(第15章)不吉な予兆

(第15章)不吉な予兆

その頃、覇王は気晴らしに公園のベンチでドイツ語の「ファウスト」を読んでいた。
このゲーテファウストの本は覇王が偶然古本屋で見つけたもので、パラパラと
めくって強い興味を持ち、買って来たものである。
覇王にとって所詮『金』などは、『生命』と比べれば単なる紙切れと
アルミニウムと銅と鉄の塊にしか見えなかった。
覇王は
「こんな物を作るのは何故なのか?こんな物の為に汗水たらして働くのは何故な
のか?」と疑問に思っていた。そして
ファウストを読めば何か分かるかも知れない……」
とつぶやいた時、突然2,3人の黒いフードをかぶった集団が覇王を指さして大
声で
「見つけた!悪魔の子だ!」
覇王は
「何だ!!今良い場面だったのに!!」
と苛々して言い返した。
そして黒いフードを被った集団が
「ああ……悪魔の子よ……破滅へ導く……」
と言った時に覇王は「何の事だ!!人違いだ!!」
と怒鳴りとっとと走り去った。
黒いフードの集団の教祖らしき人物は
「私の霊感では彼のオーラは邪悪に満ちておる……」
とつぶやいた。
それ以来黒いフードの集団はストーカーの様に覇王に付きまとい、ちょくちょく
騒ぎに来るのだった。覇王はもうウンザリだった。彼ら黒いフードの集団は「カルト宗教」らしい。
「こんな奴らに付きまとわれるとは運が悪いな……」
と覇王はつくづく思った。
何ヶ月か経った頃、美雪が
「一緒に近くの店に買い物に行かない??」
と誘った。
しかし覇王は
「行かない!!」
とあっさり断った。
美雪が何でと聞くと、覇王は不機嫌そうに
「今忙しい!!それに仕事中は俺に話しかけるなと言った筈だ!!」
と怒鳴った。
美雪は
「何よ!!せっかく誘ったのに!!」
と怒鳴ると、とっとと歩き去った。
美雪は尾崎に
「覇王って笑った事あるの?」
と聞いた。尾崎は
「仕事以外で暇な時、デモ隊の歌を聞いてゲラゲラ笑っていたけど。
何でそんな事を聞くの?」
と聞いた。
美雪は少し考えながら
「そっか…何でもない」
と言って歩き去った。
その後、美雪は一人、仮設研究所の帰りに近くのスーパーで、夜食の、レンジで
温めるご飯と納豆とネギ、トマトを買った。
その帰り道、美雪は「でも?どうしてあんなに酷く冷たいんだろう?」と考えながら歩いていると
黒いフードを被った怪しい人物が歩いて来た。彼女は気味が悪くなり、
なるべく目を合わせないようにして通り過ぎようとした。
黒いフードの人物と美雪がすれ違った時、教祖らしき人物がふと足を止めて
「この街に悪魔の子がいる……そして必ず世界は破滅する…その悪魔はあなたの
心の隙間を狙っている!彼が現れたのはあなたを選んだから…あなたはその悪魔
に躁を捧げなければならないだろう…」
と言った。美雪はただ怖くて黙っていたがやがて走り出した。
荒い息を吐きながら仮設研究所のドアを開けて中へ入ると
「何なのよ……」
と言い、力無くドアの前に座り込んだ。

地球防衛軍の寮でソファーの上で寝ていた覇王は夢を見た。
真っ暗な闇の中、覇王は目を開けると
月が見え、やがて声が聞こえた。
(困ったことになった……)
また別の声が聞こえた。
(もはや我々両一族の強大な支配力を持ってしても
『奴』の力を制御するのは不可能になった……)
(『奴』は我々一族に対して強い恨みを抱いている。)
(『奴』は優秀な暗殺者だった!!)
覇王は「暗殺者?何の事だ??」
(『奴』もとうとう我々両一族の脅威になった)
(やむをえまい……『奴』を月に封印する!!)
やがて夢から覚めて、ソファーから起きた覇王は大あくびして
背を伸ばすと、顔に乗っけていた「ファウスト」の本を机に置き、
デモ行進の様子をテレビで見ていた。
その日も反対ソングとして「ゴジラマーチ」と言う曲を熱唱していた。
すでに1番の歌詞と2番の歌詞を歌い終えて3番の歌詞を歌っている最中だった。
3番の歌詞はこうだ
「ゆくぞ!!どこでも!!平和の為だ!!
広い世界を駆け巡り!!
目指すは悪い怪獣だ!!
でっかいからだに可愛いめだま!!
明日も戦う!!ぼーくらのゴジラ!!
がんばれ!!がんばれ!!僕らのゴジラ!!
がんばれ!!がんばれ!!僕らのゴジラ!!」
覇王はテレビの歌詞を聞きながら憎々しげに
「何故町を破壊する憎悪すべきゴジラを応援するんだ??」
と聞いた。
すると尾崎は
「宇宙人から地球を何度も救われているからさ!!」
と言った。
そしていきなり尾崎は
「さて、美雪の警護の任務をやるのは俺だな」
覇王は
「知らないの??俺がやるんだぜ!!」
それを聞いて尾崎は
「何!!」
と言うと、ドタバタあわてて
寮を出て指令室に駆け込み、波川司令に
「そんな!!何で警護を彼に!!」
と訴えた。波川司令は驚いた様に
「なんですか??騒々しいですね!!」
と怒られた。
尾崎は敬礼すると
「失礼しました!!ただ少しお話が……」
と息を弾ませながら言った。
波川司令は
「休め!!それで何ですか??」
尾崎は手を降ろし、休めのポーズをしながらも動揺して
「そんな!!何で!!警護を彼に!!つまり、覇王を」
と聞いた。波川司令は冷静に
「彼が一番適任と考えたからです」
尾崎は
「ただ……彼は経験が浅いです!!」
と少しムキになって言い返した。
波川司令は
「彼は警護という仕事を誰よりも進んで私に申し出て希望して来たんです」
と冷静に言い返した。
「しかし……」
「もういいです!下がれ!!」
そう言われて尾崎は渋々敬礼をして指令室を出た。
尾崎は
「俺の任務を何故あいつが?」
とつぶやきながら急いで歩き去った。
彼の心には嫉妬心が少しづつ大きくなりつつあった。

(第16章に続く)