(第22章)孤独

(第22章)孤独
 
烈花とクエントは一度、食堂を出て、また大ホールに戻った。
2人はしばらく一階部分を調べようか2階部分を調べようか迷った。
そしてクエントは「2階のテラスを調べてみよう」と提案したので
烈花はそれを受け、正面の階段を昇り、2階に向かった。
それから2階へ昇ると右側の2つの茶色の扉の内、
2階の廊下に続く茶色の扉の下部にある少し長い廊下の先の
もう一つの茶色の扉を開け、入った。
中に入ると白い壁と床に覆われた一本の長い廊下が見えた。
直ぐ近くの窪みには四角い窓があり、中にはクマの人形が入っていた。
「これは?『R型』の物でしょうか?」
「ちょっと!壁に文字が!」
クエントはテラスに続く廊下の壁に刻まれた文字を指さした。
烈花は近付き、壁に刻まれた文字を読んだ。
「イエスは壁から見守っている。
けれどその顔は石のように冷たい。
もしも彼が言う様にイエスがあたしを愛しているなら。
何故、私はこんなに孤独なの?」と。
更に周囲の壁には丸で踊っているように見える
無数の十字架が刻まれていた。
「これは?『R型』が書いたのか?」
「多分、そうかも知れません」
そして長い廊下の先の横には扉があった。
「おい……これは?」
「まさか?これは?蛭?」
そう、長い廊下の先の横にある扉は緑色の体色にヌメヌメした
20cm余りの短い蔦状の植物の
蛭の群体が貼り付き、隅々まで覆い尽していた。
しかも20cm余りの短い蔦状の植物のヒルの群体はお互いを
特殊な粘液で結合し合い、分厚い壁の様になっていた。
しかもクエントが注意深く触っても攻撃する事無く
まるで20cm余りの短い蔦状の植物の蛭の群体は
ひたすら何かを守っている風に見えた。
間も無くして20cm余りの短い蔦状の植物の蛭の群体に
覆われた扉の向こう側から女性の声が聞えて来た。
「もしかして?また『R型』『シイナ』それとも純粋な人間?」
「はい!生存者ですね!」
「よし!待ってくれ!ここから!」
生存者がいると知った烈花はパッと顔を赤くした。
続けて生存者の女性を救出しようと両手でハンドガンを構えた。
次の瞬間、20cm余りの短い蔦状の植物の蛭の群体に
覆われたドアの内側から慌てふためいた女性の声が聞えた。
「ちょっと!ちょっと!まって!まって!壊さないで!」
「烈花さんちょっと待って下さい!銃を降ろして下さい!」
クエントは慌てて烈花が両手で構えたハンドガンを強引に降ろさせた。
「何故?これは?」
戸惑う烈花に対し、クエントは20cm余りの短い蔦状の
植物の蛭の群体に覆われた扉の向こう側の女性に質問した。
「この先はテラスじゃないんですね!」
「ええ、ここはあたしの部屋!机もベッドもトイレもあるわ!一応……」
「テラスじゃないのか……」
「何故?貴方達はその中に閉じ込められているのですか?」
クエントの質問に20cm余りの短い蔦状の蛭の群体に
覆われた扉の向こう側の女性はしばらく考えていた
ようだが間もなくして口を開き、答えた。
「あたしとシイナ・カペラは同性愛なの」
「つまり?女が女を愛し合うってあの?」
烈花は少し信じられないと言う表情でクエントを見た。
20cm余りの短い蔦状の蛭の群体に
覆われた扉の向こう側の女性は話を続けた。
「あたしは元御月製薬北米支部の極秘研究所『ハイブ』の研究だったの!
反メディア団体ケリヴァーのリーダーの若村は『R型』
が拡散するB型Tエリクサーのワクチンを自分の部屋と
あてがわれた実験室でやれ!と命令されたの!
あたしはこの洋館内に元々設置されていた研究設備を利用して
B型T-エリクサーのワクチンを製造していたわ。
勿論、恋人のシイナを含む
反メディア団体ケリヴァーのメンバー全員分のワクチンをね。
それでバイオテロ当日に全員にB型T-エリクサーのワクチンを投与して
『R型』を使って複数のメディア企業に
バイオテロ攻撃を仕掛ける計画だったの。
