(第30章)狩人(ハンター)

 
(第30章)狩人(ハンター)
 
生物兵器保管庫の別室。
白いシャツに青いジーンズ姿の御月カオリ社長は生物兵器保管庫の
コロシアムが見える窓の下部にある四角い台に備え付けられた
コントロールパネルを指で操作した。
間も無くしてコントロールパネルの画面に『コンテナロック解除』
と表示され、ガチャっとロックが外れる音が聞えた。
「うふふふふふふふふふふふっ!キャハハハハハハハハハハハッ!」
御月カオリは発狂し、笑い始めた。
そしてコントロール画面の横の四角い扉が
シャーと開き、赤いスイッチが現われた。
御月カオリは赤いスイッチを右拳で叩いて押した。
それからマイクをひっつかみ、生物兵器保管庫の下層のコロシアムにいる
烈花、鋼牙、クエント、ジルにこう説明した。
「その中央にあるコンテナの中にコールドスリープ(冷凍冬眠)の状態で
M-BOW(魔獣生物兵器)ハンターEYが眠っているわ!
でもコンテナの機能を停止させたから!間も無くして目覚めるわ!
さあー愚かな裸の猿共よ!空腹のハンターEYの餌になりなさい!」
 
生物兵器保管庫のコロシアム内では。
コロシアムの中央に置かれたコンテナの内部で激しく
叩いて暴れる騒がしい音が聞え始めた。
ガアン!ガアン!バコオン!バコオン!ガアアン!ガン!
間も無くして分厚い銀のコンテナはまるで風船のように円形に
まるでタンコブの様に変形して行った。
それはどんどん多くなり、空気を限界
まで入れた風船のようにパンパンになった。
やがて分厚いコンテナは凄まじい音と共に粉々に弾け飛んだ。
同時に周囲に大量の銀の破片が飛び散った。
やがて粉々になった粉状の金属片の奥から
凄まじくまるでホイッスルの様な甲高い鳴き声がコロシアムの
防音機能の付いた分厚い壁に反響した。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!」
コロシアムの中央にある分厚い銀のコンテナを
粉々に破壊し、ハンターEYが現われた。
皿に凄まじいホイッスルの様な鳴き声を上げた後、
ハンターEYは目玉の無い赤みを帯びたカエルの頭部を
ぬるりとクエントに向けた。
そして両生類と人間を合成させた様な姿を見たジルは
「まさか?こいつが?」とつぶやいた。
ハンターEYは全身から分泌する粘液に覆われていた。
更に腹部が急ににぐーっと大きく鳴った。
冷凍冬眠から目覚めたハンターEYは強い空腹感に襲われた。
「ぐええっ!ぐうううっ!」と鳴き声を上げた。
そして不意にハンターEYはクエントの方に蛙型の頭部を向けた。
するとジルが急に声を上げた。
「マズイ!逃げて!クエント!」
ジルが叫んだと同時にハンターEYは赤みを帯びた
両脚の大きな刃の付いた水掻きの両足で
カエルの様にぴょーんと大きくジャンプした。
しかも予備動作は一切なかった。
同時に大きく口を開けた。
油断していたクエントは素早く両手で銃を構える間も無く
巨大な大口によって瞬時に上半身を呑み込まれた。
「うっ!うわあああっ!」
ハンターEYはクエントを丸飲みにしようと
軽々と身体を持ち上げ、口をバクバク開閉し喉を下へ下へ動かした。
クエントは両足を振り、バタバタと抵抗した。
「クエント!」とジル。
「マズイ!早く助けるぞ!」と鋼牙。
その時、烈花は素早く白い肌に覆われた
生の太腿を上げて、前進し、魔導筆を胸元に構えた。
「ハアッ!」と気合を入れ、魔導筆の先端から像に似た鼻と
2本の牙を持つ金魚に似た魔界竜の稚魚の群れを大量に放った。
魔界竜の稚魚の群れはハンターEYの下腹部に直撃した。
「よし……」
しかし烈花の予想に反して法術に耐性があった為、
爆破四散させる事は不可能だった。
幸いにもクエントはグエエッ!と言う吐く音と共にどうにか吐き出され、
