(第30章)1954年の生々しい過去

(第30章)1954年の生々しい過去

凛が、壊れかけたビルの屋上から下を覗くと、
瓦礫の山の中に3体のゴジラが倒れていた。
凛はそれを見て思わず両手で口を塞いだ。
3体のゴジラは完全に沈黙していて、まるで死んでいるように見えた。
凛が空を見上げるとデストロイアが上空で円を描きながら、
勝ち誇った様な咆哮を上げて、飛行していた。

凛はデストロイアに対する激しい怒りと殺された級友への悲しみが湧き上るのを感じた。
凛は拳が手のひらに食い込み、血が滲むまで固く握りしめた。
デストロイアは下方に激しい殺気を感じ、地上の金色の柱を見て驚いた。
新・轟天号内で全員戦闘配置に付いた直後、ジェレルが
「3体のゴジラが倒れている付近に高エネルギー反応!」
ゴードン大佐は
「何?」
熊坂は
「なんだ!あの光は!」
と中央の大きなスクリーンを指さした。
アヤノは
「宇宙怪獣と同等の高エネルギーです!」
熊坂は
「まさか?もう1体?」
ジェレルは
「間違いありません!これはキングギドラです!」
東京の上空を旋回しながら飛行していたデストロイア
新しい脅威に止めを刺そうと急降下しながら、
無色透明の薄い煙のオキシジェン・デストロイアを吐いた。
しかしその薄い煙はまるで見えない鏡に当たった様にデストロイア自身に跳ね返った。
ただしデストロイアには全く効果が無かった。

轟天号内ではニックが
「跳ね返した?あの全てを破壊するオキシジェン・デストロイアが……」
と信じられない様に言った。
ジェレルは
「やはり!反重力シールドです!」
カンナが
「一体?キングギドラはどこにいるの?」
尾崎が何か思い当ったかの様に
「まさか?」
と静かにつぶやいた。
凛の意識は真っ暗闇にあった。
凛は混乱した様に
「あれ?さっきまでビルの上に立っていたのに……」
とつぶやいた。すると凛の脳裏に1954年3月1日の
マーシャル諸島ビキニ環礁で行われた水爆実験が現れた。
巨大なキノコ雲が大爆発と共に立ち上りゴジラの達の住処を破壊して行った。
その映像を見た凛は吐きそうになった。

次の場面では1954年8月の太平洋で、貨物船が炎に包まれ沈んで行った。
その海の中に初代ゴジラがいた。凛は戦慄した。
ゴジラの目には同族に対する悲しみと
人類に対する憎悪がたたえられていた。
暴風雨と共に初代ゴジラは大戸島に上陸して家の中にいる人間ごと踏みつぶした。
やがて初代ゴジラは満足した様に海へ去って行った。
凛は激しい怒りと憎悪で気が狂いそうになりながら
「人殺し!でもゴジラの住処を奪った人間達も憎い!もう嫌よ!」

また東京平河町テレビ塔ではMS短波無線機で数人の実況クルーが、
テレビ等に近づくゴジラについて最後まで放送を続けていた。
凛は
「やめて……お願い早く逃げて!」
しかし初代ゴジラはジリジリとテレビ塔に近づいてくる。
クルー達は逃げずに放送を続けていた。
凛は涙目で
「やめてお願い……」
初代ゴジラテレビ塔に手をかけた。
凛は
「やめてええぇぇっ!!」
と絶叫した。クルーの声が
「皆さん!さよなら!」
と放送された後、テレビ塔は破壊され、クルー達は地面へ落下していった。
凛は
「助けて!誰か助けてええぇぇっ!」
と自分が誰なのか全く分から無くなる程、絶叫し続けた。
もはや凛は自我を保っていられずただ絶叫する事しか出来なかった。

東京でデストロイアは目に見えない鏡を破壊しようと悪戦苦闘していた。
ゴードン大佐は
「冷凍ミサイル発射!」
と号令をかけた。轟天号の下部の連装ミサイルランチャーから冷凍ミサイルが放
たれ、デストロイアを攻撃した。
大量の冷凍ミサイルがデストロイアの背中に直撃し、破裂して冷気を放出し、
背中の一部が凍り付いた。
しかし凍り付いた殻が脱皮する様に剥がれ、新しい殻が現れた。
ゴードン大佐は
「クソ!再生するのか?」
と大声を上げた。さらにデストロイアは逆上した様に頭部から今度は紫色の剣を
伸ばし攻撃して来た。新轟天号は冷凍バリアで
その攻撃を無力化したかに見えた。

(第31章に続く)