でも『R型』が暴走したとシイナから聞いて。でも……」
そこで20cm余りの短い蔦状の蛭の群体に覆われた扉の
向こう側の女性は僅かに声を詰まらせ、むせび、啜り泣く声が聞えた。
間も無くして彼女は自分が泣いているのにも構わず再び話を続けた。
「シイナは……シイナは……感染していたの……。
彼女には恋人のティモシー・ケインがいて、
別の国で結婚式の話をしていたの。
だからあたしはシイナに別れ話を持ちかけられて。
結局、別れたのよ。丁度『R型』が暴走する前にね。
もう、あたしの恋は終わった!そう思っていたの!
でもあの『R型』の暴走をシイナが教えてくれて!
恋人のケインはウィルスに感染して
植物人間に成りかけて自殺してしまったと。
あとシイナ自身も既に感染していて……
しかも『R型』に精神支配されていた。
でもシイナは『R型』の精神支配に強く抵抗を示していたわ。
だからあたしは彼女を助けようとB型T-エリクサーの
ワクチンを投与しようとしたけれど
『R型』に操られて一本破壊されちゃったの!
更に今まで作った分の大量のワクチンを全部壊そうとしたんだけど。
彼女は『R型』の精神支配に強く抵抗してなんとか自我を保って。
それであたしと正気に戻ったシイナと愛し合ったの。
つまり裸になって……その……。それで……。
正気に戻ったシイナは自分自身や植物人間(プラントデッド)
や他の怪物達から『R型』の攻撃からあたしを守る為に
扉をあの植物の蛭の群体で封鎖したの!
それと……あたし……妊娠しているの!
あたしの名前は『シャ―ロット・デューレ』よ!」
話を聞いた後、2人は一本の長い廊下を戻り、
大ホールの2階部分に戻った。
それから他にも生存している反メディア団体ケリヴァーのメンバーや
追っている『R型』の捜索と今回の事件の解明の為に、
手掛かりを求めて休まず行動を開始した。
他の書斎や剥製室、2階の個室を探してとりあえず
2階部分を重点的に捜索する事にした。
その時、クエントは口を開き、何かを言いかけた。
次の瞬間、ドガアアン!と大きな音が響いた。
2人はビクンと全身を震わせた。
同時に咄嗟に2階部部分の右側の2階の廊下に続く茶色の扉の方を見た。
すると右側の2階の廊下に続く著色の扉は激しく前後に震えていた。
「おい!なんなんだ!」
「分りません!」
更に2階へ続く右側の扉は何度も何度も繰り返し、
前後に激しく震え続けた。
ドガアアン!ドガアアン!ドガアアン!ドガアアアアン!ドガアアアアン!
そして一瞬の沈黙の後、バゴオン!と大きな騒がしい音を立てて
茶色の扉が蝶つがいごと外れ吹き飛んだ。
同時にあの20cm余りの緑色の短い蔦状の植物の蛭の群体が
まるで津波の様に2階大ホールなだれ込んで来た。
それはあっという間に大ホールの赤いカーペットや茶色の床を覆い尽した。
「なっ!また!あのヒル!」
「どうやら今回は敵意がある様です!」
大ホールに大量になだれ込んで来た20cm余りの緑色の
短い蔦状の植物の蛭の群体がまるで一つの巨大な生物の様に動き続けて
一斉に無数の鋸状の歯を持つY字型の口をバカッと大きく開いた。
そして20cm余りの緑色の短い蔦状の植物の蛭の群体は
一斉にクエントと烈花に向かって飛びかかり、襲い掛かって来た。
「マズイっ!」
「逃げる!さっさと!」
烈花はクエントのBSAAの服の首の後ろの襟をむんずと掴んだ。
そして半ば引きずる様にして引っ張って行った。
「うっ!ぐえっ!ちょっと!苦しいっ!」
クエントは首がしまり、微かに呻いた。
烈花は構わず、クエントを半ば引きずりながら
風の様な速さで走り、2階部分
の右側の廊下に続く茶色の扉を開け、閉めると
赤いカーペットの敷かれたコの字型の長い廊下を走り続けた。
一方、20cm余りの緑色の短い蔦状の植物の蛭の群体は茶色のドアを
蝶つがいごと破壊し、烈花とクエントを追って
コの字型の廊下を津波の様に進み続けた。
 
(第23章に続く)