(第55楽章)残されし魔王の息子バエルの遺産と生死を賭けし運命の決断

(第55楽章)残されし魔王の息子バエルの遺産と生死を賭けし運命の決断
 
またシルクのいとこの女の子はBSAA職員の事情聴取にも全て黙秘を貫いたそうで
ジョン達が彼女に何をしたのかどうかは分からず終じまいだったらしい。
また彼女は彼に脅された訳では無く自分自身の意志で
何も語らないつもりのようだった。
「ふうー何はともあれ、無事で本当に良かったわ!」とジル。
「だが。どうして?彼女は黙秘を続けるのだろう?」と鋼牙。
「ひょっとしたら?彼女は人間だった頃の知り合いだったのかもな!
彼は俺様と同じで人間に興味がある節があるからな。
おっと!食い物としてじゃないぜ!もっと別の理由さ!」
ジルはスマートフォンに耳を当ててマツダBSAA代表の
話の続きをしっかりと聞いた。
「それとあの魔獣ホラー・バエルに襲われたニュヨーク市警の
グレイズ巡査とイコマ巡査は例の変異型G生物の胚とG変異株ウィルスは
ワクチンの『ダークエンジェル』により完全に消滅し、現在経過観察の良好です。
もう変異型G生物に変身する心配はないでしょう。
いつになるかは未定ですがいずれ自宅に戻って仕事を再開できる予定です。」
「そう、良かった!2人とも無事に済んで!」
「でもやはりシェリー・バーキンのような肉体になるのでは?」
横から鋼牙はそう口を挟んで質問したのでジルはスマートフォン越しで
マツダ・ホーキングBSAA代表に質問した。
マツダ代表!つまり彼女達はシェリー・バーキンと同じ肉体に」
「はい!そうですね!やはり体内に微量のG変異株ウィルスの一部が残って
老化が停止しています。勿論、本人が望むのであれば。いやむしろ。
ウィルスの力を完全に制御出来ないと困りますので。
そのリハビリと訓練をこれから行う予定です。
なので2人の仕事の復帰はまだ先となります。
エミリーさんの方はどうにか本人がご両親をやや強引に説得して出産を認めさせて、
こちらのBSAA医療施設にて出産予定日を決めて準備中です。
あと他の妊娠したと思われる5001人の若い女性達も同じように準備中です。
あとシャノンさんは妊娠の他にも。
どうやら魂と自我を残して肉体が魔獣ホラーの細胞にすり替えられていました。
なので人間の捕食する危険性があり、一応まだ厳重に監視し、隔離状態にしています。
どうやら魔獣ホラー・バエルの新しい個体群つまりクローンに
人間の肉体を乗っ取られたようです。もしかしたら?
他にも何人かシャノンのような若い女性がいるかも知れません」
「あの魔獣ホラー・バエルの置き土産は想像以上に多いですね。
分かりました!では北米支部で!」
そう言うとジルはスマートフォンの電話を切った。
鋼牙は魔導輪ザルバを見た。
「ウームあいつ予想以上の影響を人間達に。
いやこちら側(バイオ)の世界に残したな。
一応、元老院の魔戒法師や神官にもしっかりとこの事は報告すべきだろうな。」
「だが子供は?子供は大丈夫なのか?」
心配そうに鋼牙は魔導輪ザルバの方を見た。
「分からん。ただもしもメシア一族の魔獣ホラー達が
別の可能性を求めているなら産まれた子供はホラーよりも人間側で人間では無く、
動物や野菜とか人間の食物を喰って成長するかも知れない。
どの道、何らかの変化があるだろう。」
それからジルと鋼牙はいつものように地下の駐車場に車を停めて
BSAA北米支部のビルの中に入った。
しかし更衣室の辺りで何人かのスタッフや職員が若返った
ジルの姿を見て驚きと戸惑いの表情を浮かべて更に本物のジルでは無いのでは?
