(第54章)教育

(第54章)教育
 
そして無事に洋館内の『R型』暴走事件を解決させ、『R型』を助け出した。
クエントと烈花は一度、BSAA北米支部へ戻った。
やがて北米支部にいた医療チームがわざわざヘリポートまで迎えに来た。
『R型』はBSAA北米支部の医療施設で初めて
改めてワクチンの効果があったのか精密検査を受けた。
そして精密検査の結果が『R型』の担当のシャーロット医師
からクエント、烈花、本人の『R型』に告げられた。
「T-sedusa(シディユウサ)のワクチンの効果がありました!
これにより、ほとんどのT-sedusa(シディユウサ)は消滅しました!
また彼女の身体を構成している植物細胞にも悪影響は見られません!
そして人類にとって脅威だった能力も失いました!もう安心ですよ!」
「ほっ!」と『R型』は安堵の表情を浮かべた。
烈花もクエントも同じ気持ちだった。
「もう!これで誰もむやみに傷つけなくて済む。
でも軍用AI(人工知能)が……。
するとシャーロット医師はおずおずと口を開いた。
「軍用AI(人工知能)のプログラムについてですが……」
シャーロット医師は困った表情でクエントを見た。
「大丈夫だよ!あたしが何とかしてあげる!」
『R型・ローズ』は静かに瞼を閉じた。
そして彼女は脳内の神経回路を利用してAI(人工知能)のシステムにアクセスした。
間も無くして『R型・ローズ』の目の前に画面に文字が見えた。
『R』アクセス確認。用件は?」
「プログラムの変更をお願い!」
「現在のプログラム表示。自己防衛プログラム。
『あらゆる手段を用いて自らを脅かす存在、
またはそのような行動をする敵を排除する』
「これを変えたい。プログラムは。
『あらゆる手段を用いて、他人、不特定多数の人々や脅かす存在、
またはそのような行動をする者をあらゆる手段を用いて守り通す。
むやみに人間は殺さない。話し合い、共存の可能性を探り続ける。』
「プログラム変更中……しばらくお待ちください。」
間も無くして『プログラム変更完了』と表示された。
『R型』はニッコリと笑い、クエントと烈花とシャーロット医師を見た。
「もう大丈夫だよ!プログラムを変えたから」
シャーロット医師は訳が分からずポカンとしていた。
それも当然だとクエントは思った。
とはいえまさか『R型・ローズ』がそんな事が
出来るとは思っていなかったのでかなり驚いていた。
烈花はローズの行動に感心していた。
排除からの共存!自分の意思で選んだ良い選択だ。それに良い心がけだ。
それから不意にクエントの端末機にメールが送られて来た。
「誰でしょう?まさか?ジルさん?」
クエントは端末機のキーボードを押してメールを開いた。
メールの差出人は意外にもあのHCFのリー・マーラだった。
しかも彼女のメールアドレス(住所)は巧妙に暗号化されていた。
「アドレスの発信元は巧妙に暗号化されて隠されています。」
「特定出来ないか?あの女、俺の魔戒法師の業務を妨害した疑いがある。」
「今更思い出したんですか?」と言いながらも
クエントは烈花と一緒にメールを読んだ。
「おはようございます。リーです。どうやら『R型・ローズ』は無事のようですね。
正直ほっとしています。これをちょっと上層部の許可を貰い、提供します。
これだけです。あとは個人的なお願いですが。
どうか『R型』を立派な大人。いや優しく強い大人に育てて下さい。
私も影の暗闇から応援しています。あの子の人生に光があるように。リー・マーラ。」
メールの内容はそんな感じでクエントは添付された
ファイルをウイルス検査をした後に開いた。
添付されたファイルには『R型』に関係する資料が載せられていた。
「T-sedusa(シディウサ)を持つ『R型』は空気中。
もしくは口径摂取及び呼吸で体内に取り込んだ毒物に即座に順応し、
環境に適応する能力(青酸化カリウム、テトロドドキシン、VX等の
毒物すら直ぐに無毒化して適応する事が今ままでの実験で判明。)」
「非人道的ですね。まさか10歳の子供に毒を飲ませてガス室に閉じ込めたなんて」
クエントは心の底から怒りがこみ上げた。
「でもあたしはそれでも死ななかったの!クエントおじさん!」
