(第41章)神火(プロメテウス)

(第41章)神火(プロメテウス)
 
マツダ代表は静かに穏やかに落ち着いた口調でジルに向かって話を続けた。
「少なくとも今後の君の意志を聞く前に
少しばかり話しておかねばならないね!」
「何の話ですか?」
マツダ代表は深く溜め息を付くとまた口を開いた。
「君達、人間に『大いなる理』が与えた使命。
魔獣ホラー、外神ホラー、そして神々が人間を巡り争う原因について。
『大いなる理』は君達人間に万物を観測する使命を与えた。」
「万物を観測するのがあたし達人間の使命?」
「そう、人間は答えの無い事象に対して『答え』を与える力を持っている。
勿論、君にも存在するよ。
何ものでもない不確定な状態を何者かに固着させ、
確定させる観測の力。『大いなる理』は神々や魔獣ホラーや
外神ホラー達に観測の力を与えなかった。
それは人間だけが持つ力だ。魔戒騎士と
魔戒法師を含む人々は観測し固着させた
答えを『信仰』へ更に『真理』へと変える事が出来る。
それは神々や魔獣ホラー、外神ホラー達に活力を与える事も出来るが
逆に魔獣ホラーや外神ホラーを魔戒の力と併用して観測の力を使い、
陰我を断ち切って封印する。また逆に神々を殺す力にもなり得る。
だから神々や魔獣ホラー、外神ホラー達は観測の力を持つ人間を囲い、
自らに都合の良い観測を行わせようとした。
これが神々や魔獣ホラー、外神ホラー達が
人間を巡って争う直接の原因となっているんだ。
いずれ君は魔王ホラー・ベルゼビュートと
ニャルラトホテプの化身のドラキュラ伯爵と魔女王ルシファー、
そして第3の天界の世界(真女神転生Ⅳファイナル・ロウルート)
の天使や大天使、特に神の戦車メルカバーはいずれ君か君の娘を手に入れて
神殺し、または外神殺しとして利用しようと考えている。
でも君はどうやら違うようだけどね。」
「そうね!あたしは天使側に付く気は無いわ!」
ジルはきっぱりと天使側に付く事を否定した。
「そうだね。当然ある程度の計画は
既にリー・マーラ教授から聞き及んでいるね?」
「勿論よ!宇宙の卵!新宇宙!YHVAを討ち取る!」
「そう、YHVAを討ち取り、宇宙の卵を孵化させ、
新宇宙を創世し、魔王ホラー・ベルゼビュートが新宇宙の王となり、
人間と動物を創造する権利が与えられる。」
「いえ!新宇宙の女王はあたしがなる!そして!
人間と動物を創造する権利もあたしが得るの!」
「そう。君を手に入れる為にわざわざ敵対関係だった
魔戒騎士と魔戒法師、更にBSAAの人間達と交渉し、
取引させて君を寄る辺の女神にした。
全ては唯一絶対神YHVAに復讐する為にね。
君自身の運命として彼の復讐、そして魔王ホラー・ベルゼビュート
から宇宙の卵を奪い取る作戦をするならば僕も協力しよう。
でも彼なら頭が良い、ひょっとしたら君に宇宙の卵を譲ってくれるかもね。
まあ、時が巡るまでのお楽しみだね。」
「ええ、時が巡るまで純粋な人間の人生を楽しむわ!
人間の命はとても短いものね!」
ジルはマツダ代表に連れられて地上へ続くエレベーターに乗った。
ジルとマツダ代表は地上の御月製薬北米支部の裏口から出た。
その時、マツダ代表は「ところでー。」とジルに語りかけた。
ジルは「何でしょう?」と応答した。
マツダ代表は静かにこう語った。
「君は何日か前に白痴の魔王ホラー・アザトースを君の青い瞳で観測したね?
これは個人的な興味だが。
君は白痴の魔王ホラー・アザトースをどのように観測したかね?」
「角度にある空間の彼方に存在する凄まじい核の混沌。
窮極の混沌の中心で万物の王である
盲目にして痴愚の神アザトースは混沌の玉座
大の字になって寝そべり、従者たちになだめられている。
骸骨の指輪を小指に嵌めている。パンスペルミア説、
白痴の魔王ホラー・アザトースの遺伝子や始祖ウィルス、
胞子が含まれた細胞の万物にして生命の種が原始宇宙に落下した。
万物にして生命の種は滝壺で分解し、液化し、地球の生命の起源となる。」
「成程。アザトースの夢とは全く別の万物の生命の誕生を観測したんだね?」
