(第40章)龍王(後編)

 (第40章)龍王(後編)
 
再び轟天に乗った鋼牙はアナンタに突撃した。
轟天は分厚い金属の床を力強く踏みしめ、鋼牙を乗せて飛び立った。
続けて再び牙狼斬馬剣を荒々しく息を切らせ、「うおおおおっ!」
と渾身の声を上げ、鋼牙は半円に大きくゆっくりと水平に振ろうとした。
アナンタは口元を緩ませ、ニヤリと笑った。
「君も分から無い奴だねぇ!」
再びアナンタは巨大な花に似た頚部を広げたコブラの頭部にある口と
周囲に花弁の様に千の頭部の口を一斉に広げた。
口内は千個の高熱の火球が現われ始めた。
鋼牙は息を合わせる様にこう叫んだ。
「よし!今だ!」
鋼牙は大牙狼斬馬剣を半円に勢い良く振った。
そしてー。ブン投げた。
間を置いて大牙狼斬馬剣は鋼牙の手を離れ、グルグルと回転し飛んだ。
「なっ!ぐっ!」
やがてゆっくりと回転し、大牙狼斬馬剣は鋼牙の狙い通りに
アナンタの巨大な花に似た頚部を広げたコブラの頭部にある
巨大な口内の高熱の火球を打ち消し、グシャアアッ!
と大きな音を立ててアナンタの口内に深々と突き刺さった。
「グッ!ガアアアアアアアアッ!」
アナンタは頭部や胴体を激しく左右にしならせ、暴れた。
そして巨大なコロシアムの左右の分厚い壁に
何度もドゴンドゴンと叩き付けた。
鋼牙は轟天に乗ったまま空中で停止していた。
しかしアナンタは口内に大牙狼斬馬剣を
突き刺したまましぶとく生きていた。
鋼牙は轟天の腹部を蹴り、アナンタに向かって走らせた。
牙狼斬馬剣はアナンタの口内に深々と突き刺さっていた。
既に巨大なスケボーの長さの両刃の刀身は
アナンタの口内に深々と突き刺さって見えなかった。
しかし大牙狼斬馬剣の黄金に輝く持ち
手部分の柄はアナンタの口内からはみ出ていた。
鋼牙を乗せた轟天はアナンタの口外からはみ出ていた大牙狼斬馬剣の
黄金に輝く持ち手部分の柄の上に着地した。
続けて轟天は再びいなな鳴き声を上げた。
黄金に輝く鎧に覆われた2本の前脚でもう一度立ち上がった。
そして両足の黄金のヒズメで大牙狼斬馬剣の
黄金の持ち手部分の柄に叩き付けた。
再び前足の巨大な黄金のヒズメから青色に輝く衝撃波が発生した。
同時に大牙狼斬馬剣は青く輝き始めた。
そして大牙狼斬馬剣はまた大きく変形した。
牙狼斬馬剣は両刃の黄金遠青色に輝く細長く巨大な剣に変化した。
更に一気に牙狼斬馬剣が変形した為、グシャリと言う大きな音と共に
細長く黄金と青色に輝く細長い巨大な刀身はアナンタの口内を貫き、
後頭部の分厚いオレンジ色の鱗を切り裂き、
細長い巨大な両刃の刀身が飛び出た。
同時にアナンタの後頭部から大量にどす黒い血液と脳漿が噴き出した。
そして大量のどす黒い血液と脳漿は巨大コロシアムの
天井近くの分厚い壁をビシャリと濡らした。
「グギギギギギギギギギギギギッ!グエエエエエエエエッ!」
アナンタは周囲の千と頭部の口を開き、絶叫した。
轟天はそのまま真下に落ち、巨大コロシアムの分厚い床に着地した。
「グギギギギギッ!牙狼・天野樷雲剣(あまのむらくもけん)か…………」
間も無くして再びアナンタは巨大なコロシアムを
激しく揺さぶる様な絶叫を上げた。
「グッ!ギギギギッ!キシャアアアアアアアアッ!」
アナンタは苦しみ悶えた。
やがてアナンタのオレンジ色に輝く大蛇の肉体は
次第に無数のオレンジ色の傷が出来た。
そしてたちまち分厚いオレンジ色の鱗はバラバラと外れ、
周囲の空中や分厚い床に大量に散って行った。
アナンタは苦しそうに唸りつつも静かに口元を緩ませた。
「うっ!ぐっ!フフフッ!これ以上!何も言う事は無いよ!
僕は……また……復活するからね!」
轟天に乗ったまま鋼牙は黄金騎士ガロの鎧の緑色の瞳を通して
陰我を断ち切られ封印されるアナンタの姿をただ黙って静かに見据えた。
続けてアナンタは怒りと憎しみ、
殺意のこもった刺す様な鋭い千の視線を鋼牙に向けた。
そして怒り狂った荒々しい声で鋼牙にこう告げた。
この敗北は決して忘れないぞ!黄金騎士ガロ!
次!ジョン様に復活して貰ったら!
次は必ず殺す!殺してやるうううううううっ!」
その荒々しい言葉は断末魔の絶叫となった。
アナンタの荒々しい断末魔の言葉は
巨大コロシアム全体の空気を激しく左右に揺さぶった。
同時にアナンタのオレンジ色に輝く
大蛇の肉体は爆四散し、完全に消滅した。
鋼牙はすぐさま黄金騎士ガロの鎧を解除した。
黄金騎士ガロの鎧が頭上の黄金の輪に吸い込まれると同時に
魔戒馬・轟天も頭上の黄金の輪に吸い込まれて行った。
鋼牙は元の白いコートを纏った男の姿に戻った。
間も無くして鋼牙は疲労困憊した様子でつい両脚の膝を
巨大なコロシアムの分厚い床に付いた。
彼は辛うじて赤い鞘に収まっていた
魔戒剣を支えにフラフラと立ち上がった。
ザルバは「ふうー」と一安心した様に息を吐いた。
「しつこい奴だったな!」
「ああ、だがこれで全てが終わった……」
「ああ、そうだな」
鋼牙は荒々しく息を吐き、全身汗だくの状態のまま
巨大コロシアムの開いたまま入口から出て行った。
鋼牙は天井に開いた大穴から大きくジャンプした。
そこはさっきジルと一緒に通った分厚い扉に続いていた。
そして鋼牙は人間離れした跳躍力で御月製薬北米支部
極秘研究所ハイブの最下層から地上へ続く分厚い扉の前に着地した。
鋼牙は歯を食いしばり、無言で地上へ続くかなり細長い通路を歩き続けた。
やがて鋼牙はかなり細い通路を通り、実験室を通り、ようやく
迷路のような廊下を抜け、御月製薬北米支部の分厚い扉を抜け、
BSAA隊員達と合流した。
彼は他の若いBSAA隊員に支えられて鋼牙は
BSAA特殊車両に乗り込み、ようやく車内で一息を付いた。
 