ドサッとコロシアムの床に仰向けに落下した。
吐き出されたクエントは透明なネバネバした
唾液に覆われていたものの無傷だった。
ハンターEYは「ピイイイッ!」と甲高い声を上げ、
素早く再び眼球の無い赤みを帯びたカエルと頭部を烈花に向けた。
やがてどうやって分かったのか定かではないが
自分を攻撃した相手が若い女性の烈花だと知った。
次の瞬間、再び「ピイイイイッ!」と鳴き声を上げた。
また予備動作も無く赤みを帯びた両脚と大きな刃の付いた
水かき付いた両足でカエルの様にピョーンとジャンプした。
予備動作も無く恐らく本能的であろう。
続けて烈花の大きな黒い魔導衣に覆われた覆われた
大きな柔らかい丸い両胸を鋭い爪と刃の付いた
水掻きを持つ両手で鷲掴みにし、強引に押し倒した。
烈花は仰向けに勢い良く倒れた。
「ぐああっ!」と小さく声を上げた。
若い女性の烈花を捕まえたハンターEYは
繁殖の為、彼女に襲いかかろうとした。
しかしハンターEYは本能的に烈花の胎内に宿っている
T-エリクサー抗体を持っている事を知り、彼女を外敵とみなした。
ハンターEYは赤みを帯びた逞しい青い筋肉に覆われた右腕を振り上げた。
ハンターEYは長く鋭い爪と刃の付いた右手を構えた。
そして烈花の喉の皮膚に鋭く長い爪の先端を突き付けた。
どうやらハンターEYは烈花の喉を付いて殺害しようとしていた。
危険を感じたジルは素早くコロシアムの床を蹴り、だーっと駆けだした。
そしてハンターEYの真横まで接近すると急に立ち止まった。
続けて黒い戦闘服に覆われたしなやかな長い太腿を振り上げた。
同時にその場で大きく弧を描く様に身体を横回転させた。
ドオオオン!と言う大きな音と共にジルは右足の裏で
ハンターEYの右腹部を蹴りつけた。
彼女の必殺技の回し蹴り『ソバット』である。
ハンターEYは「ぐうええええ」と声を上げ、真横に吹き飛ばされた。
ジルのソバットにより吹き飛ばされたハンターEYは
大きな刃の付いた水かき両足でコロシアムの床を1m程、
土埃を上げ、猛スピードで滑って行った。
ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!
ハンターEYは怒りの唸り声を上げ、赤みを帯びた上半身を起こした。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は白いコートの赤い内側からグン色に輝く両刃の魔戒剣を取り出した。
そして両手で構えた後、コロシアムの床を
高速で駆け抜け、ハンターEYに急接近した。
鋼牙は魔戒件を振り降ろし、
ハンターEYの赤みを帯びた皮膚に覆われた右腕を切断した。
しかしハンターEYは何故か涼しい顔をしていた。
まるで痛みを全く感じていないかのように。
ハンターEYは再び耳まで裂けた大きな口を開けた。
そのままハンターEYは赤みを帯びた上半身を曲げた。
ハンターEYは耳まで大きく開いた口で鋼牙を茶髪に
覆われた頭からまた一気に丸呑みしようとした。
鋼牙はバクンとハンターEYの口が閉じる直前に
コロシアム床にまるでトカゲの様に姿勢を低くした。
閉じられたハンターEYの口は空を噛んだ。
同時に鋼牙はコロシアムの床のギリギリまで伏せた
状態のまま自らの身体をグルリと回転させた。
そして鋼牙は雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は魔戒剣を身体と同時に回転させた。
ハンターEYは「グエッ!」と声を上げた。
ドスンとうつ伏せにコロシアムの床にひれ伏した。
鋼牙が身体と共に振った魔戒剣の両刃はハンターEYの
赤みを帯びた筋肉質の逞しい両足をスパッと切断していた。
ハンターEYは四肢を切断され身動きが取れなくなった。
 
(第31章に続く)