と多くの者が疑い、結果、いわゆる警備員やセキュリティ部門のBSAA職員が来て、
ジルは全ての個人の身分証明書やBSAA関連の身分証明書を一度、
彼らに預けられ、本物が調べられた。
またジルは血液や唾液、鼻の中まで採取され全てDNA鑑定に回された。
更に指紋まで採取され、指紋検査がされた。
あと鋼牙も同じ検査をされる羽目となった。文字通りの巻き添えである。
しばらくの間、ジルと鋼牙は別室で待機していた。
やがてジルの個人の身分証明書やBSAA証明書も全て本物とされた。
指紋鑑定もオリジナルのジルのものであると判明した。
ようやくジルはクローンではなくジル本人であると判明し、解放された。
勿論、鋼牙ももち元身分証明書と言えば魔戒剣や白いコートも一応本物と分かり、
(魔戒剣はソウルメタルなので重すぎて常人の人間は持ち上げられないので
何人か試したがことごとく失敗した。)あと全ての血液も指紋も唾液の鼻の粘膜
から採取したDNAにより本人と確認された。
2人はようやく改めてBSAA北米支部で仕事が出来るようになった。
また鋼牙はジルが若返った理由を説明したが勿論、事情聴取に
立ち上がったBSAA関係者達は鋼牙の話を信じられない表情で聞いていた。
しかも何人かは力無く笑っていて、あまり信じていない様子だった。
鋼牙はそれを思い出しはあーと溜息を付いた。
「なんであんなに検査なんか?しかも厳重に……」
「仕方が無いのよ。以前、エイダ・ウォンのクローンのカーラ・ラメダスが
ネオアンブレラと言うテロ組織を率いて中国やイドニア共和国や
アメリカのトールオークスバイオテロを指示していたから。
あたしもクローンでテロリストの可能性も疑われるのは当然よ。
仕方が無いわ。本当に」
ジルも思わずはあーと溜息を付いた。
早速ジルと鋼牙はチャイナータウン街中の交差点の現場へ向かった。
そこは既に封鎖されていた。BSAAの手によって。
ジルと鋼牙はBSAAの車を降りた。
そしてBSAA職員や医療チームは若返ったジルの顔や姿を見て大きく戸惑っていた。
しかしそれでも全員、一応、仕事に集中していた。
2人はレンガの壁についている赤黒い粘液の調査結果を医療チームの一人に聞いた。
その結果、厄介な事に2017年7月にベイカー家を襲った新種の真菌、
つまりE型特異菌の遺伝子と酷似している事が判明した。
また現場の目撃証言によるとこの壁に不審な車が停まっていて
作業員が何かしているのを見たらしい。可能性としてはそれ以上は分からなかった。
可能性としてはHCF(ハイ・キャプチャー・フォース)か
あるいはあの犯罪組織コネクトの可能性があったがそれ以上は分からなかった。
なぜこんなものがあるのか不明だが、失踪した現場に残された被害者の衣服や
所持品にもその赤黒い粘液内にも
賢者の石が含まれていることも判明している事からー。
外神ホラーの仕業である可能性を鋼牙と魔人ザルバは推測した。
少なくとも可能性が高いと判断された。
 
ニューヨーク市内のチェルシー地区にあるおしゃれなフランス料理のレストラン。
レストラン内はいわゆるヨーロッパのお城をイメージした建物で内部を
まるでお城をイメージした白い壁や柱があり、どこかお城の豪華な食堂にも見えた。
また待つ場所は大広間をイメージした空間で豪華な赤い椅子が並んであった。
しかも一般の普通の値段で多くのニューヨークの人々や観光客が
気軽に食事出来るとても有名なレストランだった。
アヴドゥルはテロリストの仲間に指示されて強力なプラスチック爆弾
入った紙袋を持ってレストラン内に潜入した。
今回は多くの死者を出す事よりも恐怖を市民に与えて
アッラーの力を信じさせるのが狙いだった。
リーダーは唯一絶対神アッラーのみを信じ、ジハード(聖戦)
に勝つ為の計画を長い間、念入りに念入りに計画していたのだった。
そしてアヴドゥルは強力なプラスチック爆弾の入った紙袋を周りの
人々に気付かれぬようにレストランの中央のテーブルに置き、そこの席に付いた。
それから自分は昨日の夜のあの
黄金に輝く狼の騎士とクモの悪魔(魔獣ホラー・バエル)
の闘いとクモの悪魔を本気で愛していて。子供を身籠っていたあのシャノン。
そしてジルと言う女と鋼牙がシャノンに掛けた力強い言葉。
僕は一体?何をしているんだ?こんなものを仕掛けて何になる?
