(第48章)ミッドナイトシャッフル(後編)

(第48章)ミッドナイトシャッフル(後編)
 
烈花は穏やかな笑みを浮かべ、『R型』の茶色の瞳を見据えた。
その後、口を開き、こう言った。
「さっき言ったはずだぞ!怒りや憎しみでは決して真の強さは生まれない!
今更あんたに憎しみや怒りをぶつけたところで無意味だ!
俺が望むのはただ一つ!『R型』が己の罪を認め!
悔い改め、その先、大人になっても真の力で人々を守って欲しんだ!」
「・・・・・・・・・」
すると『R型』はようやく犯した罪の重大さに気づいた。
『R型』は不意に両瞳から大粒の涙を流した。
「でも!あたしの力があればみんなを守れるだけ……」
「驕るな!『R型』!」
『R型』は思わず、絶句した。
「自らに力量をよく考えもせずに幾ら軍用AI(人工知能)や
T-sedusa(シディウサ)ウィルスの力を借り、あがいたところで
守りし者の顔が見えている大人他達には敵わないっ!
その力で所詮!幼い精神が未熟な子供には不可能なんだ!」
『R型』は崖下に突き落とされた衝撃を受けた。
「そんな事はない!そんな事は無いんだああーっ!」
『R型』は一人、烈花に向かって駆け出した。
そして左手首から緑色の蔓が複雑に絡んで出来たナイフを生やした。
「うおおおおおおおっ!」
『R型』は雄叫びを上げ、左斜めに振り下ろした。
しかし烈花は振り下ろされた右手首から伸びた緑色の蔓が絡んで
出来たナイフを目にも止まらぬ速さで左腕で軽く弾いた。
『R型』はそのまま右腕が大きく後ろに曲げられ、バランスを崩した。
同時に烈花は『R型』の小さな右脚をしなやかな長い脚で蹴り、あおむけに倒した。
さらに烈花は魔導筆からオレンジ色の太い柱を放ち、
『R型』の右胸部に強くぶつけた。
『R型』は「うっ!」と声を上げた。
更に『R型』は必死に上半身を起こそうとした。
しかし烈花の魔導筆から放たれたオレンジ色の柱は『R型』の
胸部に当たったままで白い岩の床に固定されたままで全く上半身を
幾ら常人離れした怪力を以てしても起き上がる事が出来ず、
『R型』は仰向けに倒れたまま全く身動きが出来なくなっていた。
烈花は白い岩の床に倒れて動けない『R型』を見据えるとこう言った。
「T-sedusa(シディウサ)や軍用AI(人工知能)に頼らず
己自身の肉体だけでは俺にはかなわない!それが今のお前の力だ!
『R型』!今のあんたに純粋な宝物を大事にする子供達を守る力は無い!」
「ううっ!ぐそおおっ!かはっ!はっ!」
『R型』は必死に起き上がろうとした。
しかしどうやっても起き上がる事は出来なかった。
それから『R型』は烈花の茶色の瞳を見た。
悔しさと驚きの混じった表情を浮かべながら。
やがて烈花は魔導筆から伸びたオレンジ色の柱を消した。
『R型』がゴホッゴホッと咳込みようやく起き上がった。
すでに烈花と『R型』はお互い目の前にいた。
「何故?純粋な子供達から大事な宝物を奪う汚い大人達と戦って倒したい?」
何気なく聞いた烈花の質問にこう答えた。
「悪い奴らだからよ!」
烈花は小さく溜め息をつきこう答えた。
「それじゃ!駄目だな!
何故?俺達が命懸けで見ず知らずの子供達や大人達が住む
世界を守ろうとしているのか?なぜ何故?あんたにその力がないか?
その答えはこれから生きて一人前の大人になった時、きっと分かるはずだ!ローズ!」
次の瞬間、『R型』の脳裏にある記憶が蘇った。
それは軍用AI(人工知能)が持つデータベースメモリー
ではなく生身の『R型』の脳の記憶だった。
『R型』は直感的に10年前に烈花と『R型』が夢の中で初めて出会った日だった。
