(第47章)ミッドナイト・シャッフル(前編)

 
 
 
 
 
 
(第47章)ミッドナイト・シャッフル(前編)
 
烈花は細長い廊下の先にいる『R型』のところへ行こうと歩き出した。
すると『R型』はクイッと上に挙げた。
次の瞬間、四角い廊下の白い岩の床がバリンと割れ、太く長い植物の蔓が
一本伸び、烈花の目の前に立ち塞がった。
烈花はすぐさま魔導筆を片手で構えると手首をくるくると回し『砕』の文字を描いた。
同時に「ハアッ!」と気合を入れた。
さらに続けて円を描いた後に立ち塞がっていた太い長い植物の蔓はバキイン!
と音を立てて粉々になり、たちまち崩壊した。
『R型』は再び怒りと憎しみを露わにした。
続けて全身からまたあの洋館の大ホールの時と同じく真っ赤な光が放たれた。
『R型』は怒りと憎しみを込めてこう言った。
「『神の戦車』の名の元に天に召されなさい!」
『R型』は掌からバリバリと真っ赤な電撃と共に真っ赤に輝く三角形の弾丸を放った。
烈花は素早く魔導筆を手首でクルクルと回転させた。
すると筆先からオレンジ色の、文字では無く鳥の翼を描いた。
同時に『R型』掌から放たれた真っ赤に輝く三角形の弾丸は
先程描かれたオレンジ色の鳥の翼に直撃した後、砕けて消えた。
「なんなの?それ?なんなの?その力?データベースに!!」
『R型』はいきなり自分の攻撃が利かなくなった原因を探ろうと
軍用AI(人工知能)のデータベースにアクセスした。
しかし目の前の四角い画面にはこう表示されていた。
「烈花に関するデータは全て削除されました。
敵能力分析プログラム動作停止中。
烈花の能力に関するデータは一致しません。」
「ぐぞおおおおおっ!リー・マーラ!あんたのせいね!この裏切り者!」
『R型』はリーに裏切られたと思いますます心を乱した。
『R型』は怒り任せに右腕から真っ赤に輝く稲妻が水平に放たれた。
すると烈花は魔導筆の筆先を空に向け、『風』の文字を描いた。
同時に天井高いオレンジ色の輝く暴風が吹き荒れた。
そして大きな雷鳴と共に落ちた真っ赤に輝く稲妻は
オレンジ色に輝く暴風で吹き飛ばされ、あっと言う間に打ち消された。
続けて烈花は白い灰色の床に魔導筆の筆先を向けた。
また再び文字を描いた。描かれた文字はまた同じ『風』だった。
同時に烈花の周囲の視界はまた緑色に染まった。
だが彼女の周囲を高速で肉体を切り刻むかの如くナイフの刃に似た風は
新しく烈花の周りに形成された暴風が次々と火花を散らし、全て弾き飛ばした。
烈花は無傷であり、細長い廊下の壁には幾つかのナイフの刃に似た風で
切り刻まれた傷跡が無数についた。
勿論『R型』も無傷だったが完全に取り乱していた。
「そんなあ……さっき!あの時は効いたのにーっ!」
今にも泣きそうな表情で『R型』が言うと烈花は毅然とした態度でこう答えた。
「もう!二度も気絶せん!」と。
「ぐぞおおおおおっ!どーして!どーして!ええっ!」
『R型』は今までうまくいっていた事が出来ず、大声を上げた。
続けて再び白い灰色の床から無数の蔦に覆われた太く長い先端が
鋭利な触手を烈花に向かって3本伸ばした。
しかし烈花は両手で魔導筆を構え、左右に振った。
すると振ったときにまたオレンジ色の五角形の壁が現れた。
そして3本の鋭利な触手がオレンジ色の五角形の壁に激突した
瞬間、バリンと割れ、消滅した。
「もう!いい加減にしろ!これ以上人を殺すな!」
「嫌だあっ!殺してやる!みんな!あんたも!みんな!」
「わがままを言うのにも限度と言うものがあるぞ!
これ以上!わがまま言うなら許さないぞ!」
烈花は茶色の瞳を『R型』に向け、鋭い視線に向けた。
「あんたなんかに負けないもんっ!ううっ!」
『R型』は烈花の茶色の瞳から放たれるする鋭い視線に圧倒され、僅かに後退した。
「俺はあんたを産んだ!正確には産んでしまった!俺は母親なんだ!
