(第40章)孤独な女性!

(第40章)孤独な女性!

しばらくして杏奈は涙をハンカチで拭きながら
美雪の病室に入ると意識不明の美雪がベッドで眠っていた。
そして隣の机に、以前X星人との戦いの時にもらった剣の形をしたインファント
島のお守りを誰かが親切にも置いてあった。
杏奈はそのお守りが発光しているのに気付き、
そのペンダントに触れた瞬間、映像が杏奈の脳裏に流れて来た。

廃墟となった東京の上空に小美人と美雪の意識が見えた。
さらに炎の中、ケーニッヒギドラとモスラの激しい空中戦やゴジラ咆哮を上げる様子が映し出された。
別の映像に変わり、ある病室の分娩室のベッドの上で、
医師と助産婦達に付き添われて一人の女性がお産の準備を始めていた。
杏奈はそのベッドにいる女性の顔を見て思わず
「お母さん?」
とつぶやいた。
またその女性の周りを10円玉程の大きさの発光体がにゆっくり移動していた。
それをよく見ると、虹色の3つ首の竜の様な胎児らしき生物が見えた。
しかし周りにいた医師や助産婦達はその発光体は全く見えていない様だった。
その発光体は、杏奈と美雪との母親らしき女性のお腹の中に吸い込まれるように
消えた。周りは真っ暗になり、やがて赤ちゃんの産声だけが聞こえた。
しばらくして杏奈がふと我に返って周りを見渡すとそこは美雪の個室だった。
杏奈は片手で頭を押さえ混乱した様に
「なんなの?最近色々疲れて幻覚を見たのかしら?」
とつぶやくとそのペンダントからそっと手を離した。

真鶴の避難所で東京の3体の怪獣の戦いの様子をライブ放送で見ていた子供が
「何でゴジラは人を憎むの?」
と質問した。
それに対して同じく真鶴に避難していた沙羅が
「それはね……『命』を弄んだ悪い人達がね……」
と言い掛けた時、突然その子の母親が
「ちょっと!ウチの子に変な事を吹き込まないで!」
と言ってその子供を無理矢理連れて行こうとしたが、子供は
「やめて!」
と言って母親の手を振りほどいた。
母親はかなりショックを受けていたようだった。

真鶴の近くではゴードン大佐が
「今地球防衛軍ゴジラやケーニッヒギドラに対抗できるのは轟天号だけです!出撃許可を!」
さらに尾崎も
「私からも!」
波川司令は
轟天号の修理はまだ完全ではありません」
それでも尾崎とゴードン大佐が食い下がったので、
とうとう波川司令は
「分かりました。轟天号の出撃を許可します!くれぐれも無茶をしない様に!」
ちなみにX星人の戦いで東京が壊滅状態になってから、地球防衛軍の仮設本部と
仮設研究所を東京に残し、轟天号だけ真鶴の緊急避難ドッグに移されていた。
そして尾崎とゴードン大佐に杏奈は
「気つけて!必ず帰って来て!」
ゴードン大佐は
「大丈夫だ!美雪を頼んだぞ!」
と言うと轟天号に乗り込んだ。杏奈に見送られ、
轟天号は東京に向かって出撃した。

一方美雪の意識は真っ暗な闇の中にいた。
隣にいたはずの小美人の姿も消えていた。
美雪は
「あれ?小美人はどこ?」
すると声が聞こえた。それは不特定多数の人々が不満を言う声だった。
「あなたは分子生物科学者としての才能無し!」
「研究の仕方が酷い!博士らしくない!」
「もう二度と分子生物学者の世界に足を踏み入れるな!」
分子生物学者の名が汚れます!」
分子生物学者を引退しろ!裏舞台に回れ!」
「馬鹿!分子生物学者!ゴジラを殺す方法を早く見つけろ!イライラするぞ!」
「あなたはテレビタレントの方がお似合いです!」 
「馬鹿な人に分子生物学者はやらせないでください!」
と一般市民の理不尽なクレームだった。
美雪は両耳を押さえて、その場に座り込み、泣きながら必至に大声で
「やめて!お願い!やめて!お願い!」
しかしクレームは両耳を塞いでも頭にガンガン反響する様に
何度も何度も聞こえていた。
真っ暗な暗闇の中にいた美雪の意識は、頭にガンガン反響する様に聞こえた
不特定多数の一般市民の理不尽なクレームの嵐に耐えかね、
どこまでも果てしなく続く暗闇の中に座り込み、大声で泣き始めた。
「あたしだって!がんばっているのに!どうして!どうして!理解してくれないの……」
と絶望と無力感に打ちひしがれ、ただ泣き続ける事しか出来なかった。
しばらくして美雪は顔に涙を浮かべ、怒りの表情を浮かべると
「だったら!地球はX星人統制官に支配されれば良かったのよ!」
と両拳を何度も暗い地面に叩きつけながら大声で激しく怒鳴った。
荒い息を吐きながら殴った拳を見ると皮膚が裂けて血が滲み出ていた。

美雪が我に返ると再び廃墟の東京の街が見えた。
更に隣を見ると小美人が何事も無かったかように3体の怪獣の戦いを見ていた。
しかし小美人は美雪の方に振り向くと、
まるで彼女の傷ついた心を見透かした様に心痛な表情で美雪の顔を見ていた。
小美人の両目にも涙が浮かんでいた。
一方現実の東京の廃墟ではケーニッヒとモスラは東京の
上空で再び互いにバリバリ!バチッ!バチッ!と火花を散らしながらぶつかり合った。
ケーニッヒがモンスター語でモスラに話し掛けて来た。
「我々ギドラ族にとってこの銀河系の惑星は家畜も同然!そして家畜達は文明や
文化を作る事で我々が直接手を加えなくても自らの力で育っている!」
モスラは右翼をケーニッヒギドラの左翼に押し付けてバチバチ!と火花を散らしながら
「何が言いたいの!」
と逆にすごんだ。

(第41章に続く)