「そうか?命が助かったからよかったものの!」
烈花も流石に怒り、両拳を握り締めた。
「でも、怒らないで。あのあとリーさんやエイダさんにはすごくお世話になったの!
母親代わりだって言っていた!若村なんかよりもずっと良かったの!
あたしは10歳の誕生日をこっそり祝ってくれたり!本当なんだよ!」
エイダ・ウォンですか?」
「うん!すごく綺麗な人だった!」
「とにかくその二人にはお世話になった礼をしないとな。」
「まあ、いずれも会う機会があればですね!」
『R型』はBSAAの医療チームが運営する運動施設で色々な運動をしたり、
エクササイズやバランスボール、その他、沢山の事をやった。
しかし長時間の運動でも全く息が上がっておらず、そればかりか
超人的な身のこなしで全てを完全にクリアしていた。
また途中で転んで足をすりむいたり、切ったりした小さな傷でも瞬時に
傷口は塞がり、新しい皮膚が形成され、あっと言う間に跡も残さず再生した。
結果、『R型』には適応能力、超人能力、再生能力、他にも
真の母親の烈花を守る為に無数の長い蔦が複雑に絡み合った
分厚い壁を形成する能力が残っている事が判明した。
また『R型』はBSAA職員と共に自分の部屋をどんな風にしたいのか聞いていた。
『R型』はワクワクドキドキしながらお互い自分の部屋をどうしようか意見し合った。
勿論、ちゃんと今の大人達が必ず守る現代社会のルールを
きちんと勉強する事が絶対条件として付いた。
つまり好きなゲームをして良い。好きなプラスチックのおもちゃで遊んで良い。
好きなアニメやテレビ番組を見て良い。好きな漫画も見て良い。
ただし、長時間のゲームのプレイやテレビを観たりしちゃいいけない。
家に引きこもって漫画ばかりを読まないプラスチックのおもちゃばかりで遊ばない。
時々、外に出て、裸足で泥んこだらけになって
野山を駆け回り水をかぶってびしょ濡れになり、木切れや石ころ、
貝殻を遊び道具として自然と触れ合う遊びもちゃんとする事。
あとは一般の人間社会を学校で人間関係や知識や技術を
勉強してきちんと誰かの沢山の人の役に立つ職場に就職をして
この現代社会の役に立つ活動をする事。
あと家庭を持ったら、きちんと家事をする事である。
『R型』も正直自分がきちんと守れるのかどうか不安に感じた。
しかしそれでも『R型』はきちんとBSAA職員の言葉に素直に従った。
そんな『R型』の不安を察したのかBSAA職員は優しくこう声をかけた。
「大丈夫!ちゃんと丁寧にやり方を分かりやすく説明してあげるし、
困った事があったら必ず周りの大人達が相談に乗ってくれるよ!」
『R型』は反メディア団体ケリヴァーとは違う、心優しい大人達に
少しずつだが信用し、心を開きつつあった。(ただしまだ完全に信用していない。)
それとあとは『R型』は子供型BOW(生物兵器)故にちゃんとした
義務教育受けていなかった。10歳でこれでは少々不味いと思った大人達は
直ぐにパソコンの通信教育や監視付きの教師の訪問による国語、地理、算数、
科学、社会と言ったきちんとした教育が出来るように忙しく
あっちこっちの学校や教育に関する施設などに連絡して『R型』
が落ち着いて学べる環境を整えようと奮闘した。
その甲斐のあってかすぐにそれらの環境は簡単ながら整った。
ただ人殺しの教育は受けていないか?そこがBSAAの職員や
スタッフ、烈花、クエントは一番心配していた。
しかし『R型』が人殺しの教育は受けていない事が分かり、
戦闘は独学でもっぱらT-sedusa(シディウサ)の能力や
AI(人工知能)に頼っていたようだったので全員、
とりあえずほっと胸を撫で下ろした。
ただ結局はゼロから全てお教えなければいけないので多分、
普通の子供よりも遅れてしまうかも知れないと皆、考えていた。
また『R型』は確かに母親は烈花法師だ。
しかし烈花は元々、こちら側(バイオ)の世界の人間
ではなく向こう側(牙狼)の世界の人間だ。
彼女の体内にはワクチンでT-sedusa(シディウサ)をおとなしくさせたとは言え、
やはりここで面倒を見るべきだろうとクエントは考えていた。
そこで烈花と相談して一つの案として養子縁組の事を話し合った。
 
(第55章に続く)