(第18楽章)運命の再会と混血児の誕生の協奏曲

(第18楽章)運命の再会と混血児の誕生の協奏曲
 
ジルはさっきの異変の後、何食わぬ顔で私服から
BSAAの制服に着替えてロッカー室を出た。
そしてロッカー室の自動販売機の小さな
休憩スペースの前で何食わぬ顔の鋼牙と合流した。
「えっ?まさか?魔獣ホラーと人間の間の子供を妊娠したって?
しかも5001人も……まさか?」
信じられない表情でジルは鋼牙を見た。
「ああ、大体!5001人程、現在、
聖ミカエル病院の人達と協力して詳しく調査中だ!」
それと昨日、妊娠が発覚したばかりのエミリーって言う女の子は病院での検査の後に
両親が本人の同意もなく妊娠中絶手術を受けさせようとして。
そして本人は拒んで大きな騒動が起こってな。
母親が本人の独白で自分がアルバイトで貯めたお金で買った
ゲームディスクを吐き気がする位、嫌いでしつこく「何が面白いのか?」
と主張を繰り返して。それで嫌になった彼女はディスクを真っ二つに折って。
更に母親は娘が折ったディスクを目の前で何度もしつこく踏みつけて踏みにじって。
「金を払うから!貰わないなら出て行け!」と喚き散らして。
更に他にも突き飛ばして怪我を負わせたり、怒鳴って言う事を聞かす等の
虐待に近い行為を日常的に繰り返していたらしい。
今はエミリーは聖ミカエル病院から警察の手によって
虐待された子供達が保護されるシェルターに移ったそうだ。」
「成程!それで確かにエミリーって子と5001人の女性達の子宮の中にいる
のは間違いなく魔獣ホラーと人間の子供なんだな。
とすると母親になったエミリーって子と5001人の
女性達の精神と肉体は平気なのだろうか?」
「さあー賢者の石の力でジルと同じように人間の姿を
留めているとしたらまだ人間かも知れん!」
その複雑な思いで額に眉を寄せて考え込む鋼牙と
魔導輪ザルバの顔を見たジルはある意見を述べた。
「私とザルバなら!あの子がホラーだと判断できるわ!
一度のその子に会ってみるのは?」
「ああ、会ってみる必要があるかも知れん!」
そして鋼牙とジルはそのエミリーが保護されている
虐待保護シェルターへ向かう予定を立てた。
「やあ、おはよう!」と廊下の奥から声がした。
鋼牙とジルが廊下の奥の方を見ると白い縁の眼鏡を掛けた
真っ赤なスーツを着た男が穏やかな笑みを浮かべ立っていた。
マツダ代表?」
「おはようございます!マツダBSAA代表!」
鋼牙はマツダ代表の前で静かに礼をした。
「相変わらず固いですね!もっと力を抜いて良いんですよ!」
マツダ代表は少し笑い、そう言った。
それから間も無くして真顔に戻ると静かに口を開いた。
「実はニューヨーク市内にある白波不動産が管理しているモデルハウスから
爆発音と共に家の壁が崩れ去ると言う事件がありましてね!
しかも爆発の一分前に一般市民の一人が天空から
赤い光の柱が現れるのを目撃したようです。
またその現場からアサヒナ・ルナさんって言う日本人の女性が
保護されて病院へ搬送されたようです。」
「赤い光の柱?賢者の石の力か?」
「しかもその病院に搬送される救急車付近である日本人男性が目撃されたようです。」
マツダ代表は一枚の写真を鋼牙に見せた。
「これは偶然撮影された一般市民のスマホの写真です!」
「おいっ!これは?まさかっ!」
「カオル……やっぱり!この……ここにいたのかっ!」
「でも御月カオリの可能性も!」
「心配ありません!現在!M-BOW(魔獣生物兵器)とウィルス兵器を
製造しようとした生物兵器禁止条約違反と不正な人体実験を行った罪で
現在、BSAA北米支部アメリカ政府が厳しく管理している
アメリカニューヨークの特殊刑務所に収監されています。
当然ですが脱獄は不可能です。ほとんどがブルーアンブレラ社の
エリート兵士達と強力なセキュリティシステムがありますので。
本物のカオルさんで間違いないでしょう!もしも?
あのメシアの涙のエイリスの手によって時空を歪ませて、
この異世界、いやこちら側(バイオ)の世界に引きずり込んだとしたらですが……」
………会って確かめたい!そうしたいっ!俺はっ!」
「そうですね!実はその子と冴島カオリさんは聖ミカエル病院にいるそうです。
現在は担当医師の男と精神科医アシュリー・グラハムさんが診察と回復を……」
「聖ミカエル病院か!」と鋼牙。
「分かったな!よし!行くぞ!」と魔導輪ザルバ。
「うん!車で送るわ!」とジル。
それから再びまたBSAA北米支部地下の駐車所に戻り、
ジルは鋼牙を車に乗せて聖ミカエル病院へ向かった。
数時間後、鋼牙とジルを乗せた車は聖ミカエル病院の駐車場に着いた。
鋼牙はどういう訳か激しく緊張し、僅かに表情を強張らせていた。
それを見たジルは「大丈夫よ!普段通りにすれば全てうまく行くわ!」
