(第46章)誕生

 (第46章)誕生
 
春野うららはステルス機能の付いた
宇宙船に乗って宇宙放送局に帰って行った。
ジルは自分のオフィスへ入って行くとパソコンに一通のメールが来ていた。
ジルはキーボードを指で巧みに操作し、パソコン画面にメールを開いた。
メールはBSAA医療機関のウィルス学者からだった。
『緊急・植物人間のトム(プラントデッド)と『R型』
の胎児に含まれるB型T-エリクサーからE型特異菌の遺伝子を検出。
特に胎児から成長する『R型』は
『B型T-エリクサー』を含む植物細胞を他の生物に
植え付ける事によって対象の意識と
肉体を支配する特異菌の能力を有している可能性有り。
故に『R型』を悪用されればまたE型同様!
罪の無い大勢の人間が犠牲となる恐れあり!
早期の『R型』捜索と奪還を要請する!!以上!!」
「厄介ね……特に相手を洗脳する能力……か……」
ジルはまたあのウェスカーに洗脳された時の事を思い出し、顔をしかめた。
彼女は『R型』の捜索と奪還計画を検討して貰う為、
そのメールをマツダ代表に送信した。
彼女はいつも通りの事務仕事を終え、
BSAA北米支部から自宅に帰って来た。
そして娘のアリス・トリニティ・バレンタインと
夕食を食べて、ベッドに寝かしつけた。
(既に一人で寝られる。但し怖いもの見た場合を除いてである)
ジルは化粧をして、赤い口紅を付け、黒いドレスを着ていた。
ふと自分の家の窓から明るくも優しい月光が
差し込んでいるのが目に入った。
ジルは窓に近づくと窓から美しい月光を放つ
満月が浮かんでいるのが見えた。
そう、今日は満月!いよいよ転生の卵が真魔界で孵化する時ね!
ジルは車に乗り、秘密組織ファミリーの本部に当たる
ジョン・C・シモンズの大きな屋敷に向かった。
ジルは車から降り、大きな屋敷の広場に到着すると
ジョンが一人で立っていた。
「やあージル!寄る辺の女神よ!今宵の満月も貴方も美しいですね!」
ジョンの笑顔にジルも笑顔で答えた。
「じゃ!行こうか!真魔界へ!」
ジョンは静かにジルに手を差し伸べた。
「ええ、真魔界へ!」
ジョンはジルの手を握り、引っ張った瞬間、
いきなり時空の歪みが現われた。
どうやら真魔界に通じるゲート(門)らしい。
真っ黒で時々、黒い球体の周囲がオレンジ色と赤に輝いていた。
そして二人はその中に消えた。
 
