(第37章)Xの宝箱

(第37章)Xの宝箱
 
洋館の外の中庭。
ジョンとの会話を終えたゾイは無線を切った後、
クエントと烈花にこう言った。
「そう言う事だ!私は一度武器と装備を整えてから
直ぐにあとを追う!あんた達は先へ行って欲しい!」
「分りました!行きましょう!烈花さん!」
「ああ、行くぞ!若村!」
「おい!ちょっと待て!俺は一般人だぞ!」
すると烈花は鋭い視線で若村を見た。
「悪いがあんたから!ここで何があったのか事情が
聞けていないからな!ついてきてもらうぞ!」
「ええっ!そんな!ふざけんな!俺はっ!」
「ついてくるんだ!ちゃんと原因が何か白状して貰うぞ!
例え地獄の底だろうがな!いいな!分ったな!」
若村もようやく観念し、とぼとぼ烈花とクエントのあとをついて行った。
その時、ふとクエントは急に何か思い立った様子でゾイに質問した。
「どうして!シイナさんを助け出そうとしたんですか?」
するとゾイは自信を持ってこう返した。
「まだ19歳の子供のあの子を大人の責任として
必ず助け出す!とジョン様と約束したからさ!」
「大人の……責任……か……」
「立派ですね!大人として!」
クエントに褒められ、ゾイは少し顔を赤くして照れた。
「そっ!そうか?ハハハッ!ありがとう!!」
ゾイの笑顔は何処にでもいる普通の女の子の優しい表情だった。
若村はそれと疎ましく思い、チッと舌打ちをした。
3人は早足に来た道を引き返し、洋館の中庭に続く納屋の小部屋に戻った。
そして小部屋の中に左右に金色に輝く十字架が置かれた茶色の
木の机の中央にある巨大な分厚い黄金の扉鉄の扉があった。
クエントは分厚い鉄の扉のドアノブのクリオネの模様を確認した。
そしてクリオネの形をした鍵を鍵穴に入れてガチャッと回した。
すると分厚い黄金の扉は静かにギイイッ!
と音を立ててゆっくりと左右に開いた。
同時にバラバラと3人の頭上に埃が降って来た。
その中は広い四角形の廊下になっていた。
また真横の壁には鉄のプレートが貼ってあった。
それはかなり古く錆びに覆われていた。看板には。
「アークレイ山脈・アンブレラコーポレーション。
ウィルス兵器及びBOW(生物兵器)の実験による研究開発に
必要な人体実験用の人間補充専用療養所『クリオネ』建設予定地」
また完成予定が2017年で工事開始が1971年の様だったらしい。
だが既に2004年にアンブレラ社はジルとクリスの活躍によって
倒産している事から(裏にはアルバート・ウェスカーの暗躍もあった。)
完成前に工事は中止され、放置されているのだろう。
「アンブレラ社の施設だったのは間違いないですね!」
「つまり療養所に偽装して人間を実験台に?」
「元々は研究所の予定が変更されてこの療養所になったのかも?」
「ここで……何万人がウィルス実験で死んじまったんだ……」
若村は改めてBOW(生物兵器)やウィルス兵器の
恐ろしさを知り、思わず身体を身震いさせた。
そして自分達が利用しようとしている『R型』も
BOW(生物兵器)だった事を思い出し、足がすくみそうになった。
それから四角い扉の廊下の先の分厚い鉄の扉の前にクエントが立った時、
不意に烈花は看板近くの白い壁にXの字が刻んであった。
「これは?もしかして?」
シャーロット・デューレさんが言っていたXの宝箱でしょうか?
ですが……洋館に隠したって……」
「烈花は直ぐにXの文字が刻まれている白い壁を軽く殴って見た。
すると簡単に白い壁がバコッと壊れた。
そして中からおもちゃの宝箱が出てきた。
宝箱の中にはT-sedusaのワクチンが3本入っていた。
更に穴の奥を覗くと奥の部屋に何個もおもちゃの宝箱が見えた。
恐らく全てワクチンだろう。
「ここに彼女は隠していたんですね!」
「これで!R型を助けられる!!」
それから烈花、クエント、若村は目の前のドアを左右に開き、先へ進んだ。
目の前には巨大な円形のエントランスが見えた。
