(第53章)メディアと自然の共存を……。

(第53章)メディアと自然の共存を……。
 
それから『R型』暴走事件はようやく解決した。
のちに洋館の地下のかつてアンブレラ社が管理・運用していた
人体実験補充用の療養所『クリオネ』内に民間軍事会社
バイオテロとして再生した新生ブルーアンブレラ社
クリス・レッドフィールド率いる特殊部隊が突入してきた。
そしてBSAAの特殊部隊と合流し、今回の事件で生き残った
生存者の救出とまだ洋館やクリオネの施設内部に残っている
プラントデッドやその他クリーチャー達の排除の為に戦いを密かに繰り広げていた。
クエントと烈花、『R型』は他の生存者と共に救出ヘリに乗り込んだ。
そしてBSAAの救出ヘリに乗り込んだ全員、無事に洋館を脱出し、生還を果たした。
救出ヘリの中で『R型』とクエントは押し黙っていた。
クエントと『R型』はお互い同時に口を開きかけた。
「えっ!」「そのー」
すると烈花は思い出したように『R型』にこう尋ねた。
「そういえばローズが一番好きなテレビ番組ってなんだ?」
烈花の質問に『R型』事、ローズは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そしてしばらくもじもじと小さな身体を動かした。
「えーとね。えーとね。あたしはおさるのジョージとか。
ゲゲゲの鬼太郎、創世のアクエリオンとか怪獣王ゴジラとかアイドルタイム
フリパラとかね。ナルトとか。ボルトとか。忍たま乱太郎とか……一杯あるんだよ!」
「へえーいっぱいあるな。」
するとローズ恥ずかしそうにそっぽを向いた。
またローズがそっぽを向いた先にはBSAAの警備兵2人に
手錠をかけられ、座っていた若村の姿があった。若村はチッと舌打ちした。
「一番好きなテレビ番組だと?くだらないなあーっ!
どうして?お前達や大人達はテレビやゲーム、携帯が
悪いものだと理解出来ないっ!そして『R型』そんなもの
に依存していたら病気になって、君達の周りの人々の人生は破壊されて、
不幸になるんだ!悪い事は言わない!テレビや携帯、メディアは捨てて」
するとローズは「嫌だ!そんなの絶対に嫌だ!」と否定した。
更にクエントは氷のように冷たい口調でローズの代わりにこう答えた。
「そうですか?それはまだ同じ事の繰り返しですね。」
「後はウロボロスの輪だ!悲劇は繰り返される!」
「だったら!ゲームやテレビ、携帯、メディアを全て排除しても駄目だし!
ゲームやテレビ、携帯、メディアを守る為にその若村みたいな考えを持つ
小汚い人間達を排除したら駄目なら!あたしはどうしたらいいの?」
ローズは迷い、真の母親の烈花にそう質問した。
「だったら?その間の共存を選べばいいんじゃないか?」
「そうですね。ゲーム、テレビ、携帯メディアの好きな大人や子供達と
ゲーム、テレビ、携帯メディアの嫌いな大人達や子供達が共存する世界を」
しかし馬鹿で愚かな若村はこう反論した。
「何を言っている?共存だと?ゲームやテレビは子供達の健康な成長を妨げるものだ!
ビデオを4時間も5時間を見るような悪い子供は直ぐにビデオデッキを
捨てなければならない!子供に元気で外で遊んで欲しいのならば!
勇気を以て捨てなければ!そうしなければ!子供の精神は育たない!」
「そうか?しかし親やあんたの都合だけで子供から好きなテレビを
ビデオデッキを捨てたら結局は物を捨ててて壊して思いを遂げる
ただの恫喝じゃないのか?人を脅して無理矢理言う事を聞かせる。
それが本当に大人として正しい行為なのか?」
「じゃ!子供達の触覚を育てるには!
周りの私のように愛して貰う母親や父親にしっかりと抱いて貰い。
裸足で泥んこだらけになって野山を駆け回り水をかぶってびしょ濡れになり、
木切れや石ころ、貝殻を遊び道具として育った子供達は決して暴力は振るわない筈だ!
逆に生命の無いプラスチックのおもちゃで遊び、コンピューターゲームにハマり、
自然に触れる事無く育った子供は暴力的になるんだ!」
「違いますね!そもそもプラスチックのもちゃやコンピューターゲーム
生命が無いなんてどうして言い切れるのでしょう?
そもそもプラスチックは元々は石炭で出来ていますよ。
かつてこのアメリカや日本の夕張の地には石炭が埋まっていますね?
そして石炭は鉱物です!自然のものですよね?
それとコンピューターゲームですら多くのソフトやゲーム機は
金属で出来ていて電気で動くのでは?自然のものですよね?
