(第38章)悲劇の始まり

(第38章)悲劇の始まり
 
若村が開けたドアの先の小部屋の横には細長い鉄製の通路
が付いていたので3人は直ぐにそこを渡った。
また横の壁には「工事中」の看板が並んでいた。
3人は無言で細長い鉄製の通路の先を進んだ。
先には「記録室」と書かれたドアが見えた。
3人は無言でそのドアを開けた。
そこは狭い四角形の部屋で幾つものVHSやフィルム、
CD等が無造作に床や木の机に散らばっていた。
そして中央には『R型』が立っていた。
すると『R型』はウフフフと笑い、3人にこう言った。
「教えてあげる!こいつの大罪を!あたしが大人を憎み殺す理由をね!」
R型は床にいるプラントリーチの群体を操り、
烈花の目の前でスマートフォンを差し出した。
彼女はそれを受け取り、無言でスマートフォン
画面に表示されている動画の再生ボタンを押した。
クエントと若村はスマートフォンの画面を覗き込んだ。
 
『R型』が暴走し、バイオハザード(生物災害)が起きる数時間前。
悲劇の始まりの日にして審判の日(ジャッジメントディ)。
そこは以前のリサのスマートフォンで見たあの洋館のこの地下、
つまり人体実験用の人間補充用の療養施設『クリオネ』の最下層の
恐らく広い洞窟を利用した場所に良く似ていた。
そこは広大で2階建になっていた。
天井には大きなシャンデリアが吊るされ、電球が光っていた。
灰色の大きな床に広がる部屋の中では沢山の
反メディア団体ケリヴァーのメンバー達、
シイナ・カペラ、パルカス・グリーム、
スーザン、二クル・クライス、
トーマス、テリコ、マルクス・ウォーレン、ケイト・ブランジェット、
ティモシー・ケイン、リリー・ヴィクトリア、コディ・ノア、メイスン、
その他多数のメンバーが若村の周りを取り囲んでいた。
その中央に怯え切った表情で彼を見つめる『R型』の姿があった。
「お願い……止めて……壊さないで……」
若村は鬼のような形相で『R型』を睨みつけた。
「悪い子だ!悪い子だよ!隠していたテレビで見るなんて!」
「お願い!おじさん聞いて!テレビ番組は悪くないの!」
すると若村はハハハハッ!と笑い出した。
「そう!全てはテレビが悪いのさ!!そうだろ?みんな!!」
彼は周囲のメンバーに意見を求めた。
するとみんな一斉に「そうだ!」
ゲーム脳は子供をダメにする!」
「テレビは子供の想像力を奪う!」
「子供はメディアのせいでダメになる!」
「テレビやゲームやスマホを捨てれば人の心は豊かになるんだ!」
「早く消すんだ!」
「コンピューターやインターネットは子供を引きこもりにする!」
「早く消せ!捨てなければならない!」
すると『R型』は両手で耳を塞ぎ、絶叫した。
「いやああああああああっ!やめてええええっ!
やめてえよおおおおおっ!いやっ!」
『R型』は泣き叫び、激しく叫び続けた。
彼女の悲鳴と彼らの声は同調し、大きく風船のように膨らんだ。
そして『R型』の心を押し潰し、苦しめて行った。
「今すぐ!ビデオデッキを捨てろ!テレビを捨てろ!」
「親の理想についていけない原因はメディアのせいだ!」
若村は「もうその位にしよう!私が話す!」
若村の鶴の一声に周囲のメンバーはようやく静かになった。
「そう言う事だ!みんなは君が悪いと思っている!
だから罰を与えなければ駄目だ!分るね?!」
若村は左肩にハンマーを担いだ。
そしてテレビの前に立つとスイッチを付けて、
『R型』の好きなテレビ番組を流した。
テレビでは楽しそうにキャラクター達が会話し、日常から離れた世界で
敵と戦っているそんな光景が映し出された。
しかし若村は両腕を振り上げて『R型』の好きな
テレビ番組が映し出されたテレビ画面に向かってハンマーを振り降ろした。
「やめてえええええええええええええええええええっ!!」
振り降ろされたハンマーはテレビ画面に直撃した。
同時にバリンと音を立ててテレビの液晶画面が粉々に砕け散った。
そして何も映らなくなり、『R型』が愛したキャラクターは姿を消した。
更に若村はハンマーをまた振り上げた。
更に狂った様にもはや何も見えない
テレビ画面に何度も何度もハンマーを叩き付けた。