御月製薬北米支部の緊急脱出用エレベーター
から降りたジル・バレンタイン
周囲を見渡すとそこは広いオフィスでは無く、
どうやら要人用の避難シェルターらしい。
目の前には地上に続くエレベーターの目の前には眼鏡を掛けた
真っ赤なスーツを着た人物がいた。
マツダ・ホーキンスBSAA代表である。
マツダ代表!」
「やあ、ようやく終わったね!ごくろうさん!」
マツダ・ホーキンス代表は静かにそう言った。
マツダ代表!どうしてここに?」
「君に伝えるべき事があって来たのさ!」
「伝えるべき事?一体?何を?」
戸感うジルに対し、マツダ代表は白いメガネをグイッと上げた。
「そう!伯爵騎士!闇に囁く者!
真魔界竜!この3つの物語は君の人生の歩んだ道!
そしてこれから、いやこの先の君の人生の
未来は君が経験する今までの事件とは
比べ物にならない程の大きな出来事が起こる事になる?
うん?何故?分るっかって?僕は既に人間を超えた存在だからさ!」
「何を……人間を超えたって?本当に貴方?何者なの?」
ジルは完全に混乱し、ただ茫然とマツダ代表を見ていた。
一方、マツダ代表は混乱してただぼーっと見ているジルの顔を
白いメガネの向こうの茶色の瞳でじっと静かに見据えた。
するとマツダ代表は笑って見せた。
「君はBSAAの仲間達や冴島鋼牙君や烈花法師には本心をー。
いや、野望を隠しているね!」
ジルは何も答えず、黙った。
「残念だけど僕はさっき言った通り、人間を超えた存在でね。
君の考えも本心も僕にはお見通しさ!」
「何故?分るの?」
「神の眼、プロヒデンスの瞳は君を介して遍く世界を介している。
僕も神に近い存在でね!」
「そうですか?どうするんですか?鋼牙達に伝えるんですか?」
「君の今後の意志次第だ!今は伝える必要は無いよ!」
それからマツダ代表は再びゆっくりと口を開いた。
 
(第41章に続く)