人が死ねば。みんなを怖がらせたら?
愛する人の命を奪って自分が全ての罪を憎悪を背負って生きるなんて。
僕にはやっぱり出来ないっ!僕はあの男みたいに強くないんだ!
僕は『信じれば救われる』と言うのは嘘だと思う。
信じてもこれまで人生が救われた試しがないじゃないか?
「こんなの馬鹿馬鹿しい!くだらない!もう決めたぞ!」
アヴドゥルは素早く立ち上がった。
ちなみに仲間との打ち合わせでは爆発10秒前に席を立ち。
アッラーは偉大なり!」とイスラム語で叫び、共に爆死して
魂は神の王国に行くと言う風に決め合っていた。
しかしアヴドゥルは素早く椅子から立ち上がると
レストランの大勢の人々に向かって大きな声で叫んだ。
「これは!爆弾だあああああっ!みんなああああっ!
にげろおおおおおおっ!はやくにげろおおおおおっ!」
するとそれを聞いたレストランを大勢の客人達は一斉に蜂の巣をつついたように
全員悲鳴を上げてパニックとなり、慌てふためいてバタバタと
椅子から転げ落ちるように降り急いで多くのレストランにいた客の人々は
コックやウェイトレス、客人達は店の外に物凄い勢いで飛び出して避難して行った。
店の中にはまだ死の恐怖の余り、腰を抜かしてその場から全く動けなくなったり、
木の机の下に隠れて全身を震わせている親子。
赤ちゃんを抱き抱えてどうしたらいいのか分からずその場に座り込んでいる母親。
アヴドゥルは「チッ!」と舌打ちをした。
「これじゃ!この人達が死んじまうっ!どうすれば……」
それからアヴドゥルはどうすればいいのか必死に考えた。
やがて彼はこの近くに人気のない場所に川があった事を思い出した。
そこに投げ込めば周囲の人々や建物に危害が及ばないかも?
そこしかないっ!よしっ!行くぞっ!
アヴドゥルは机の上の紙袋の中のプラスチック爆弾を見た。
時刻は『1分00秒』だった。急げば間に合うかも?
そう思いアヴドゥルは時限式のプラスチック爆弾の入った
紙袋を持ってレストランを飛び出した。
彼はその川を目指して周りの人々に「離れろ!」とか
「どいてくれ!死にたいか!」と怒鳴って必死に歩道を走り続けた。
アヴドゥルは長い間、なりふり構わず全速力で走り続けた。
しかし走れど走れど一向に川のある場所に辿り着かなかった。
それでもあきらめずにただただ歯を
食いしばって全速力で汗だくになりながら走り続けた。
しかも最悪な事にレストランからその川のいる場所まで約1000キロもあり
しかも紙袋を覗いた瞬間、時限式のプラスチック爆弾は10秒を切っていた。
ううっくそっ!これじゃ!全然!間に合わないじゃないかっ!
しかもこんな街中で起爆したらヤバイッ!
僕も周りの人達も死んじまうっ!どうしたら??くそっ!
それでもアヴドゥルは何とか街を守るべく方法を必死に考え続けながら
道無き道、道路や歩道をあっちこっち走り続けた。どうにかする為に。
 
(第56楽章に続く)