(第31楽章)諧謔曲・暴走と激情の神々

(第31楽章)諧謔曲・暴走と激情の神々
 
14丁目の2台の車が通るであろう細長い道路に無人のパトカーを
2列に並べて道路を封鎖したのを確認したワンとカプランは
近くの歩道の隅にパトカーを停め、成り行きを見守った。
さあ!30台のパトカーの壁だ!どうする!もう逃げられんぞ!
激突する前にブレーキを掛けろ!そうしたら!俺とワンと隠れている
警官達がお前達を一斉に確保する!そのまま車の外へ引きずり出してやる!
やがて遠くからブウウウン!と言う車のエンジン音が聞こえた。
そのブウウウウウン!と言うエンジン音が大きくなって行った。
遠くから赤いセダンが見えた。
そしてどんどん時速100キロで30台のパトカーに接近して行った。
ワンの目論見通り、赤いセダンは30台の無人パトカーに激突しようとしていた。
しかも赤いセダンの距離が1mmまで接近した瞬間、ズドオオオン!
バコオオオン!と言う大きな激突音が深夜の街中に響いた。
同時にワンは「嘘だろ!」と声を上げ、両手で坊主頭を抱えた。
一方、カプランは直ぐにあの赤いセダンは30台のパトカーに激突して直ぐに停まる。
俺が行かなくてもすぐに交通違反の犯人は逮捕されるだろうと。
余裕の笑みを浮かべて煙草を咥えて火を付けようとしていた。
しかし赤いセダンが30台のパトカーに激突した直後、
両眼を大きく見開き茫然とした表情になった。
また開いたままのカプランの口からまだ
火の付いていない煙草がポロリと道路に落ちた。
赤いセダンは30台のパトカーをまるで粉砕機のように
次々と空高く弾き飛ばし、跡形も残さず粉砕した。
更に大破した状態のまま周囲に大量の砕けた赤いランプのガラスと
黒いボディと白いボディ、タイヤを撒き散らし、ほんの僅かに残った
30台のパトカーの車体は空中でグルグルとコマのように回転した。
やがて思い出したように大きな音と共を次々と
立てて道路に落下してスクラップとなった。
しかもその間を赤いセダンは悠々と通過して走り去った。
続けてBSAAの車もパトカーの瓦礫の山を通過して走り去った。
「いや!いやいやいやいやいや!おかしいだろ!今の!」とワン。
「マジっか?……赤いセダンは何で出来て……」とカプラン。
「おい!何をボケっとしている!さっさと追うぞ!」
「でも!あんな化け物車!どうやって停めるんですか?」
その時、また80キロのスピードで今度は金髪のアメリカ人女性と
イスラムの男性の2人乗りの白いバイクがあっと言う間に通過した。
「おい!今度は二人乗りか!どうなってんだ!」
「早く乗って下さい!」
カプランに促されてワンはパトカーに乗り込むとすぐに走り出した。
一方、アメリカ人の女性とイスラム人の男性が乗る
白いバイクは目の前のBSAAの車と赤いセダンを追っていた。
更にイスラムの男性のアヴドゥルは背後からサイレンの音が
聞こえてサーと真っ青になった。
あっ!ヤバい!逮捕されたら!計画がばれるかも!
「ああ、何故でしょう!私は色欲の罪深き女をバイクの後ろに乗せて!
目の前のBSAAの車と赤いセダンを追っています!
私はなぜこのような罪深い行為をするか分かりません!
せめて私に許しを!アーメン!」
一方、アヴドゥルの身体に両腕をしっかりと巻き付けて抱きつき、
ヘルメットを被って一緒にバイクの後ろに乗っていたシャノンは
赤いセダンから変身した15歳の少年の身を案じた。
そして脳裏に数時間前の出来事がよぎった。
数時間前、シャノンは自宅のベッドの上でシーツを被って
寝ていたが妙な胸騒ぎに襲われて夜中に目を覚ました。
その時、急にレーシングカーのようなブウウン!ブウウン!
と言う音が聞えたので反射的に2階の窓のカーテンを開けた。
すると丁度、80キロで自分の家とガレージを猛スピードで通過するのが見えた。
シャノンは同様の余り、パジャマ姿のまま家の玄関から飛び出した。
その時、あのイスラム人のアヴドゥルと言う男が白いバイクに乗って現れた。
まるで映画かドラマのような展開だった。
それからシャノンはアヴドゥルにヘルメットを借りた。
シャノンはアヴドゥルが運転するバイクに乗り、どうにか
細長い道や裏路地を走り回り、赤いセダンとBSAAの車を追っているのである。
それからアヴドゥルはバイクの運転をしつつもシャノンの柔らかい
大きな丸い両胸が当たる感触に戸惑いを見せていた。
青い顔ではあるが両頬は僅かに赤くなっていた。しかも体が妙に暑かった。
アヴドゥルは頭の中で「気のせいだ!気のせいだ!」と言い続けた。
それから茶色の瞳で目の前を走っている
BSAAの車と赤いセダンをしっかりと目で追った。
それにしてもなんでBSAAの車はあの赤いセダンを追っているのか?
まさか?あれは最新の兵器?もしかしてエイリアンを
基にした新型のBOW(生物兵器)??それじゃ!
シャノンは大丈夫かな?ウィルス兵器!!
アヴドゥルは心配そうにシャノンの顔をチラッと見た。
まさか?ゾンビになって俺に噛みついてこないよな?
勘弁してくれ!まだ死にたくないぞ!
 