『R型』は暗闇の中、必死に誰かを呼び続けていた。
間も無くして一人の女性の声が聞こえて来た。
「誰だ?何者なんだ?」
それから『R型』は女性の声の主の声が分からず不安で怖くて
長い間返事が出来なかった。どうやら女性の方も不安らしい。
もう一度問いかけてきた。
「誰かいないのか?」と。
だが『R型』は不安感に押しつぶされて返事が出来なかった。
そして相手の女と同じく自分も不安が重くのしかかった。
「だれか?返事をしてくれ!」
「誰……ママ……ママなの?」
ノイズが混じったような声だがこの際、仕方がない。
すると返事が入って来た。
「俺は烈花だ!聞こえているなら答えてくれ!」と。
『R型』は烈花の前に現れた。自分そっくりだと思った。
すると烈花はこう言った。
「俺そっくりだな!まさか?『R型』か?」
「貴方から産まれたの。アールガタ?あたしの名前?
なんだか変な名前!ママがつけた名前がいいな!」
『R型』は甘えるようにそう言った。
烈花はママとして色々な名前を考えてくれた。
長い間、烈花は「うー」とか「んーつ」と唸り、
名前の無いただ『R型』と呼ばれる存在に名前を与えようと
考え続けた末にようやく名前が決まった。
「『ローズ』」と。『R型』はそれを気に入った。
そして笑顔で烈花にお礼を述べた。
続けてぺこりと頭を上げたのだ。
やがて『R型』は目の前がフラッシュバックした後、全てを思い出した。
そう目の前にいる烈花こそが自分のママだったと。
どうして?今まで忘れていたんだろう?分からないけど……あたし……。
「ママ……本当にママなんだよね?」
「本当だ!俺はあんたのママだ!大事な我が子だ!」
そう言うと『R型』は力無く烈花の胸の中に入り込んだ。
『R型』いや、ローズは泣いていた。
対して烈花も『R型』いやローズを両腕でそっとしっかり抱きしめた。
2人の宝石のような茶色の瞳から静かに大粒の涙が
両頬を伝ってとどめなく流れ続けた。
しかしその時、「ピイイイイッ!」と言う甲高い鳴き声が
烈花と『R型』ローズの耳の中に突き刺さるように聞こえた。
烈花と『R型』ローズは驚き、甲高い鳴き声が聞こえた方を素早く見た。
すると先程、一階でクエントと戦っていたエロースが下腹部から
伸ばした細長い触手の内の一本が伸び、先端の2対の角のある
青い頭部がバカッと割れ、6本の細長い触手を伸ばした。
『R型』はエロースに向かって叫んだ。
「ダメ!エロース攻撃を中止して!」
しかしエロースは『R型』の言うことを聞かず、
素早く6本の細長い触手を『R型』を抱きしめている烈花の方へゆっくりと向けた。
烈花は素早く『R型』を自分の背中に隠した。
直後、エロースの6本の細長い触手は烈花のBSAAの服に覆われた
大きな柔らかそうな丸い右胸に向かって素早く伸びて行った。
「ダメエエエエエエエエッ!ママを殺さないでえええええっ!」
『R型』は絶叫した。次の瞬間、無意識の内に母親である
烈花を守ろうとT-sedusaの力を使った。
そしてバキイン!と言う一階の分厚い岩の床が砕ける音と共に
一枚の分厚い無数の長い蔓が複雑に絡んだ巨大な壁が高速で形成された。
そして生成された一枚の分厚い無数の長い蔓が複雑に絡んだ巨大な壁が
一階から二階まで伸びエロースの細長い触手の前に立ち塞がった。
「ピイイイッ!」と痛みで悲鳴を上げ、エロースの6本の細長い触手は
『R型』が形成した分厚い無数の長い蔓が複雑に絡んだ巨大な壁に激しく激突し、
間一髪、『R型』と烈花に6本の細長い触手が届く事はなかった。
 
(第49章に続く)