(第51章)闇の牙

(第51章)闇の牙
 
エロースは再びオレンジ色の眼球のついた頭部の割れた
巨大な口から青い球体の形をした液体を吐き出した。
すぐさまクエントとゾイ,ジルは頭上を見上げた。
そして上下右に全速力で走り、降下してくる青い球体を回避した。
「気おつけて下さい!あれは強い酸ですっ!」
「そのようだな!」とゾイが先程、落下した、分厚い白い床を
見ると強酸で溶けて、深い窪みになっていた。
更に僅かにズブズブと白い煙が立ち昇っていた。
ジルは再び黒炎剣が変化したロンギヌスの槍を両手で構えた。
そして次々とジルの頭上から落下してくる強酸の詰まった
青い球体を全て高速移動で回避した。
更にエロースは巨体を生かしてジルに向かって急降下してきた。
しかしジルは逆にこれを利用し、目にも止まらぬ速さでロンギヌスの槍
細長い両刃の槍でエロースの青く透明な胴体の皮膚を何度も切り裂いた。
エロースは「ピイイイイッ!ピイイイイッ!」と痛みで叫んだ。
続けて上昇するとエロースは青い透明な胴体をジルによって
ズタズタに切り裂かれた皮膚を再生させようとした。
しかしどう言う訳かズタズタに切り裂かれた皮膚は再生せず
それどころかバックリと開いた傷口からドクドクと青い液体と血液を流していた。
「効いているのか?」
「再生能力が使えないようですね!これなら!」
クエントはジルのおかげで勝利の可能性を見出した。
再びジルは両刃の細長いロンギヌスの槍を目にも止まらぬ速さで振り回し、
今度はエロースの下腹部から伸びた多数の青い透明な触手を次々と輪切りにした。
やがて多数の細長い触手が岩の上に落下した後、6本の細長い触手と
4対の牙を剝き出し、小さく吠えた後にドロドロに溶けて崩壊した。
続けてジルは両手でロンギヌスの槍を構えた。
そして姿勢を低くして、分厚い岩の床を強く蹴った。
続けてジルはスレンダーな身体を右側に大きく捻った。
そしてジルは右腕を上下に高速で振った。
同時にロンギヌスの槍はジルの手を離れた。
ジルの右手から放たれたロンギヌスの槍は真っ赤に輝き、
鋭利な先端からバチバチと電撃を放った。
ロンギヌスの槍は高速でまるでミサイルのように飛んだ。
びゅうううっと空を切り、ロンギヌスの槍は再びエロースの
太い胴体の胸部に深々と突き刺さった。
「ピイイイッ!ピイイイイッ!」
エロースは甲高い声で悲鳴を上げた。
やがてエロースはブルブルと激しく身体を痙攣させた。
「何故?再生能力が無くなったんだ?」
「ああ、向こう側(牙浪)の世界にあるはずの魔戒剣がどうしてこんなに」
するとジルはゾイとクエントの質問に答えた。
「エロースはBOW(生物兵器)でありながら性、
または生命の象徴として現れている。そしてー。」
ジルは青い瞳を自ら持っている黒炎剣に向けた。
「この黒炎剣の性質は死の象徴。生と死の対立ー。」
ジルは解説しながらエロースは残り少ない青い透明な触手を次々と伸ばして
来るのでそれを高速で上下左右で回避し続けた。
「だからエロースの活動は抑制されるのよー。」
ジルは前転しながら分厚い白い床の上に着地した。
「もっとも弱体化させた肉体を再生させてあたしの中の
始祖ウィルスの源たる『賢者の石』を取り込んで自ら強化しようとしている。
でも無駄よ!いずれはロンギヌスの槍に込められたあたしの
賢者の石の力でどんどん弱体化して行くわ!
ジルは口元を緩ませ、ニヤリと笑った。
間も無くしてエロースの胸部に深々と突き刺さったロンギヌスの槍
両刃の細長い槍から形を変え、巨大な真っ黒な螺旋に
絡まる四角錐の形に変化した。
更にロンギヌスの槍全体の表面から見た事も無い未知の言語が浮かび上がった。
更に真っ赤に発光し、強烈な電波を発した。
同時にまるでラッパに似た轟音が広い四角い部屋に木霊した。
