(第20楽章)覚醒する悪魔召喚師のエチュード(後編)


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(第20楽章)覚醒する悪魔召喚師のエチュード(後編)
 
「酷い!貴方!そうやって沢山の人達を騙して!仲間と一緒に食っていたのね!」
カオルはコンクリートの床にばら撒かれている彼らに捕食される
前の幸せに満ち溢れた人間達がそれぞれ思い思いの笑顔で
撮られている写真を見て憤りを覚えた。
そして鋭い視線を白波に向けて大きく唸った。
すると白波は笑顔で「違う!違う!」と言うように手を振った。
「ここにいる全ての人達を私を幸せにしたんだよ!」
彼は両腕を大きく開げて、笑顔を向けた。
「そして!みんな笑顔だ!そして!私のおかげだ!」
彼はそう叫ぶとビリッと音を立てて自らの喉の前部の
皮膚を引き千切り、「私が夢を見せたのだ!」と言った。
やがて引き千切られた喉の皮膚は瞬時に紫色に輝く両刃の長剣に変わった。
アサヒナはそれをただ黙って聞いていた。
更に彼女は蔑むような視線を白波に向けた。すると白波は更に怒り出した。
「おい!君!私が幸せにしてやっているんだぞ!目上を敬い!
『さん』を付けて!称えろ!俺は魔導ホラーだぞ!」
白波は怒り任せに真の姿に変身した。
三角形の頭部にまるで牛の角のような触角を生やしていた。
更に胸部には金色の肋骨が浮き出ていた。
腹部は灰色の分厚い鎧に覆われていた。
また両腕も両脚も灰色の分厚い鎧に覆われていた。
両手は灰色の指の金色の爪があった。
両脚も灰色と赤色の分厚い鎧に覆われていた。
そして金色の尾骨の形をした長い尾を持っていた。
アサヒナはその魔導ホラー・白波の真の姿を見ても何も反応を示さなかった。
それどころか無表情で灰色の瞳に殺意がこもった視線を投げかけた。
そして静かに口を開いた。
アサヒナの声は氷よりも冷たく熱い怒りが
入り混じった静かな口調で一言だけこう言った。
ゲスが…………消えろ!!」と。
アサヒナは今度は右腕を白波の前に差し出した。
同時にアサヒナの背中にいた魔獣ホラーもまるで遠隔操作されているかのように
真っ赤な分厚い鎧に覆われた右腕を白波に向けた。
「うりゃあああっ!」と白波は叫び、右腕を高々と振り上げた。
そして手に持っていた紫色の両刃の長剣を天井に向けた。
それから猛ダッシュで目の前のアサヒナ・ルナに切りかかった。
白波が全力で振り下ろした紫色の両刃の長剣がアサヒナの頭を切り裂こうとした。
同時に突如、アサヒナの右手と魔獣ホラーの右手から
今度は超高温の地獄の業火を思わせる火球が放たれた。
アサヒナの右手と魔獣ホラーの右手から放たれた超高温の地獄の業火を思わせる
火球は魔導ホラー・白波の胸部に直撃した。
白波は胸部の熱さと激痛で苦しみ悶え、叫び続けた。
「ぐえええっ!があああっ!熱いっ!熱いっ!がっ!ぐええっ!」
アサヒナは白波に向かって自らの手と魔獣ホラーの手をぐっと握った。
同時に地下の部屋全体が地震のように大きく左右に揺れた。
続けて魔導ホラー・白波の身体は内側からまるで風船のように破裂し、爆四散した。
更にその爆発で凄まじい音を立てて、
カオルとアサヒナの目の前の壁と周囲の天井が崩れた。
一方、アサヒナはそこで意識を失った。
同時にアサヒナの背中にいた魔獣ホラーの影も消えた。
カオルは間一髪、素早く気絶したアサヒナを抱えてモデルハウスから脱出した。
2人は命からがらモデルハウスから脱出した。
脱出直後、モデルハウスはたちまち火災により焼き尽くされ、完全に崩壊して行った。
その後、レスキュー隊により無事2人は保護され、
救急車で2人共、聖ミカエル病院に運ばれ、今に至る。
 
