
「よし!先に行くぞ!」
「ええ、行きましょう!」
クエント、鋼牙、烈花、ジルの4名は最高機密物保管庫へ入って行った。
それから一人ずつ殺菌室に入り、十分殺菌した。
4人は正方四角形の部屋に入った。
正方四角形の部屋の中央の大きなガラスケースの中には。
一本の試験管が極めて厳重に保管されていた。
 
(第29章に続く)