(第31章)緊急救命士VS微小デストロイア(前篇)

(第31章)緊急救命士VS微小デストロイア(前編)

東京練馬区特殊生物研究所では優香の体内から生まれたデストロイアの子供を調べていた。
また伊集院博士の研究所にいた美雪も山根健吉と共にその生物の調査をしていた。
そんな中、立川市の避難所でデストロイアの微小体が避難民に感染して深刻な被害が出ていると

神宮寺博士から連絡を受けた美雪は、そのデストロイアの感染を食い止める為に、
特殊な強化ガラスのケースの中で眠っている子供のデストロイアの組織細胞を採取して、
念入りに調べ、対デストロイアのワクチンを作り出そうと試みたが、
肝心の、有毒であるミクロオキシゲンやオキシジェン・デストロイヤーを全く持っていないので、
その毒を弱めてワクチンを作る事は全く不可能だった。
ただ伊集院博士と音無凛、いや前世の芹沢博士が覚えている
限りの情報を元に、オキシジェン・デストロイアの猛毒性を中和する薬があった。
それは恐らく凛が持っていると美雪はそう信じた。
これならデストロイアを本体ごと葬ることが可能だと思った。

しかしそんな事を知らない神宮寺博士はデストロイア
生体組織を電子顕微鏡で分析し始めた。
子供のデストロイアの生体組織にはウィルスの様な構造体が存在せず、人間の皮膚組織に類似していた。
先ほど届いたデストロイアのDNA解析をした結果の
資料を美雪と健太郎が読んで言葉を失った。
「緑色のデストロイアは脳と心臓を司る役割を果たし、
複数の赤色のデストロイアは手と足の役割を果たす。
そしてその2種類のデストロイアのDNAを分析し
た結果、2種類のデストロイアのDNAは人間のDNAコードと類似しており、
染色体はXYと判明した。」
健太郎はしばらく黙っていたがやっとの事で
「それじゃ……奴はオス?」
さらに美雪が続きを読むと
「またこのデストロイアのDNAはケーニッヒギドラと同じ様に
人間の女性のDNAと対を成していることが判明した。」
健太郎
「つまり?」神宮寺博士は
「つまり人間の女性としか子孫を残すことが出来無い……」
と答えた。その説明を健吉はただ愕然とした表情で聞いていた。続けて神宮寺博士は
「普通の生物の形態変化や遺伝子レベルの進化にはケーニッヒギドラの様に長い
年月が必要だ!しかしこのデストロイア達は1994年よりも増して急激に形態
変化や遺伝子レベルの変化を引き起こしている!よほどの原因があるのだろう……」
美雪は
「例えば環境ホルモン!つまり内分泌かく乱物質とか?」
また健吉は
「その中にオキシジェン・デストロイヤーや
PS45などの化学薬品が含まれている可能性もありますね?」
と考え込みながら言った。
神宮寺博士は
「その可能性は否定できないだろう……」