ガシャン!パリン!パリン!ガッシャアン!
テレビの液晶画面のみならずテレビの箱の原形を留めない程まで
粉々に破壊し尽くし、テレビは文字通り瓦礫の山と化した。
若村は瓦礫の山と化したテレビの山の上に乗った。
続けて何度も何度も何度も踏みつけ踏みつけ踏みつけ。
踏みにじり踏みにじり踏みにじり、ハンマーで叩き続けた。
『R型』はただ何も出来ず叫び続けた。
そしてただ泣き叫びながら「やめて!」と彼に訴え続けた。
しかし若村は聞く耳を一切持たずテレビを完膚なきまで破壊し尽くした。
それから一部のメンバーは「流石にやり過ぎでは?」
「酷い」との声がヒソヒソと聞えて来た。
若村は『R型』を睨みつけ、威圧するようにこう言った。
「もう!今後メディアに触れない事だ!嫌な思いをしたくなければ!
私に従いBOW(生物兵器)として!メディアの悪党共を滅ぼすんだ!
私に黙って従えば大自然に触れ合える!
そして豊かな動物達や森に出会える!」
しかし『R型』は大粒の涙と鼻水をぐずぐず垂らし、
顔を真っ赤にして泣きじゃぐった。
「泣くな!泣くな!悪かったよ!動物のぬいぐるみを……」
とまで言いかけた時、急に『R型』の表情が消えた。
「どうした?……だから……」
次の瞬間、『R型』はキィン!と言う音を立てて目にも止まらぬ
早さで広い洞窟を利用した1階の出口のドアを見た。
同時にドガアン!と太い巨大な植物の蔓が灰色の床から隆起して伸びた。
そして太い巨大な植物の蔓はあっと言う間に出口のドアを覆い尽した。
続けて『R型』はキィン!と言う音を立てて2階の出口のドアの方を見た。
同時にドガアン!と太い巨大な植物の蔓が
2階の灰色の床から隆起して伸びた。
そして太い巨大な植物の蔓はあっと言う間に
2階の出口のドアを覆い尽した。
『R型』はキィン!と言う音を立ててシャンデリアを見た。
次の瞬間、バリバチとシャンデリアの電球が粉々になり、
たちまち部屋の中の周囲は薄暗くなった。
それから『R型』は両瞳を異常なまでに大きく眼球が
飛び出さんばかりに大きく見開き、グルグルと高速回転させた。
それから驚いた反メディア団体のケリヴァーのメンバー達は
一斉に太い巨大な植物の蔓に覆われた一階の扉に殺到した。
全ての扉は太い巨大な植物の蔓に遮られドアノブにすら触れず、
誰一人この部屋の外へ出る事が出来なかった。
「助けて!誰か!お願い!」と二クルが叫んだ。
「どうなっているんだ!」「イヤアアアアッ!」「畜生!」
多くのメンバーは懸命に太い巨大な植物の蔓に覆われた
一階の扉を懸命に押したり叩いたりして
脱出を試みたがドアはびくともしなかった。
更にドアに殺到した人数が増えるにつれて、苦しそうに呻き続けた。
そしてメンバー全員が不様に家畜の豚のように
部屋の外に出ようとパニックに陥る中。
『R型』の全身からまるで深い深い井戸の底から
大量の水が噴き出すかのようにあの20cm余りの緑色の植物型
ヒル・プラントリーチが無数に湧き出てきた。
同時に周囲に散らばり、大勢の反メディア団体
ケリヴァーのメンバーに襲い掛かった。
そしてプラントリーチはY字型の口を開いた。
続けて無数の牙で若い女性の全身の衣服や皮膚に食らいついた。
また別の場所でも男性の身体は大量のプラントリーチが飲み込んだ。
若い男性は絶叫し、泣き叫びながらヨロヨロと周りを彷徨い歩いた。
間も無くして散々彷徨い歩いた末に断末魔の絶叫を上げた後、
男性の顔面や肉体は完全に溶けてしまい、頭蓋骨や白骨化が進み、
男性の肉体はあっと言う間に腐り果てて完全に崩壊後、
茶色の液体となり、ビチャッ!と周囲に撒き散らし、即死した。
また若い女性も甲高い声で苦しみ呻き、
泣き叫び、断末魔の絶叫を上げた後、
美女の顔面や肉体は醜く溶け落ち、頭蓋骨や白骨化が進み、
美女の肉体はあっと言う間に腐り果てて完全に崩壊後、
茶色の液体となり即死した。
それは連鎖的に男女問わず発生し、
顔面や肉体は醜く溶け落ち、頭蓋骨や白骨化が進み、
男女の肉体はあっと言う間に腐り果てて完全に崩壊後、
茶色の液体となり次々と即死して行った。
周囲はたちまち地獄絵図と化して行った。
そして悲劇は次の章でも続いた。
 
(第39章に続く)