赤いセダンとBSAAの車に2人乗りのバイクを追跡する
パトカーに乗るワンとカプランは次の作戦を実行しようとしていた。
それは警察に機動隊のSWAT(スワット)と各地にパトロールしている
男性警察官と婦人警官を更に多く集めて今度は機動隊員SWAT(スワット)
と男性警官と婦人警官で協力し合い、一般人やテレビレポーターが
入って来ないように全ての道路の交通規制とバリケード
完全に封鎖して鼠一匹も出られないようにしたあと暴走する
赤いセダンが通るであろうこの一本の道路をSWAT(スワット)
が集めた大量の装甲車を道路に配置し封鎖。
続けて銃火器を用いて赤いセダンをパンクさせるか
あるいは不可能な場合は運転手を射殺する。
出来れば生きたまま確保したいが止む負えない。
カプランは無線機を耳に当てて例のSWAT(スワット)
や男性警官や婦人警官に作戦準備の指示を与え続けた。
ニューヨーク市内の道路を逃亡し続ける赤いセダンの姿をしたアレックスは
急に車の底の腹の部分からグウウウッ!とお腹が鳴り続けているのに気づいた。
くそっ!腹がっ!物凄く苦しい!さっき喰い損ねたから!
畜生!空腹だ物凄く苦しいっ!苦しぃ!クソっ!
赤いセダンの姿をしたアレックスは風に流れておいしそうな人間の匂いがした。
あっ!おいしそうな!人間の匂いッ!匂いッ!やった!やった!餌だ!
BSAAの車に乗っていた鋼牙とジルは「あっ!」
「おいっ!」とほぼ同時に声を上げた。
何故なら急に赤いセダンは時速100キロから
150キロまでスピードを上げたからである。
「何故?奴はスピードを上げた!」と鋼牙。
「分からないわ!でも!どうしてかしら?」とジル。
その時、魔導輪ザルバは大慌てでこう言った。
「あっ!もしや?畜生!俺様とした事がっ!あいつは!
ルナーケンやモラックスと同じ大喰らいで有名な奴だ!
あいつは魔獣ホラー・バエル!本体は一度に大量の人間を好んで捕食する!
さらに厄介な事に今の時点では実際はそこまで強くはない!
ただ奴は人間を一度に大量に喰らう事で自らの邪気や魔導力、
更に賢者の石の力を強化して戦う力を高める事が出来るんだ!」
「なんだって!それじゃ!」
「そんな日本の漫画みたいな話あるの?」
魔導輪ザルバの話にジルは正直戸惑いを隠せずにいた。
「信じられ……んっ?まって!大量の人間……はっ!もしかして!」
「何に気づいたんだ?ジル?」と鋼牙がジルに尋ねた。
するとジルは顔面蒼白になり、答えた。
「まずいわ!きっと!この先に警官達が道路を封鎖して!」
「急げ!ジル!早く車を停めないと!」
「分かっているわよ!もう150キロも出ているわ!これ以上は無理よ!」
鋼牙の声にジルは大慌てでアクセルを踏んで更に150キロスピードを上げた。
カプランは更に目の前のBSAAの車が50キロスピードを上げたのを勘で知った。
「おい!あの車!更に50キロもスピードを上げたぞ!」
「一体?何故でしょう?やれやれです!」とカプランは首を左右に振った。
一方、赤いセダンの姿のまま逃亡し続けるアレックスは追ってくる
BSAAの車やパトカーの距離を気にしつつも道路をしばらく走り続けていた。
やがて丁度、20軒目の家を通過した頃。
目の前の道路にはカプランの指示で仕事をしている
SWAT(スワット)や婦人警官と男性警官がいた。
俺事、アレックスは白いヘッドライトとオレンジ色のライトをチカチカと光らせた。
するとSWAT(スワット)隊員や婦人警官や男性警官は一斉に
赤いセダンの姿をしたアレックスを見た。
婦人警官や男性警官は目の前に急に現れた赤いセダンの前で口々にこう囁き合った。
「おい!あれ?赤いセダンじゃないか?」
「ええ、でもどうして停まったのかしら?変ね!」
「気お付けろ!急に動き出すかも知れん!」
「ええ」とつぶやくと一人の勇気のある婦人警官が両手でハンドガンを構えた。
勇気のある一人の婦人警官は両手にハンドガンをしっかりと
構えつつも慎重に出来るだけ時間をかけて近づいていた。
 
BSAA北米支部の地下の極秘対ウィルス兵器とBOW(生物兵器)専用医療施設。
マツダBSAA代表は虐待シェルターから連れ出したエミリーの血液検査の
結果を読んでいた。やはりエミリーの体内からあの新種の魚類現病ウイルスの
ジ・アビスのDNAを持つGウィルスの変異株が検出されたのは間違いない。
しかし問題はこのGウィルス変異株に感染している若い女性がどれだけいるかである。
幸いにも急にニューヨークの市内で若い女性がG生物化したと言う報告は無いものの
やはり放置しておくには危険過ぎた。このニューヨーク市内の若い女性達が
いつG生物化してもおかしくない。そこでマツダBSAA代表は直ぐに
極秘対ウィルス兵器とBOW(生物兵器)専用医療施設内の全職員と
スタッフと医師、看護師に細かく指示を与えた。
それは聖ミカエル病院を初め、ニューヨーク市内や全米の医療機関
G変異株の存在と危険性を報告を順次進める事。
手遅れにならない内にG変異株のワクチンの製造の為に早急に
ニューヨーク市内の若い女性達を対象に血液検査を実施する事。
勿論ニューヨークタイムズ紙で話題になった翌朝に一斉妊娠した
5001人の若い女性達の血液検査も必ず行う事。
臨床データを収集後は直ぐにワクチンの製造を始める事。
またニューヨーク市内、つまり北米でGウィルス変異株の存在が確認された為、
BSAA全支部は警戒レベル最大10まで引き上げるようにとも指示をした。
 
(第32楽章に続く)