再び聖ミカエル病院のアサヒナ・ルナの病室。
そしてアサヒナとカオルの話を聞いていた鋼牙とジルは
「まさか?」驚きを隠せない表情をしていた。魔導輪ザルバも例外ではなかった。
「その魔獣ホラーの特徴は間違いない!
かつて俺様達の世界、つまり向こう側(牙浪)の世界で
あんたと闘った魔獣ホラー・モロクだ!」
「確か?あのダイニングバーの『ディープブルー』の
あのバーデンダーの。いや。なんでもないわ!」
カオルは両手で頭を抱えて思い出そうとしたが思い出せなかった。
「確か………名前は……名前は……」
「神須川美理だ!あの父親と闘った時、以来!決して忘れない!」
「父親の名前は神須川祐樹!ただのごく普通の人間だった!」
「しかし娘を失い鋼牙に復讐しようとしていた!」
「そんな事が?」とカオルは驚いた表情を見せた。
「とにかく!この子はどうしよう?人間である以上は!」
「ああ、人間は決して斬ったり、傷付けてはいけない。
俺たちが斬るべきものは魔獣ホラーだけだ!」
するとカオルは鋼牙に向き合い、こう言った。
「とりあえず!あたしが面倒を見ようと思うの!」
「大丈夫なのか?確か彼女は純粋な人間だが!」
「ああ、どうやらモロクはアサヒナの精神世界、
もとい内なる魔界に潜んでいるようだ。
しかもアサヒナの精神と生命を少しずつ貰って生き永らえているようだ!」
「と言う事は?他人を喰ったりしないのね!」
「だが……」と鋼牙は迷いつつもカオルを見た。
「実は今、ニュヨークの人気の少ない場所の2階建ての家に住んでいるの。
ある人に助けて貰って。アサヒナさんも私もしばらく記憶が無くて。
思い出したのも最近なのよ。でも!ようやくここで会えて良かったわ!」
「ああ、俺もようやく会えて良かった!」
カオルと鋼牙はまた優しく微笑み合った。
鋼牙とジルはアサヒナをカオルと担当医師と精神科医
アシュリー・グラハムに任せてアサヒナの病室から出た。
その時、アサヒナの病室のドアの右側の壁に背もたれている
一人のアメリカ人女性が目に入った。
そのアメリカ人女性は恐らくアサヒナの友達だろう。
不意にザルバとジルは小声でこうしゃべった。
「鋼牙!ジル!あの女性の人間の女からアサヒナと言う女性のものとは違う
強い賢者の石を感じる!しかもおかしいぞ!彼女からジルの賢者の石の力と
ジルそっくりの気配も強く感じる!だが!
魂は全くの別人のものだ!どうなっているんだ?」
「嘘……本当だわ!あの人からあたしの賢者の石と
気配と強く感じるわ!もしかして?あたしのクローン?」
「確かクローンは人間と同じく成長するのに20年は掛かるんじゃないか?」
鋼牙の答えにジルはただ無言で頷いた。
ちなみに鋼牙もジルも流石に知る由も無かったが彼女の名前はー。
トークス・C・シモンズである。つまり秘密組織ファミリーの構成員である。、
しかしながら日本とは違ってアメリカには戸籍が存在しない。
一応、シモンズの家族関係はジョン・C・シモンズの妹と言う事になっている。
そしてスパイでもあり、情報員の役割を果たしていた。
トークス・C・シモンズは首筋まで伸びた艶やかな茶髪の
オールバック風の三つ編みに束ねたポニーテールの髪型に纏めていた。
美しい青色の瞳をしていた。キリッとした茶色の細長い眉毛もあった。
そして丸っこい高い鼻をしていた。両手は白く美しい肌をしていた。
体格とスレンダーな体形、胸とお尻の大きさも長い両脚も全てジルとそっくりだった。
服装は薄着の灰色のTシャツを着ていた。
彼女はスマホで忙しなくキーを押して何かメモをしていた。
その為、鋼牙とジルも全く視界に全く入っていなかった。
やがてトークは鋼牙とジルとカオルが出た事を
確認するとスマホをやめてアサヒナの病室の中に入って行った。
やがて病室の中から2人の声がした。
そのアサヒナの声とは別に明るい声が聞こえて来た。
「そう?実はね!今日、アサヒナさんが入院したと聞いて。
丁度ニューヨーク市内で花火大会があって!行く前にお見舞いに!」
「えっ?ありがとう!わざわざ!御免ね!」
鋼牙とジルはその2人の会話を聞いた後、直ぐに聖ミカエル病院を後にした。
それから鋼牙とジルが聖ミカエル病院を後にしてから30分後。
入院しているアサヒナに「大事にしてね!」と声をかけた後、病室を後にした
トークは再び人の気配がしない、リネン室の中に身を隠した。
彼女はスマホでジョン・C・シモンズに電話をかけた。
やがて何回かのコールの後、ジョンが電話に出た。
「ジョン?元気?」
「ああ、トーク!僕の事は兄さんと呼んでくれないか?」
「はいはい!お兄さん!お兄さん!」
「心がこもっていないぞ!君は創られた存在だが……」
「私は産まれたのではなく創られた!グローバル・メディア企業の
軍用AIが搭載された最強兵士の試作品として。」
「君の気持は分かる!だが君は精神を持つ生身の人間である事も忘れないでくれ!」
「私はプラントE45R〇〇〇。私は明日HCFのセヴァストポリ研究所へ移送。
新型のウィルス兵器(大体8年後に誕生するT-sedusa(シディウサ)である。)
の強力なウィルス抗体の製造工場として閉じ込められ。
抗ウィルス剤とワクチンの研究開発の為……。」
「もういい!これ以上口にするな!命令だ!」
「了解しました!失礼します!」と言うとトークスマホの電話を切った。
彼女は周囲に当たり散らすように両拳で周囲の
鉄の壁や棚をガンガンバンバン叩き続けた。
そして獣のような凄まじい名状しがたい叫び声を上げ続けた。
 
聖ミカエル病院を後にした鋼牙とジルは例の虐待シェルターに向かった。
しかし虐待シェルターに到着して、
エミリーの世話を担当している職員の話によるとー。
エミリーは今まで受けた虐待と両親の自己満足で自分勝手な考えと
価値観を無理矢理押し付けられ続け、さらに今回の両親の独断による
中絶騒動が重なり、精神的に非常に不安定であると言う。
しかも今のエミリーは周囲の虐待シェルターで働く職員や両親も
スタッフも面会に来たあらゆる大人達が信用出来なくなり、
現在、引き籠っており、面会も本人が激しく拒絶してしまっている状態だと言う。
仕方がなくジルと鋼牙はエミリーと面会出来ぬまま虐待シェルターを後にした。
ジルと鋼牙はBSAA北米支部へ戻る事にした。
 
(第21楽章に続く)