円形のエントランスの内側には錆びた
無数の鉄柱やフェンスが所狭しと並んでいた。
フェンスには『工事中』と書かれた看板が多数貼ってあった。
「やはり……手付かずのままのようですね!」
「放置されてかなり時が経っているようだ」
3人が一歩その円形のエントランスに足を踏み入れた。
円形のエントランスの中は薄暗かった。
しかし中央に茶色のポニーテールの髪に茶色の瞳の
『R型』が一人寂しくぽつんと立っていた。
「『R型』っ!もう!こんな事は止めるんだ!!」
「いやだっ!あんた達が悪いんだもん!!」
悪いだと?何を言っているんだ?
俺や仲間達は正しい事しようとしているんだ!
俺や仲間達は悪くない!!いいか!
パソコン、テレビ、ゲーム、スマホ、携帯等の
メディアは排除すべきなんだ!
つまりこの世界から無くさないといけない!!
あんたが守ろうとしている子供達も!
他のメンバー達もメディアのせいで不幸になっているんだ!
だからあんたの好きなテレビ番組やニュース
を創るテレビ局やゲームやスマホを創る会社は全て抹殺……
うっ!ぐっ!す……べき!ぐああああっ!ぐおおおおっ!ああああっ!」
若村は急に酷い頭痛に襲われた。
「人間の屑!人間に屑はクズらしく死ね!でも!
それじゃ!みんな!分からない!分らないの!だからっ!!」
若村は両手で頭を押さえ激しく呻き続けた。
更に頭痛は酷くなり、強い吐き気が襲った。
「うっ!ぐえっ!がっ!やめろ!なんで!ぎいやああっ!ぐうあっ!」
『R型』は若村に向かって掌を差し出し、念を込め続けた。
やがて若村の体内でT-sedusa(シディユウサ)が活性化した。
若村は急激な細胞の変化により、激しい痛みと共に全身の
あらゆる場所の皮膚が次々と裂けて行った。
同時に血管も千切れ、プシュウと血が噴き出した。
「よせ!馬鹿な真似はやめろ!」
「烈花さん!Xの宝箱を!!」
クエントに言われ直ぐに烈花はXの宝箱を投げた。
彼は素早くそれを受け取ると箱の蓋を開けて、
ワクチンの入った注射器を取り出した。
再びクエントは烈花に宝箱を放り投げ、烈花が見事キャッチした。
クエントはワクチンの入った注射器を水平に構えた。
続けて身体を大きく捻り、半回転させた。
それからワクチンの入った注射器を持っている手を振り降ろした。
同時にワクチンの入った注射器の針は若村の首筋の
皮膚の頚動脈に突き刺さった。
それから親指で注射器の底を押してワクチンを投与した。
すると若村は苦しむのを止めた。
そして激痛と全身のあらゆる場所の皮膚が
裂けるのも治まり、出血も止まった。
若村はそのまま正気に戻り、仰向けに倒れた。
『R型』は怒りを露わにした。
「どうしてよ!こいつが!純粋な子供の宝を平然と奪う
盗人の壊し屋の小汚い大人の醜い姿にすれば!!
あたしの気持ちを少しは分ってくれるのに!!」
するとクエントは真っ当にこう返した。
「自分がとても嫌な事は他人にしてはいけません!」
R型は僅かに動揺した。
「あたしは!この汚れた世界を!汚れた大人達を抹殺して!
誰もが好きな宝物を大事に出来る未来のお友達の為に
この世界に新たな秩序を持つ千年王国を創るんだ!
だから!邪魔しないでよ!」
R型は憎しみがこもった視線をクエントに向けた。
「真実を教えてあげる!記録室を探して!」
それからR型は円形エントランスの先へあっと言う間に走り去った。
「また逃げたぞ!あのガキ!」
「あとを追うぞ!」
「もちろんですっ!」
それから3人は逃げ出した『R型』を追って先へ進んだ。
3人が正面のドアを開けた先には3つの四角い小部屋
になっていて右側と左側にまた別のドアがあった。
左側のドアには『R型』が立っていたが直ぐにブチッと音を立てて消えた。
どうやらさっきの『R型』の姿は若村にしか見えず
烈花とクエントには見えないようだ。
「こっちだ!多分!記録室だ!」
若村を先頭に烈花とクエントは右側のドアを開けた。
 
(第38章に続く)