(第21楽章)組曲・外神ホラーの副王とメシア一族の魔王との契約

(第21楽章)組曲・外神ホラーの副王とメシア一族の魔王との契約
 
BSAA北米支部に帰る途中でジルと鋼牙は
近くのホームセンターに停まっている黒い車を見つけた。
黒い車の後部に幾つものバールや鉄の棒やペンチ等の工具とペット用のリードや
首輪を詰め込んでいる黒いニット帽を被り、黒い服を着た怪しい男がいた。
その男は日本人で大体20歳位の男だった。その男は荷物を積み終えると
癖でカリッカリッと自らの右手の指の爪を噛みながら何処かギラギラした
つり目の茶色の瞳でたまたま運転していたジルと目が合った。
その瞬間、ジルは何か嫌な不気味な何処か恐ろしい視線を感じた。
ジルは背筋がぞっとなり、思わずその男から視線を逸らした。
続けて前を向くとアクセルを踏観、
できるだけその男のいるホームセンターから離れた。
鋼牙も魔導輪ザルバもジルが感じたような良くない思念を感じていた。
「あの男!強い悪意の思念を感じた!」
「奇遇だな実は俺様もだ!」
「あの人きっとヤバい人よ!何か悪い事をしようとしている!
しかも女性に対して何か酷い事を!」
鋼牙とジルとザルバはそう話しつつも
ようやくBSAA北米支部の地下駐車場に着いた。
ジルもようやくあの男の嫌な思念も遠ざかり、身の危険が無くなり、ほっとした。
鋼牙は心配そうにこう言った。
「大丈夫か?物凄い冷や汗だぞ!」
ジルは「ええ、大丈夫よ!」と答えた。
更にジルは心を一度落ち着ける為にアクエリアスを半分程の量を一気に飲んだ。
それからジルと鋼牙はBSAA北米支部に戻るとマツダBSSA代表に呼び出された。
2人はマツダ代表に連れられてBSAA北米支部内のとある部屋で
婦人警官の制服を着た若い日本人の女性と面会していた。
右胸にはニューヨーク市警のバッジがあった。
実はその日本人の婦人警官の女性は例の新聞に載っていた記事にあった
『3日前からニューヨーク市内に住む5000人もの若い女性達が
次々と父親が誰か不明にも関わらず3日後の翌朝と同時に一斉に
妊娠してしまうと言う不可解な事件』の中の妊娠した5000人中の一人だった。
その日本人の女性は気恥ずかしそうに丸みを帯びた顔を紅潮させていた。
茶髪の前髪は四角く綺麗に並んで伸びていた。
更にその前髪の両側から細長い茶髪が首筋まで伸びていた。
そしてピンと真っ直ぐな茶色の細長い眉毛。
ぱっちりとした茶色の瞳(しかしほんの一瞬だけ両瞳が緑色に妖しく輝いた)
丸い美しい鼻に美しいピンク色の唇。
茶髪の胸元まで伸びた四角い形をした短いポニーテールだった。
その日本人女性は常に机の下に隠れている自分のお腹を片手で愛しそうに撫でていた。
名前は大林愛佳と名乗り話を始めた。
話によるとニューヨーク市内で多発する連続女性暴行事件の犯人を追っていたらしい。
しかし自分のミスで犯人の罠にかかり、
危うく自分も酷い暴行を受けてレイプされかけて。
また多数の女性被害者と同じように肉体的精神的苦痛を受けそうになった所を
その15歳の少年が颯爽と現れて
犯人の顔面と腹部と胸部をぶん殴って失神させたらしい。
更に彼女は何故か?その15歳の少年から甘い匂いがして気分が良くなって。
全裸になって舌を絡めてキスをして。更にお互い抱き合って仰向けにセックスをして。
他の警官達の応援が駆け付ける頃にはその15歳の少年は姿を消したようだ。
それから彼女は今日の翌朝に妊娠してしまった事に気づいたらしい。
彼女は『自分を助けてくれた強い15歳の少年が残してくれた子供』だと思い。
『産まれたら自分が責任をもって育てる為に
精神も肉体も強くなって見せる』と宣言した。
また両親も出産に快く種諾してくれたと言う話を
聞くと鋼牙とジルとザルバは安心した。
 