「ええ、そうよ。宇宙はアザトースの見る夢に過ぎない訳じゃないわ。
目覚めたら消滅するわ。
原因は宇宙を吹き飛ばす程の凄まじいエネルギーの核爆発でね。」
「そうか、分ったよ。良く出来た観測だ。ひとまず及第点としよう。」
「それはどうも!」とジルはそっけなく答えた。
ジルはマツダ代表が乗って来たBSAA特殊車両では無く
ごく普通のBSAAのロゴが付いた4WDの車に乗り、
BSAA本部に戻る事になった。
そしてBSAAの4WDの車が
BSAA北米支部に向かって走らせている間、
ジルは無言で下唇を噛んで、何か考えていた。
マツダ代表も無言だったが穏やかな笑みを浮かべた。
ジルはスマートフォンとしばらくにらめっこした。
ジルのメールの内容は以下のとおりである。
「リー・マーラ教授へ。計画は?準備は整っている?
貴方が送ったパンスペルミア説は興味深いです。
それと以前のメールを赤の他人の様に反応してしまい御免なさい。
でも御月製薬に囚われていたラッキキャンディ(本名レイン)さんの救出と
ワクチンと抗ウィルス剤の投薬による治療をありがとうございました。
この件に関してはエイダ・ウォン氏にもよろしくお伝えください。
あと御月製薬の不正を暴く物的証拠の提供もありがとうございます。
さて話は変わりますが9年前のバチカンローマ教皇庁)機関
『ロッセ・バドレ・ロマネ』の記事を読みましたか?
リドリー・スコット監督の映画『プロメテウス』を批判していましたね。
彼らは映画の中で人類の起源を解き明かす事をテーマにしたせいで
『神の存在を無視した悪い考え』と批判していました。
しかも彼らは『超自然的存在を探し求める事を象徴すべきだった』
と批判していました。
また彼らは御月製薬の未知の細菌から
不老不死の遺伝子を発見した事に対しても
『不老不死は人間が持つべき力では無い。
人間は決してどうあっても神になれない』
と言っていたけど本当にそうかしらね?
あたしは可能だと思っています。貴方も同じですよね?
それにあなたのパンスペルミア説によれば地球生命の起源は宇宙にあり、
太古の昔、ある惑星から宇宙空間に飛び出したバクテリア、ウィルス、
胞子等が宇宙空間を飛び続けて原始宇宙に到達して生命の起源となった。
或いは何十億年の何処かの天体で進化し、高度な文明をもったエイリアン
もしくはリドリー・スコット監督の『プロメテウス』に登場する様な
エンジニア達が地球に生命を送り込んだって言う説もあるわね。
エンジニアもといエイリアンが原始宇宙の環境で生きられる微生物か?
DNA(遺伝子)を宇宙船に詰め込んで送りこみ、
それが地球上の生物の先祖になったとか?
1986年にはNASAの彗星探査機ジオットの観測によって
ハレー彗星の核には大量の有機物が見つかっているわ。
あと1969年にはオーストラリアに落下したマーチソン隕石から
アミノ酸などの生命の元になる物質が含まれていた事が判明しているわ。
あたしは神様に人間や動物を創造出来るなら人間にもできる筈!
リー教授もそう考えられないでしょうか?
もし?あたしが神になれるのなら?
唯一絶対神を殺して自分が神になりたい。
では!また会う機会までごきげんよう
元気でさよならです。ジル・バレンタインより。」
ジルはメールの内容を一切ためらわず、
スマートフォンの送信ボタンを押した。
間も無くしてスマートフォンの画面には送信完了と表示された。
ジルはしばらくリー教授の返信を待った。
しかし来そうにもないのでジルはスマートフォンをポケットにしまった。
やがてBSAAのロゴが付いた4WD車は
目的のBSAA北米支部に到着した。
そして既に到着していたBSAAの特殊車両から鋼牙が出て来た。
ジルは安堵の表情を浮かべ、ジルを見た。
鋼牙は穏やかな笑みを向けた。
「よかった!無事だったのね!」
「ああ……なんとかな……うっ!」
鋼牙は片手で右肩を押さえ、「くうっ!」と痛みで顔をしかめた。
ジルは心配そうに鋼牙の顔を覗き込んだ。
 
(第42章に続く)