オオオオオン!ゴオオオオン!ゴオオオン!ゴオオオオオオン!
やがて2階建ての四角い部屋の周囲に赤い壁のようなものが急速に展開して行った。
エロースは再び悶え苦しみ始めた。
やがて赤い壁のようなものは何度も点滅した。
クエントとゾイは急に激しい頭痛に襲われた。
「うっ!わっ!」
「なっ!なんですか?あのロンギヌスの槍からですか?」
2人は改めてエロースの様子を見た。
エロースは悶え苦しみ、透明な体を激しく痙攣させた。
どうやらロンギヌスの槍が発した真っ赤に輝く力場(多分、賢者の石の力)
によって活動を抑制されているようだ。
間も無くしてエロースの青く透明な胴体の一部が溶け始め、
液化し、分厚い白い岩の上に流れ落ちて行った。
それは徐々に確実に全身に広がっていった。
クエントとゾイはどうにか頭痛が和らいだので
何が起こっているのか?尋ねようとジルの方を見た。
「今よ!トドメを刺して!これで最後よ!」
ゾイとクエントは良く事態が飲み込めぬまま同時に
右肩と左肩の上にRPGロケットランチャーを構えた。
そしてエロースの青い胴体の胸部に銃口を向けた。
「終わりですっ!」
「これで最後だ!」
ゾイとクエントはRPGロケットランチャーの引き金を引いた。
そしてRPGロケットランチャーの銃口から爆音と共に2発のロケット弾が放たれた。
放たれた2本のロケット弾はそのまま大きく左右に弧を描き、
エロースの青く透明な胴体に突き刺さっているロンギヌスの槍
中央の胸部を避けて青い透明な胴体の左右の胸部に直撃した。
ドガアアアアアアアアアン!と大きな爆発音が聞こえた。
続けてオレンジ色の閃光が炸裂した。
「ピイイイイイイイイイイイイイッ!」
エロースは断末魔の甲高い声を上げた。
そして巨大な全身は赤とオレンジの混じった炎に包まれた。
やがて全身の青く透明な皮膚は灰色に変色し、液化して行った。
さらに炎は外側をなめつくし、内側の残りの内臓器官を焼き尽くした。
しかし不思議な事にロンギヌスの槍が突き刺さった青い胴体の
中央部分は燃えずに円形に残っていた。
クエントとジル、ゾイはどうやらエロースの肉体は
間もなく分解され、細かくちぎれて溶けて行くのが見て取れた。
更にすでに完全に溶けて液化した下腹部から伸びた青く透明な細長い触手は
分厚い岩の床に液化して徐々に広がって行った。
しかし下腹部から新しく細長い触手が伸びて来た。
既に灰色となっており、先端は鞭のように鋭くなっていた。
そして一本はジルに向かって高速で伸びたが彼女は
腹ただしい虫のように造作もなく叩き落した。
更に灰色の触手は次々と伸び、ジルやゾイやクエントに向かって来た。
どうやら分解の過程の悪あがきのつもりだろう。
3人は完全にエロースが灰化して液化するまで何とか
無数に伸びる灰色の細長い触手を回避し続けた。
やがて賢者の石の力とロケットランチャーから生じた獄炎により
とうとうエロースの全身の細胞は灰色の液体となり、ついに完全に崩壊した。
そして液化し、バシャアアッ!と音を立てて分厚い床の上には大量の
灰色の液体が広がり、大きな水溜まりを作った。
周囲にはエロースが燃えて焦げた匂いに満ちた。
そして灰色の水溜まりの中央には漆黒の両刃の長剣
『黒炎剣』が突き刺さった青く輝く卵が残されていた。
「おっ!終わりましたか?」
「ええ、終わりよ!エロースは封印されたわ!」
「やっと終わったか……長かったな……」
ゾイとクエントはようやく安堵の表情を浮かべた。
ジルはつかつかと広い部屋の中央に広がっている
灰色の水溜まりをバシャバシャと水を跳ねて歩き続けた。
それからジルは『黒炎剣』が突き刺さっている青く輝く卵の元に歩み寄った。
ジルは広い部屋の中央に広がっている灰色の水溜まりを
バシャバシャと水を跳ねて歩き続けた。
 
第52章に続く)