「特殊生物病院」の個室で目覚めた優香は両目を静かに開けて起き上がったものの、
何故か頭がクラクラしていて今にもベッドに倒れそうだった。
目の前が突然、カメラのフラッシュの様に眩しく光った。
ゆかりが両目を静かに開けると、下に家具や木箱と共に衣服か
ビニールシートらしき物が一瞬見えた。
背中にひんやりとした感触が伝わったかと思うと、
寒さの為か何の前触れも無く全身が震え始めた。
同時に優香の脳裏に途切れ途切れの映像が流れた。
(やがて優香が周りを見渡すとそこは天井だった。)
(逆さまの状態で優香の目の前で吠えた。)
(一瞬デストロイアの緑色の顔が見えた。)
(優香はデストロイアのわずかな重みと下腹部にひどく熱い痛みを感じた。)
(優香は痛みで小さな悲鳴を上げた。)
(ドアが開く音が聞こえ、ミュータント兵が入ってくる様子が一瞬だけ見えた。)
(さらに下腹部の熱い痛みに続いて、激しい息苦しさが襲い掛った。)、
(優香は口から凍り付いた白い息を必死に吐いて荒い息をしながら、
なんとか周りの冷たい空気から酸素を得ようとした。)
(さらにその激しい息苦しさと共に吐き気と物凄い気持ち悪さに襲われた。)
それからカメラのフラッシュの様な光で目が眩むと再び場面が変わり、
(天井から引きはがされた優香は毛布に包まれながら救急車に運ばれた。)
その映像を見た後、我に返った彼女は荒い息を吐きながら周りを見渡した。
そこは狭いただの病院の個室だった。
彼女は今の映像がフラッシュバック現象だとすぐに分かった。
優香の個室の外ではサイレンの音と共に
「急患だ!立川市の避難所で感染者が!」
「こら!そこをどいた!急患だ!」
と医者の怒鳴り声や
「産まれる!早くして!」
と言う女性の悲痛な大声を始め、様々な声が耳に届いた。
優香は
「感染者?まさか……避難所で……」と呟いた。
手術室のベッドには危篤状態になり運ばれた友紀と山岸が寝ていた。
その周りを大勢の医師や看護婦があわただしく歩き回っていた。
そして呼吸確保の為に友紀と山岸の喉を切り開いて入れた
呼吸用の管を引っ張り出した医師達は絶句した。
「クソ!肺に入れた管の先が全て溶けてなくなっているぞ!」
「肺まで届いていない!これじゃ呼吸確保も出来ない!」
ヨーロッパ人の医師は
「仕方がない!酸素マスクを付けるんだ!」
すると今まで激しく波打っていた心臓のモニターが「ピー」
という電子音と共に真っすぐな緑色の線になった。
1人のアフリカ人の医師が
「心臓が停止したぞ!」
するとヨーロッパ人の医師が隣にいた若い白人の医師に向かって
「何!ボケッとつっ立っているんだ!
さっさと電気ショック用の機具を取って来い!」
若い医師はあわてて走り回り、しばらくして電気ショック機を持ってきた。
しかし若い医師は
「これが最後に一つです!これじゃ!
医師や看護婦はおろか医療機具さえ全然足りません!」
するとヨーロッパ人の医師はさっきの若い医師の発言を無視して
「邪魔だ!」
と怒鳴り、その若い医師を押しのけると、友紀の両胸に電気ショックを掛けた。
「バン!」と大きな音が聞こえ、友紀の身体に一瞬電気が走り、ベッドから弾け
たように宙に浮いた。しかし心臓の動きは変わらなかった。
「もう一度だ!もっと電力を上げろ!」と言って再び友紀の身体が弾けた様に宙
に浮いた。すると心臓は動き出したがまだ不安定だった。隣のベッドに寝ていた
山岸はデストロイアの影響か心臓の血管の一部が狭くなっていたので、
バルーン手術を受けていた。
しかし管を心臓に入れ、いざ風船で血管を広げようとするが、
デストロイアにより心臓に入れた管の先端の風船に穴が開けられ手術は失敗した。
日本人の医師が
「クソ!デストロイアに邪魔されて!まともな応急処置すらできないぞ!Gメー
サー治療室はまだあいていないのか!?」
と舌打ちをしながら怒鳴った。別の日本人の医師が
「Gメーサー治療室も患者が多すぎて間に合わないぞ!
お願いだ!早くあいてくれよ!」
心の底から願った。何せGメーサー治療は不治の病を直し、患者の体内に巣食っ
ているデストロイアも一匹残らず駆逐してくれる画期的な医療器具だが、普及が
進んでいない為、Gメーサー治療室の数よりデストロイアに感染した患者の数の
方が遥かに上回っていたのであった。
地球防衛軍本部の特殊生物病院のGメ―サー治療室前は、
現在も生と死を懸けた果てし無い戦いが続いていた。

東京では新轟天号デストロイアの紫色の剣を防いでいたが、それはついに冷凍
バリアを破り、轟天号のドリル部分をかすった。
船内では周りがあちこちショートしていた。
尾崎は
「駄目です!奴は冷凍攻撃もバリアも克服しました!」
ゴードン大佐は
「まだいける!さらに集中攻撃をかけろ!」
と命令した。すると尾崎が
「何を言っているんですか?奴には冷凍兵器や冷凍バリアはもう通用しません!
一時撤退しましょう!」
と答えた。

(第32章に続く)