さらに多くのおもちゃ会社の職人やそれを子供達の笑顔の為に
必死に販売し、家族や子供達の幸せにしようと日々働き、
命の無いプラスチックのおもちゃにちゃんと心を込めて大切に
多く作っていたとしたら?それは生命が無いと言い切れるのですか?
コンピューターゲームのキャラクターに心が無いとでも?
声優やキャラクターを創造するスタッフやプログラマー達が
自然に無関心だと?どうして言い切れるんですか?!」
クエントは機械オタクの心に火が付き、次第に口調も強くなって行った。
若村はクエントの余りの迫力に僅かに身を引き、口をつぐんでしまった。
「私は機械知識や生物学に精通しています!」
「フン!メカオタクか?ギークだったか?」
「ええ、だからこそ!機械、特にテレビゲームやコンピューターを
製造している人々の気持ちが分かるのです。」
「俺は人形や道具を作る人々も気持ちが分かる。俺もモノづくりは得意だからな。」
若村は「くっ!」と悔しそうな表情を浮かべた後、口を固く閉じて黙り込んだ。
その時、ローズは一人だ口をつぐみ何かを考えていた。
「あっ!ローズ!」
「おおっ!見て下さいっ!」
クエントと烈花はヘリの窓を指さした。
ローズは2人が指をさす方向におずおずと顔を上げた。
するとヘリの大きな四角い窓ガラスからオレンジ色の光が射していた。
続けてアークレイ山脈の小さな丘の間からオレンジ色に輝く朝日が
ゆっくりと昇っていた。どうやら今まで洋館やあの
クリオネにいる間は暗闇の夜だったのだろう。
そしてゆっくりと昇って行く朝日はやがて緑色の木々に覆われた丘
の表面と洋館の近くにあったヴィクトリー湖がキラキラとオレンジ色に輝いていた。
そこはかつてラクーンシティが存在していた頃、地元は憩いの場で知られていた。
ローズは余りヴィクトリー湖のオレンジ色に輝く湖面が美しいので思わずこう言った。
「なんで?湖はこんなに美しいの?あたしは全然美しくないのに?」
「そうかな?俺はあんたも俺に似て美しいと思うぞ!」
烈花は照れて少し顔を赤らめた。
「そうですね!烈花さんもローズさんも美しいですよ!」
クエントはヴィクトリー湖の湖面、ローズ、烈花の恥ずかしそうに
赤らめた顔を順番で見ると笑顔でそう答えた。
するとローズは嬉しくなり、天使のような愛らしいとびっきりの笑顔を見せた。
そう!もう!あたしは一人じゃない!ママもクエントおじさんも
BSAAの純粋な大人達も!ゾイお姉ちゃんも!リーお姉ちゃんも!
エイダお姉ちゃんも!シャーロットお姉ちゃんも!みんないるんだ!
あたしはもう一人なんかじゃない!だから絶望する必要なんかないんだ!
もう!誰も怒ったり!憎んだりしない!あたしには生きる希望がある!
そして今後のあたしの目標も決めた!
今度から別のやり方で美しい純粋な宝物を大事にする子供達を守りたい!それには!」
ローズは真剣な表情でクエントと烈花を見た。
「実はあたし昔の人で好きな人物がいるの!」
「どんな人物ですか?」
「えーとね。アメリカで人種差別と平等を訴えた人!」
キング牧師。マーティン・ルーサ・キング・ジュニアですね!」
「うん!その人の言葉が……怒りと憎しみに襲われる前にね。
純粋だった頃のあたしが好きだったの」
「彼のようになりたいか?」
烈花は優しく穏やかな口調で言った。
「うん!うん!なりたい!なれるなら!!」
「そうですか?じゃ!目指しましょうか?」
「いいの?こんなあたしでも?」
すると烈花とクエントは口を揃えてこう答えた。
「ああ!なれるさ!」「ええ!なれるさ!」
間も無くして『R型・ローズ』は何かを思い出したようにこう告げた。
実は!なぜか分からないけれど反メディア団体ケリヴァーの仲間で動物の本能
に逆らえないみたいに確実に殺したくても殺せない女の人が一人いたの。
あのシイナの子供のママになったシャーロットお姉ちゃんなの」
「何故?殺せなかったんだ?」
「魔獣ホラーバエルの気配があったの。
それで同族に近いからあの人を殺せなかったの」
「10年前にニューヨーク市内で鋼牙とジルが協力して封印したあいつか……」
「つまりバエルのご加護があったから『R型』や
怪物達に攻撃されずにシイナの子供を妊娠して生き延びたと?」
「まあ、そんなところだろう。だがそのバエルはかなり利己主義な奴だったらしい。」
「バエルの力の宿った賢者の石が『R型』や怪物達の攻撃からシャーロットを守った。
まさかの偶然、皮肉ですね……そんな奴に生命を助けられるなんて。」

(第54章に続く)