真魔界。
ジルとジョンはあの黒い球体を通り、真魔界の灰色の大地へ降り立った。
ジルは興味深げに周囲を見渡すと真魔界の空は広大な灰色に覆われていた。
更に周囲には灰色のクロワッサンの形状に似た
尖った二つの先端部分が見えた。
しかも直径は500mもある巨大な岩が見えた。
更に下を見るとその先は断崖になっていた。
断崖の先にはジルの子宮から産まれた転生の卵が見えた。
しかもジルが産んだ直後は胎児程の大きさだったが
久しぶりに真魔界で見た転生の卵は急激に膨張しており、
直径50000mまで巨大化していた。
ジルは余りの大きさに思わず息を飲んだ。
間もなくして転生の卵は何度も赤みを帯びた黒色に発光を繰り返した。
続けて転生の卵の表面が一刀両断するかのように綺麗にヒビが入り始めた。
どうやらいよいよの様だ。
ジルとジョンはただ黙って転生の卵が孵化する瞬間を待った。
転生の卵は赤みを帯びた黒色の表面に一刀両断するかのように入った
ヒビが一気に転生の卵の表面全体に広がって行った。
間も無くして「パリン!」とわれる音と共に転生の卵は砕け散った。
砕けた破片は周囲に飛び散り、内部から赤みを帯びた
黒い邪気がパッと周囲に飛び広がって行った。
やがて赤みを帯びた黒い邪気は真魔界の灰色の大地を
まるで塗り潰すかのようにあっと言う間に広がり、覆い尽して行った。
それは広大な真魔界の大地を隅々まで覆い尽したであろう。
何せ真魔界は余りにも広大過ぎる為、ジルやジョンも
それを見ることは不可能だが何となく見当はついていた。
真魔界の灰色の大地を覆い尽していた赤みを帯びた
黒色の邪気の中から無数の白く濁った眼が次々と現れた。
更に無数の白い牙の生えた口も次々と現れた。
続けて恐ろしく耳触りで甲高い咆哮を上げ続けた。
それは正に転生され、新しく産まれ変わった
無数の魔獣ホラー・メシア一族の産声だった。
ジルはその産声を聞き、何とも言えない甘美な心地がした。
同時に魔獣ホラー・メシア一族の母親になれたと言う
喜びと達成感が彼女の心をあっと言う間に支配し、ジルは笑った。
その隣でジョンはジルに向き直りこう言った。
「おめでとうジル!彼ら!いや!転生されし魔獣の子らは
紛れもなく真魔界竜アナンタと君の子供だ!良くやってくれた!」
ジョンはジルの偉業を褒め称えた。
ジルはそれが嬉しくてたまらず感動の余り、少し涙を流した。
「ありがとう!ジョン!あたしも!」
「ああ、これで君はホラーの始祖メシアと同じ存在となった。
きっと始祖ホラー・メシアやギャノン、
エイリス様もお喜びになるだろう。
「そうね!でも……」
ジルは青い瞳でジョンの脚からつま先から
顔まで舐める様に見た後に口を開いた。
「あたしにとっていや貴方の復讐にとってとても
都合の悪い弱点がある!違う!」
ジョンは驚いた様子でジルを見た。
「まさか?僕の弱点をいつの間に?」
「そう!貴方の弱点は
『生命活動以上のエネルギーを使うと極度の飢餓状態になる』
これはどの道、貴方にとって困る筈よ!」
「ああ、そうだ!大天使ハ二エルを殺したせいで……」
ジョンは気分が少し落ち込んだ。
しかしジルは笑顔でこう言った。
「その弱点!あたしの観測の力で消し去ってあげる!
『生命活動以上のエネルギーを使うと
極度の飢餓状態になる事は決して無いわ!』
そんなものは貴方の身体に存在しない!」
ジルは生命活動以上のエネルギーを使うと
極度の飢餓状態になる事を否定した。
次の瞬間、ガラスがパリンと割れるような音がした。
ジョンは微かに「うっ!」と呻いた。
間もなくして憑き物が落ちたかの様に
一気に身体も精神も軽くなった気がした。
「ありがとう!弱点が消えてすっきりした。そんな気がする……。
感謝するよ。これで大天使数体を自分の弱点を心配せずに戦える!」
続けてジョンはジルにこう言った。
「そうだ!君に見せたい物があるんだ!」
「へえーなんなの?」
「では一度、真魔界から僕の大きな屋敷に戻って、
地下の武器庫に案内しよう。」
ジョンは再びジルの手を握った。
ジョンとジルは再び時空の歪みに消えた。
そして時空の歪みを通り、ジルとジョンはもう一度、
真魔界から向こう側(バイオ)の世界の大きな屋敷に戻った。
それからジョンは自分の部屋に案内した。
ジョンはジルを自分の部屋の中に入れた瞬間、
密かにジルに抱いていた欲望を露わにした。
ジョンはジルの両頬を掴むとそのまま彼女の唇にキスを交わした。
ジルもジョンの欲望に答える様に彼の身体を両腕で優しく抱きしめた。
彼女はジョンの口の中に自らの舌を入れ、
しばらくディープキスを交わした。
それから2人は静かにお互いの唇を離した。
「御免なさい。実は妊娠しているの……」
「分っている!アナンタの子供だろう?
さっき彼とよく似た気配がしたよ。」
「そうなの。だから……流石に寄る辺の女神とは言え、
貴方の子供を創造するのは……」
「じゃ!欲望を発散させるのは?」
悪びれた様子もなくジョンは隠し棚から
ピンク色のコンドームの袋を取り出した。
「とりあえず細菌感染症による絨毛膜羊膜炎を防ぐ為に
コンドームは絶対に必要だね?」
ジョンはピンク色のコンドームの袋をジルの目の前でちらつかせた。
「別にその気が無ければ!お互い椅子に座って
普通に世間話にしようじゃないか?」
「………………………」
しばらくジルは黙っていた。
間も無くして静かにジョンの前に両膝を付いた。
それからジルはジョンのズボンのチャックに両手を伸ばした。
ジルは無言でジョンのズボンのチャックを降ろした。
続けて両手で黒いトランクスパンツを静かに降ろした。
更にジルは右腕を伸ばし、右手を軽く左右振った。
ジョンはそのしぐさと意志を理解した。
そしてジルにさっきのピンク色のコンドームの袋を手渡した。
 
(第47章に続く)