その日の夜。ニューヨーク市内のとある人気のない草原。
ファミリーの長であり、シモンズ家現当主のジョン・C・シモンズは一人で
その人気の無い草原に立っていた。
草原には以前から準備して置いたある構造物が作られていた。
それは環状列石だった。ジョンはその中央に立っていた。
ジョンは夜の空を見上げた。
空にはたくさんの星々と巨大な月が浮かんでいた。
地上の地下には太陽がある。
お互い大きく離れており交接していないがそれでいい。
ジョンは意を決し、大声で旧魔戒語の呪文を唱えた。
「ンガイ!ンガガアー、ブッグ二ショゴク、イハー!
ヨグ・ソトホース!ヨグ・ソトホース!アイ!イハ!ブッグ!
ショッゴク!ンガガー!ンガイ!ヨグ・ソトホースよ!
このニューヨークの土地は既に肉欲と欲情と受胎に満たされた!!
我の肉体を捧げ!我にヨグ・ソトホースの力の一部を与えてくれたまえ!」
しばらくは何にも起こらなかった。
だが突如、バリバリと言う大きな音と共に夜の空が大きく裂けた。
同時に裂けた夜の空の暗い穴からニュルッと真っ黒な細長い触手が伸びた。
やがて真っ黒な細長い触手の先端が開いた。
そして内部から黒々とした原形質の肉が現れ、徐々に口の形になった。
やがて太く威厳のある男の声でしゃべり始めた。
「我に対価となるものを支払って貰おう!!」
「もちろん対価となるものは与えよう!!」
「では!遠慮無く貰うとしよう!」
やがて黒々とした原形質の口が更に大きく開いた。
同時に夜空に突如現れたピンク色の煙のようなものを黒々とした
原形質の口はどんどん吸い込んで行った。
それはまるで掃除機のようだった。
ジョンは口元を緩ませて笑いながらそれを見ていた。
その細長い触手と原形質の口が吸っているピンク色の煙のようなものの正体は?
それは今まで息子のバエルと交わった一万人もの若い女性が持つ
肉欲と情欲と受胎の強い思念と陰我に満ち溢れた強烈な色欲の精気である。
今頃、約一万人の若い女性達はそのヨグ・ソトホースに
強烈な色欲を吸収されている間は
それぞれ強い肉欲と欲情と受胎に駆られている事だろう。
つまり5000人の妊娠していない若い女性達は欲情と肉欲に駆られて相手を選ばず
他の男との快楽を追求し、終わりが見えなさそうな性行為に駆られているだろう。
また我が息子バエルとの間に子供を受胎した5000人の若い女性達は妊娠して
お腹に宿ったばかりの生命を異常な程、愛し、愛し、可愛がり、
そして理性のタガが外れたかのように一万人の若い女性達は
それぞれの色欲の陰我に溺れるのである。
同時に一万人の若い女性達の身体から流れ出てくるピンク色の煙、
つまり色欲の精気は建物の外へ出て行き、やがて僕のいる
この人気の無い草原に大量に集まり、裂けた夜の空の穴から出た
真っ黒な細長い触手の先端の黒々とした原形質の肉に覆われた口の中に
どんどん吸い込まれて行っているのである。つまり彼の餌である。
やがて大量のピンク色の煙を吸い込み、満腹になった。
そして周囲に漂っていたピンク色の煙は消え失せた。
「では!汝に望むものをやろう!」
続けて突然、真っ黒な細長い触手の先端が黒い鋭利な針に
変わったかと思うとジョンの右の眼球にブスリと突き刺さった。
「うっ!ぐああああああああっ!」と彼は激痛で絶叫した。
さらにジョンは自分の右の眼球の神経を通してヨグ・ソトホースの
能力の一部は脳に向かって強烈な電気信号として送られるのを感じた。
その間、僅か0.1秒だった。
ヨグ・ソトホースは自らの能力の一部を与えた後、真っ黒な細長い触手は
「さらばだ!」と言い残して裂けた夜の空の穴の中にあっと言う間に消えてしまった。
やがて裂けた夜の空の穴はたちまち消失し、元の星々と闇が覆う夜の空へと戻った。
ジョンは右眼球から僅かに赤い血をタラタラ流し、右手で右眼球を押さえて、
大きく呻き、草原で四つん這い体勢になり、悶絶していた。
 
シャノンはいわゆる外国のAVの仕事を終えて、
買い物をして自宅に帰る道を歩いていた。
そしてふとシャノンがガレージの入り口の方を見ると黒い車が僅かに見えた。
しかも車のナンバーを見た瞬間、背筋が凍り付いた。
見覚えがある。あれは昔の彼氏の車だ。あの乱暴男!!
まさか??住所を特定されたの?でも?どうやって??
シャノンはきっと黒い車は見間違いだと言い聞かせて
自宅のガレージの中へ恐る恐る入った。
しかし残念ながら現実は残酷だった。
黒いニット帽に黒い服を着た日本人の男がいた。
「久しぶりだね!シャノンちゃん!」と笑顔で話しかけた。
「何しに来たの?でっ!出てってよ!警察を呼ぶわよ!」
シャノンは顔を真っ青にしながらもう怒鳴りつけた。
すると男はシャノンに近付き、いきなり彼女の右頬を叩いた。
パチンと言う音と共にシャノンは痛みで右頬を押さえた。
「僕ちゃんから逃げ出そうなんて!悪い子だね!お仕置きしないと!」
さらに男はシャノンに腹にパンチを食らわせた。
「うっ!」とシャノンを大きく呻き、両手でお腹を押さえた。
痛みで涙目になり、口から苦痛に満ちた声を上げた。
「僕ちゃんの名前覚えているよね?クラマ!クラマだよ!」
クラマはシャノンの金髪の前髪をむんずと掴むとそ無理矢理顔を上げさせた。
「あんたとは……もう別れた……別れたのよ……出て行って!!」
クラマは急に怒り出し、シャノンの胸部を殴りつけた。
シャノンは息が詰まり、呼吸が出来なくなった。
「別れた?何言ってんの?僕は君をこんなに愛しているのに!」
「あたしはあんたなんかを愛していない!」
クラマの甘い言葉に対し、シャノンは怒り、そう叫んだ。
勿論、昔付き合っていた時に私にDV(ドメスティックバイオレンス)を
何度も何度も毎日、毎日繰り返していた男だ。
この男の恐ろしさは自分も知っているし、
正直とても恐ろしく悍ましく声や全身は僅かに震えていた。
それでも叫ばずにはいられなかった。
「やっと!やっと!地元の警察や周囲の人々の協力のお陰で彼から逃げ出せたのに!!
これじゃ!また元の生活に逆戻りだ!そんなの嫌だ!
もう!自由になりたい!理不尽な暴力から抜け出したい!こんなの嫌なのよ!」
するとクラマの反応はシャノンの思った通りだった。
「はあーふざけないでよ!僕ちゃん寂しかったのに!」
クラマは怒りと悲しみの混じった表情でそう言った。
 
(第22章に続く)