(第34章)バニシング・ツイン

(第34章)バニシング・ツイン

しばらくして美雪は信じられないという様子だったがやがて
安心と喜びのあまり目頭が熱くなり大声で泣き始めた。
そして女性医師も
「これで!一安心です!まだ意識が戻るのにまだ少し時間はかかりますが……
後遺症の心配も恐らくないでしょう!そのうち目覚めるでしょう!」
すると別の医師が
「投与された『例の生物』の性ホルモンや攻撃ホルモンも
G塩基の作用で徐々に減り始めて、ホルモンバランスは安定しつつあります!
よかったですね、美雪さん!これで性格も以前より穏やかになるでしょう!」
と嬉しそうに言った。
さらに別のもう一人の医師は
「それで『例の寄生生物』に対してG塩基は完全な免疫を持つようになりました
からもう寄生される心配もありませんし、今後また『例の生物』の性ホルモンと
攻撃ホルモンを注射されてもG塩基がホルモンバランスを調整してくれます!」
と付け加えた。
砦の遺跡で楊国花は小さい漢文の文字を見つけた。
そこにはこう刻まれていた「闇世界入口」と。
楊国花は
「闇世界の入口?壊れていてよく分からないわ!他に何か無いのかしら」
と再び壁に向かって懐中電灯を照らした。
すると壁には「呪われたる龍」と書かれていた。楊国花は
「どういう意味かしら?」
言いながらさらに壁を照らすと、三体の竜の絵がまるで
この穴に飛び込むような形で描かれていた。
地面を照らすと四角い窪みがあった。
そこには小さい錆ついた看板に英語で「警告!触るな危険」と書かれていた。
しかし楊国花はその看板を無視して、恐る恐るその窪みに触れると「ガタン!」
と大きな音を立てて四角い窪みが動き出し、大人一人が入れる位の穴が現れた。
楊国花はその穴に恐る恐る足から入って行った。
しかしそれはダストシューター
作りだったので、楊国花は悲鳴を
上げながら地下へ物凄いスピードで渦巻き状に回転しながら落下していった。
やがてどこかの穴から放り出されるように出て来た。
楊国花は完全に目が回りフラフラと立ち上れないばかりか、目がまだグルグル泳いでいた。
そして方向感覚を失い千鳥足で壁に向かい、ようやく壁にもたれ掛かった。
しばらく休むと方向感覚が戻り、目の回転も止まった。
立ち上がって再び前へ進み始めた時、突然、気持ち悪くなり
軽い吐き気に襲われたがしばらくすると治った。
その時、部屋の奥に明かりが見えた。楊国花はその明りのある方へ進んだ。
そこは巨大な通気口だった。
そして楊国花はその通気口の網の隙間から降りようとした。
しかしそこは崖のよう切り立った壁になっていた。
楊国花は近くにロープの様なものを見つけたのでそれを伝ってレスキュー隊の様に壁を降りた。
そして周りを見渡すと驚きのあまり両手で口をを塞いだ。
そこは巨大な室内になっており、見たことの無い研究用の道具が壁の棚に所狭しと並んでいた。
また様々な薬品や注射器が確認された。そして幾つかのメモも見つけた。
どうやら何かの研究所らしい。またカプセルの様なものが3つ並んでいた。
しかし全て粉々に割れていた。
彼女は割れたガラスの破片を避けて注意深くカプセルに近づくと、
カプセルの下の番号と英文を読んだ。
1つには「DSE―RTYORE―XX200」と書かれ、
もう一つには「DSE―GIHODAR―XX200」、
最後のカプセルは文字が霞んでいて良く分からないが
「BGAN―XX200」となんとなく読めた。
楊国花は
「闇の森の神の正体って?それにこの2つは?まさか?」
とつぶやいた。
地球防衛軍の救助艇の病室のベッドで眠っている凛は夢を見ていた。
凛が黄金竜に向かって突撃すると、黄金竜は十字に組んだ両手を開き、長い爪で凛の身体を切り裂いた。
凛は切られても止まる事無く黄金竜の懐に潜り込み、
腹部に渾身のパンチを食らわせた。
それは黄金竜ともう一人の凛の身体に突き刺さった。
黄金竜は「ウッ!」と唸ったが倒れなかった。
黄金竜は凛の腕を掴み引き抜くと投げ飛ばそうとしたが、
凛は両足でしっかり地面を支えていたので倒れなかった。
そして凛の手を離すと彼女と距離を置いた。
もう一人の凛は
「どうやらあたしはここまでの様ね……」
とつぶやく様に言った。凛はまだ解けない謎を問いかける様に
「あなたは誰?あたしなの?」
と質問した。
するともう一人の凛は驚くべき事を語り出した。
「『あたし』は『あなた』と一緒にこの世に生まれるはずだった『双子』よ!
でも……ママの妊娠初期の段階で『あたし』の身体は『あなた』
に吸収されたの……私には生まれる体がなくなった。
いつも『あなたが』この世で色々な人達から脚光を浴びている中、
『もう一人のあたし』は『あなた』を陰で見守ってきた……けれど脚光を浴びているの
は『あたし』では無く常に『あなた』……『あたし』はそれが許せなかった!
ところが宇宙人や会社が作った薬で本能と共に『あたし』の人格も覚醒した。
『あなた』と言う表舞台で短い期間だけ活動出来た!
それで恋も出来たし勉強も……でもこれからは『あなた』に全て譲るわ!」
すると凛はもう一人の凛に
「それじゃあの魔王の魂の一部はどうなったの?」
もう一人の凛は
「『あなた』の中にある生きる力で全て死滅したわ!『あなた』にはまだやらなければい
けない事があるけどそれはこの後すぐに分かるわ!幸運を祈るわ!」
と言うと凛の周りに強い光が差し込んだ。
凛は眩しさをこらえながら
「待って!もっと聞きたい事があるの!」
と言ったがやがて目の前が真っ白になった。
その瞬間、黒い龍が一瞬だけ見えた。
また幽かに『助けてくれ!』と男性らしき声が聞こえた。

(第35章に続く)