(第50章)小芋(スモールポテト)その3

(第50章)小芋(スモールポテト)その3
 
クエントは自分がしでかした重大さを知らんふりして
全く反省する気ゼロのダリンの態度に呆れ果てていた。
「全く!貴方は無断で他の女の人を妊娠させたんですよ!」
「うーんそれの何処が犯罪なんだい?」
澄まし顔でダリンはそう答えた。
クエントは堂々と開き直る彼にむかっ腹を立てた。
しかし一方で苛立ちを必死に隠しつつも
調書を作成するクエント顔をまじまじと見た。
クエントはイライラした声でダリンにこう言った。
「貴方には色々白状して貰いますよ!その能力を何処で手に入れたのか?
または誰かに利用されたのか?って!何をじろじろと?……のわっ!」
クエントはダリンに凝視され苛立ち、彼の顔を見た。
そう彼の目の前には坊主頭に少し頼りなさそうな自分の顔があったのだ!
「まさか?本当に?」
「そうさ!!僕は今!君になったんだ!」
ダリンは近くにあった灰皿を掴み、クエントの右側頭部に叩き付けた。
油断していたクエントはそのまま勢い良くひっくり返り、
椅子から転げ落ちた。
 
30分後。
BSAAの聴取室で大きな物音がしたので
そこに慌てて烈花が飛びこんで来た。
一体?何があったのか?烈花は茶色の瞳を丸くして見た。
するとクエントを取り押さえているもう一人のクエントがいた。
いやどっちがどっちか烈花には見た目だけでは見分けがつかなかった。
余りにも似過ぎているのだ。
「クエント!まさか?本当にそんな能力が?」
クエントは素早く反応し、手錠を掛けながらこう答えた。
「はい!僕に化けて攻撃して来たので思わず反撃して取り押さえました!」
「さあー立って下さい!って!いや気絶していますね。」
「どうする気なんだ?」
公務執行妨害で逮捕します!」
クエントは気絶したもう一人のクエントを
無理矢理立たせた後、そのまま烈花と共に
BSAAの独房へ運び、檻の中へ入れた。
クエントは厳重に鍵を掛ける為、分厚い鉄の扉を閉めた。
更に厳重に鍵を掛けた。
「ハアハアハア!危うく油断しかけました!」
「やるな!クエント!とにかく無事でよかった!」
烈花はクエントを両腕で抱きしめた。
するとクエントはドキッと身体を僅かに震わせた。
その時、烈花は怪訝そうにこう尋ねた。
「どうした?いつもの事だろ?」
クエントは「ええ、そうですね!」とぎこちなく笑って見せた。
すると烈花も自然と笑顔になった。
何て愛らしい!凄く美人なんだ!
烈花さんって!こんなにいい女なんだ!」
それから烈花とクエントは一度ジルのオフィスへ戻る事にした。
しかしクエントは烈花にこう提案した。
「そう言えば!例の遺伝子検査は?」
「ああ、実はな!あの犯人のダリンの身辺調査を
パーカーと鋼牙が調べてくれたのだけどな。
彼は本当にごく普通の一般人だったんだ。
でも彼はほんの3日間だけ行方が分からなくなったらしいんだ。
つまり?何者かに誘拐されて。
人体実験を受けた疑いがあるんだ!そっちは?」
「いや、彼は黙秘を続けて何もしゃべりませんでした。」
クエントの報告に「そうか……まるで手掛かりなしか?」と烈花は呟いた。
続けて両腕を組み、考え込んでいた。
クエントが烈花にバレぬように「やれやれ」と微かに呟いた。
そしてなにも手掛かりが得られぬまま烈花はクエントに誘われて、
一度、家に帰って、夕食を食べて休憩しようと提案した。
烈花はいつも自分が提案する事を初めて
クエントが提案した事に少し面食らった。
しばらくして「あんたがそんな事を言うとはね!初めてだよ!」
烈花はとても嬉しそうに愛らしい表情で笑った。
クエントは思わず鼻の下を伸ばした。
「おい!なんで鼻の下を伸ばす??」
烈花に指摘され、大慌てでクエントは真顔に戻った。
「本当に大丈夫か?体調が?」
「いやいや大丈夫です!さあさあ行きましょう!」
クエントは烈花の手を掴み、
慌ただしくBSAA北米支部から車に乗って出発した。
クエントは烈花を後部座席に乗せ、運転を始めた。
一方、クエントに逮捕されたクエントはようやく目を開けた。
しかしクエントは慌てて立ち上がり、牢屋の鋼鉄の檻に両手を伸ばした。
次の瞬間、バチィン!と火花が散った。
「うおっ!しまった!」
クエントは驚き、思わず尻餅を付いた。
彼は困り切った表情を浮かべた。
「ああ畜生!あの野郎!」
クエントは怒り狂い大声を上げた。
 
BSAA北米支部のジルのオフィス。
「遅いわね。クエントと烈花はなにしてんのよ?」
ジルは先程、資料の山や報告書を片づけ、
椅子に深く腰掛け、大きく背伸びして行った。
その時、パーカーが入って来た。
「元気かジル!体調は?」
「ええ、元気よ!勿論お腹の中の子もね!」
するとパーカーはジルにこう話しかけた。
「ジル!たまに運動した方がいいぞ!」
「ううっ!そうね!医者に運動しろと言われたから……」
ジルはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「そう言えば、聴取室でひと悶着あったらしいぜ!
何もクエントに暴力を振るって、しかも容疑者のダリン・ブラントが
クエントに変身したらしい!今地下の独房にいるそうだ!」
「えっ?ちょっと!どうしてその事を報告しないの?マツダ代表には?」
「さあーな。暇なら見に言ったらどうだ?」
「ええ、運動ついでに見に行くわ!」
ジルはパーカーと共にオフィスを出た後、地下の独房へ向かった。
何故かパーカーもついて来た。理由は自分も暇らしい。
地下の独房に入ったジルとパーカーは
独房の一番奥の檻の中にいるクエントを見つけた。
「貴方が噂の火星人?」
ジルは恐る恐る話しかけた。
その時、いきなりクエントは立ち上がった。
やがて大声でこう叫び出した。
「違います!その火星人に一杯喰わされたんです!」
クエントの言葉に驚き、パーカーとジルはお互い顔を見合わせた。
そしてクエントを見た。
「どういう事だ?まさか?本物のクエントなのか?」
「説明して?一体?何が?」
「だーかーらーあいつが僕に変身して!
僕を気絶させ!僕を独房に放り込んだんです!」
このクエントの言葉にパーカーとジルは目をぱちくりさせた。
「マジか?じゃ!烈花法師と帰ったクエントは?」
クエントは「あわあわ」と声を上げた。
「たっ!たたっ!大変です!このままじゃ!」
パーカーは檻越しでクエントに話しかけた。
「このままじゃ!どうなる??」
するとクエント同様、ジルの顔が青くなった。
「セックスして彼と彼女の子共が!」
「そんなの絶対に嫌です!!お願いですっ!!
お願いですっ!!ここから出して下さい!!」
クエントは涙目でそう訴えた。
「分った!」とパーカー。
「でも?もし偽物だったら?」とジル。
 
(第51章に続く)