だからあんたの悪事は止めなければならないっ!
俺はっ!覚えているはずだ!あの10年前に記憶を!」
「覚えていないよ!それにあたしはもう大人なんか信用しない!
どうせ嘘でしょ?甘い言葉で騙して最後には裏切るんでしょ?
そうでしょ?そうよね?」
「違う!俺はあんたを裏切ったりしない!
それに俺があんたの母親だというのは真実だ!
俺の言葉に嘘偽りはない!『R型』お前は若村という男に自分が大事にしていた宝物!
つまりお前が大好きだったテレビ番組を奪われた!
その為!『R型』!あんたは!本当は他の子供達を守りたい訳ではないっ!
自身の奪われた大事な宝物に執着しているだけだ!つまり自分自身の為なんだ!」
「違う!違う!純粋な宝物を大事にする子供達を守る為に大事な純粋な宝物を
奪う小汚い大人達を全員!殺すのよ!
あたしは人の役に立ちたい!この大嘘つき!汚い大人め!」
烈花は『R型』の反応を見た時、思った通りだと思った。
『R型』は無理矢理、若村に自分が大事にしていた宝物!
テレビ番組を目の前で壊された事でその大事な純粋な宝物である
テレビ番組に対して捨てがたい執着心がある。
『R型』は自ら純粋な宝物を大事にする子供達を守ると言ってはいるが
実際は自身の復讐の為と自ら奪われた純粋な宝物である
テレビ番組に執着しているだけである。
そう考えた上で烈花はこう言った。
「『R型』はっきり言うぞ!お前のその巨大なBOW(生物兵器
エロースを外界に解き放ってウィルス兵器で小汚い大人達を
全員抹殺したら?残された純粋な子供達はどうやって生きさせるつもりなんだ?
小汚い大人達が純粋な宝物を大事にする子供達のご両親だったら?
一人ぼっちになった純粋な子供達があんたに復讐をしたら?
どうするつもりだ?そのあとの事を良く考えているのか?
その行動で本当に純粋な子供達が幸せになれると?
そう思っているのか?本気なのか?」
「ええ!そうよ!そうに決まっているじゃない!」
しかし烈花は『R型』の主張に無言で首を左右に振った。
「そんな事はない!よく聞くんだ!」
そう言いながらも烈花は『R型』に向かって歩き続けた。
『R型』怯えた表情でこう絶叫した。
「来ないでぇっ!来ないでぇっ!」
『R型』は両腕を組み、何度も左右に開いた。
すると『R型』の全身から真っ赤に輝く衝撃波が放たれた。
しかし烈花はそれもまともに食らっても決して倒れず確実に一歩一歩進み続けた。
「来ないでっ!あっち行けっ!ほっといて!」
『R型』はただ叫び、全身から真っ赤に輝く衝撃波を
何度も受けつつも一歩後退しては一歩進みを繰り返した。
しかも決して倒れずなおかつ諦める事さえしなかった。
「『R型』!よく聞け!テレビを目の前で破壊された
若村や大人達、反メディア団体ケリヴァーや世界中の
大人達への復讐心では決して真の強さは生まれない!
「うるさいっ!黙れえええええっ!お説教はもううんざり!」
「よく聞けと言っているだろおおっ!『R型』!!」
烈花の怒鳴り声は『R型』の言葉を圧倒した。
たちまち『R型』は口をパクパクさせ、黙り込んだ。
「お前には守るべきものがあった!『テレビ番組』だ!
しかし若村や大人達によって目の前のテレビ番組の世界を壊され!
失い!それを壊した反メディア団体ケリヴァーの人々を殺害した!
そしてその力いずれ我が身を滅ぼす結果を招くだけだ!
そうならずに済むには守るべきもの顔が見えているあんたに見えている事だ!
今のあんたにはそれが見えない!」
「じゃ……こんな事をしたあたしをBOW(生物兵器)として憎んではいないの?
本当は恨んでいるんでしょ?若村と同じで!
恨めしい命の無い物に支配された穢れた子供だって!」
すると烈花はさっきの怒りの表情から一変し、穏やかな笑みを浮かべた。
さらに烈花は『R型』を茶色の瞳で見据えた。
 
(第48章に続く)