(第47章)参上

(第47章)参上
 
翌朝・ニューヨーク市内のジルの娘・
アリス・トリニティ・バレンタインが通う
幼稚園で親子の為のカラオケ大会に出場する為、ジルはこの時の為に
髪を一時的に赤く染めていた。
一方、鋼牙も渋い顔をしつつも髪を一時的青く染めていた。
とりあえず役回りは以下の通りである。
ジルがロケット団のムサシの役。
鋼牙がロケット団のコジロウの役。
娘のアリスは小判の被り物を受け、黒い黒耳を付け、
茶色の尻尾を付けたニャースの役である。
鋼牙とジルは自前で作ったロケット団の白い制服を着ている。
カラオケ大会で最初は何人かの親子はその他のアメコミや
日本のアイドル等のコスチュームに身を包み、皆、各々、
時間を見つけて練習したアニメソングや懐かしい歌を歌っていた。
やがてジル達の番が来ると幼稚園の先生達に紹介され、
いよいよ歌を披露する事になった。
その時、アリスは緊張してずっと黙っていたが
鋼牙とジルは優しくこう呼びかけた。
「大丈夫だ!!俺とジルがついている!」
「練習頑張ったんだから!きっと大丈夫よ!」
アリスの表情は徐々に緊張が解け、愛らしく笑った。
「うん!そうだね!頑張るから!絶対!
成功させて!皆を喜ばせようよ!」
鋼牙とジルは笑った。
そしてあのポケットモンスターの隠れた伝説の名曲。
ロケット団よ。永遠に』に曲が始まった。
ドラムとギターの混じったロック調の心地良いメロディが流れた。
鋼牙とジルは笑顔で明るく歌い始めた。
その歌のうまさに観客席で聞いていた親やアリスと同級生の
幼稚園児達やその他のクラスの幼稚園児達も聞き入っていた。
そしてアニメでお馴染みのあの台詞が始まると
幼稚園児達は大興奮し、一斉に歓声を上げた。
のお馴染みのあのセリフである。
それは以下の通りである。
ムサシ役のジル「何だかんだと聞かれたたら?」
コジロウ役の鋼牙「答えてあげるが世の情け!」
ムサシ役のジル「世界の破壊を防ぐ為!」
コジロウ役の鋼牙「世界の平和を守る為!」
ムサシ役のジル「愛と真実の悪を貫く!」
コジロウ役の鋼牙「ラブリーチャーミーな敵役!」
ムサシ役のジル「ムサシ!」
コジロウ役の鋼牙「コジロウ!」
ムサシ役のジル「銀河を掛けるロケット団の二人には!」
それから少し間を空けた後、コジロウ役の鋼牙は。
「ホワイトホール!白い明日が待ってるぜ!」
アリスは元気よく2人の前に出てバック転した後、
また大きな楽しそうな声でニャースの台詞を言った。
「にゃーんてなー!!」
すると会場の幼稚園児達や親達からどよめきと
歓声が上がり一気に盛り上がった。
「わーすごい!」
「カッコいい!」
ロケット団最高!」
その盛り上がりっぷりに親達や先生は大喜びした。
「ハハハハッ!いいじゃないか!」
「ええ、みんな素晴らしいわ!」
「見て下さい!みんなキラキラしているわ!」
そして曲が終わった後、親も幼稚園児達も全員立ち上がり、
大地が割れんばかりの拍手と口笛が飛び交った。
ジルは今、この時が一番幸せに見えた。
鋼牙も会場の親や幼稚園児達が満足した笑みを見て、
自分も嬉しくなり、自然と笑みをこぼれた。
アリスは嬉し過ぎて目を潤ませ泣いていた。
彼女の心は達成感と幸福で満たされていた。
やった!成功したよ!みんな喜んでくれた!
凄く嬉しい!嬉しいよ!とても幸せ!最高よ!嬉しくて涙が……。
アリスは嬉しさの余り、泣き出してしまったのが恥ずかしくなった。
すると鋼牙はアリスに語りかけた。
「アリス!恥ずかしい事じゃない!!もっと胸を張れ!
俺達はみんなを笑顔にするという偉業を成し遂げたんだ!」
ジルはクスクス笑いこう言った。
「偉業何て大袈裟だけど!彼の言う通りよ!あたしもママとして!
とても誇らしい事をしたのよ!さあ!もっと胸を張りなさい!」
アリスもうん!と頷き、精一杯胸を張り、
会場の親や幼稚園児達に手を振った。
「ありがとう!ありがとう!楽しかったわよ!」
そしてカラオケ大会の優勝者は園長の発表により明かされた。
優勝はもちろんアリスと鋼牙とジルに決まった。
アリスは大喜びで母親のジルに抱き付いた。
それから幼稚園児の男の子が紙で一生懸命作った
トロフィーとお菓子やデザートの詰め合わせがプレゼントされた。
そして親も幼稚園児達も彼女達の優勝を
素直に心の底から喜び、暖かい拍手を送った。
そして優勝を逃した幼稚園児達にもそれぞれ、銀のトロフィー、
銅のトロフィーが(勿論、紙で幼稚園児達が作った)渡され、
お菓子やデザートの入った詰め合わせが贈られた。
全員は嬉しそうにトロフィーとお菓子の詰め合わせを貰い、
中には少し太った幼稚園児は我慢できず、
その場で何個か包みを開けて、食べていた。
母親は苦笑いを浮かべた。
そしてアリスもやはり我慢できず、何個か包みを開けて、食べていた。
気付かなかったジルは口の周りに美味しいビスケットが付いているのを見て、驚いた。
「もう!食べていたの?」
「早いな」と鋼牙は笑いながらそう言った。
彼はふと自分の妻の御月カオルと息子の雷牙の事をまた思い出した。
彼は何かを思いつき、ジルにこう言った。
「このおやつとデザート!何処で売っている?」
「直ぐ近くの店で買えるけど?どうして?」
鋼牙の質問にジルはキョトンとした表情を浮かべた。
「もしも……多分!もう大人になっているだろうが。
息子の雷牙にも食べさせてやりたくてな!
そう、妻とカオルと一緒に息子の雷牙の笑顔が見たくてな!」
ジルはフフフッと笑った。
「いいわよ!教えてあげる!今日行ってみる?」
鋼牙は少し気恥ずかしそうなに顔を赤らめ、ぶっきらぼうにこう答えた。
「ああ、頼む連れて行ってくれ!」
鋼牙はアリスと太った幼稚園児と一緒に仲良くお菓子のビスケットを
ほおばっているのを見て、ついつい自分の息子がビスケットを
笑顔で食べる情景が思い浮かんだ。
鋼牙はフッと笑った。
すると鋼牙の視線に気付いたアリスが
まだ封を開けていないビスケットの服を差し出した。
「鋼牙おじさん!食べていいよ!」
アリスは笑顔で言った。
「そうか!ありがとう!」
鋼牙はアリスからビスケットの袋を受け取った。
アリスは「ママにも」とビスケットの袋を渡した。
ジルは笑顔でビスケットの箱を受け取り、
鋼牙とジルはビスケットを食べた。
「これはなんだ?」
「アーモンドクッキーなの!」
ジルが答えると鋼牙は成程と頷いた。
こうして鋼牙とジル、アリスは
今日一番最も幸福な日常を満喫したのであった。
 
(第48章に続く)