と声を掛けると鋼牙も安心した顔を浮かべた。
エレベーターで病室の上に階に向かい、そしてー。
そのアサヒナ・ルナが入院している病室の扉の前に立った。
鋼牙は鉄の取っ手を握った。
間も無くして静かに病室のドアを開けた。
病室はカーテンが開いていて白い布団と
白いスーツの入ったベッドとテレビ台が見えた。
鋼牙の心臓は早鐘のように大きく鼓動していた。
それから鋼牙は静かにベッドの上でスースー眠っている女の子を心配そうな、
まるで自分の娘のような視線を向けている日本人女性が目に入った。
胸元まで伸びた長い黒髪。きりっとした黒い眉毛。
そして明るく力強い茶色の瞳。美しい鼻とピンク色の唇。
更に青と白のワンピースと灰色のズボンを履いていた。
「おい!カオル!」と鋼牙はついうっかり
いつもの調子でその日本人女性に呼び掛けた。
すると名前を呼ばれて気付いた日本人女性は鋼牙の方を見た。
日本人女性は「あっ!」と声を上げた。
そして茶色の瞳で鋼牙を見るとみるみると涙が茶色の瞳から溢れ出た。
「こうがぁ……」と小さく唇を震わせて言った。
「カオル!」と声を上げ、鋼牙は近づき、カオルの身体を
両腕で優しくギュッと抱き締めた。
「鋼牙!鋼牙!会いたかった!ずっと!ずっと!ずっと!」
冴島カオルは鋼牙の声に答えるように涙ながらに答えた。
「どうやら!間違いなく本物のようだぜ!カオル独特の
優しさと純愛を感じる!この魂も気配も本物だ!おっと!勿論、カオルの思念もな!」
ザルバは鋼牙に説明したが当の本人はツンとした声でこう答えた。
「そんな事!俺だって分かる!間違いなく本物だ!」
「とにかくよかった!また会えて!」
カオルはいつもの満面の笑顔を向けた。
「さーてと私はちょっと!」とジルはついついカオルと鋼牙を
気遣い病室の外へ出ようかと考えた。
しかし鋼牙はすぐにまた笑顔からいつもの仏頂面に戻ったので必要ないと判断した。
「この子がそうなのか?」
「ええ!この子がそう!アサヒナ・ルナさんよ!」
カオルはベッドの上ですやすやと眠っている日本人の女性に視線を向けた。
ベッドの上ですやすやと眠っている日本人女性は純情派ヒロイン言った感じだった。
美しい宝石のような灰色の瞳は瞼に隠れて見えなかった。
胸元まで伸びたサラサラの黒髪。細長い眉毛。
さらに日本独特の低い鼻にピンク色の唇を持っていた。
また両耳には涙型の赤いピアスを付けていた。
彼女は病院の衣服を着ていた。
鋼牙は直ぐに右手をアサヒナの前にかざした。
やがて魔導輪ザルバはカチカチと口を開いた。
「とりあえず!この女の肉体も精神も純粋な人間のままだ。
ホラー化はしていない!ただこの女の体内に賢者の石の力を強く感じる。
しかもジルのものとはかなり異なっている。
もしかしたらこれが原因かも知れん!」
「ああ、間違いないだろう!」
「とは言え、どうやってあの賢者の石を手に入れたのか?
それはあのテレビのニュースの魔獣ホラーの父親が関係しているのかも知れん!」
「つまりあの3日前からニューヨーク市内に住む5000人もの
若い女性達が次々と父親が誰か不明にも関わらず3日後の翌朝と
同時に一斉に妊娠してしまうと言う不可解な事件ね!あたしも新聞を見たわ!」
カオルはそう答え、その新聞をジルと鋼牙に見せた。
「この新聞の記事通りに女性達を妊娠させた
父親が未だに誰なのか不明のままなのよね。
その父親ってまさかとは思うけど……。」
「ああ、ひょっとしたら?魔獣ホラーの可能性があるだろう?」
「でも!どうして?魔獣ホラーは太古の昔から人間を食らい続けていたんでしょ?
あたしもホラーの返り血を浴びたせいで
他のホラーに何度も食われそうになったのに?」
「ああ、だが向こう側(牙狼)の世界で暴れていた魔獣ホラー達と
こちら側(バイオ)の世界の魔獣ホラー達は明らかに『人間を食らい続ける』
と言う目的以外に『純粋な人間と子供を作る』
という別の目的を持つようになっている。」
「つまりこちら側(バイオ)の世界の魔獣ホラー達は『人間を食らう』
一方で『純粋な人間と子供を作る』と言う行為をする
異質な魔獣ホラー達が現れつつあると言う事だ!」
すると思った事をすぐに口にするタイプのカオルは自らの疑問を次々と話した。
「そもそも人間との間に子供を作る事なんて出来るの?
第一魔獣ホラーの血は?人間の血になっちゃう訳?
食生活は?人間を喰わないで普通の人間のご飯を食べれるの?。」
「悪いがカオル!さすがの俺様もこれ以上の事は何にも分からないんだ」
と魔導輪ザルバ。
「恐らく魔獣ホラー達はますます人間社会に溶け込んで行くのね」とジル。
「魔戒騎士も魔戒法師も仕事が大変ね!鋼牙も零君も!
烈花も邪美さんも!」とカオル。
 
(第19楽章に続く)