(第41章)生き残った者……失った者

(第41章)生き残った者……失った者

東京で山岸は大勢の喪服を着た人達の中にいた。
「特殊生物病院」の地下の長い廊下の先はGメ―サー治療室の入り口に続いている。
幾つもの左右にある扉の様なものは、去年の冬に
医師や看護婦と微小体デストロイアとの生死を懸けた死闘が繰り広げられた部屋である。
その幾つもの扉は大きな墓標の様な物で封鎖されていた。
山岸があるドアの前の墓標を見ると、
そこには「山田勇気1m」と書かれていた。
山岸はそっと涙を流しながら
「勇気君……御免ね……僕達だけ生き残って」
とかすれた声で言った。彼は同じ高校の、クラスの違う生徒で、
山岸とは唯一無二の親友だった。
友紀と山岸は現場にいたが意識不明の重体だったので何があったかは知らない。

実は目の前でデストロイアの発作を起こしたのは彼だった。
そして治療が間に合わないと判断した医師と看護婦により
この部屋の中に連れ出され、そこで帰らぬ人となった。
山岸の隣には当時現場に居合わせたアフリカ人の医師と
ヨーロッパ人の医師や看護婦も喪服で参列していた。
近くの壁には拳で殴って凹んだ跡があった。
アフリカ人の医師が悔しさのあまり拳を叩きつけた跡だった。
それも変わらずちゃんと残っていた。

同じ「特殊生物病院」にある大きな倉庫の様な広い部屋で何かが人形の様な物で遊んでいた。
その身体は人間位の大きさで、体格はガッチリとしていた。
全身の色は人間の肌に酷似していた。
その生物が立ち上がると、それは人型であった。
また、オスであった。
マジックミラーを通して倉庫の様子を観察していた1人の医師が
「不思議なものだな……」
看護婦らしき女性が
「どこも人間に似ているなんて…それに、発情期なのかしら。
よく見ると不気味ですね……祥郷さん……」
祥郷と言う名前の医師は
「それを言っては失礼だ!……優香さんから生まれた
デストロイアの子供は成長が早く、丁度、人間で言えば青年位か?」
看護婦は
「それじゃ……」
祥郷は
「この生物のDNAは人間と類似している。またこの生物は見た通りオスだ」
看護婦は
「それじゃまた人間の女性を?」
祥郷は
「不完全なキメラの可能性が非常に高いと言われているが、
その説も100%正しいかどうか分からないと分子生物学者達は言っている。
ただこのデストロイアの子供は最近、何度も母親と、もう一人、女性の名前を呼び続けている……」
と答えた。看護婦は
「それは知っています……」
2人がマジックミラーを通してそのデストロイアの子供を観察している間にも、それははっきりと
「ユ……キ……」
と何度も何度も呼び続けていた。
祥郷は椅子に座りながら
「とにかくこの課題をクリアしなくては!」
看護婦も隣で
「そうですね……」
と答えた。

ゴジラとジュニアとバガンは互いにもつれあい、凛や友紀、
遺跡調査チームがいた部屋の天井や床を破壊して、さらに地下へと落下していった。
ゴジラが立ち上がると、そこは広い地底湖で、酷い刺激臭が立ち込めていた。
それは腐った死体のような臭いだった。
ゴジラとジュニアはそれでも周りを警戒しながら地底湖のどす黒く濁った水の中を進んだ。
その先に明りの様なものが射しこんでいた。
2体のゴジラが天井を見あげると、掘削機で開けられた様な大きな穴が開いてい
た。その大きな穴は中国のスパイ達がバガンの死体を回収した場所だった。
つまりここはバガンの壁画や漢文の文字が書かれた巨大ホールの真下である。

ジュニアが周りを見渡すと、そこには不完全な形をした怪獣の死体が山の様に積み上げられていた。
その中には首が3つある怪獣、手足が逆の奇形の怪獣、尻尾が千切れている怪獣、
翼が折れ曲がった怪獣、更にその身体には太い長いホースの残骸が突き刺さっており、
どれも見るに堪えない有様だった。
さすがのゴジラやジュニアもあまりにも酷いので思わず吐き気を覚えた。
しかも周りは不気味な程静かだった。
尾崎とゴードン大佐を始めアメリカと日本の地球防衛軍のM機関、
米軍の調査チームは、凛と友紀と同じ様な状況下にいた。

尾崎達が周りを見渡すと、そこには大小様々な岩がゴロゴロ転がっていた。
尾崎は
「皆!大丈夫か?」
と周りに呼びかけた。すると数人がやっとの事で返事した。
米軍兵のカプライはどこかに強くぶつけたらしく頭から血を流していた。
しかし意識はっきりしていた。
ゴードン大佐も他のミュータント兵や米軍達もようやく意識を取り戻し立ち上がった。
尾崎が大声で
「リーン!」
と呼びかけた。するとゴロゴロ転がっている岩のわずかな隙間から
「ここよ……」
と小さな声が聞こえた。
尾崎やゴードン大佐、米軍兵達はその声がする岩の隙間に集まり、全員協力して、
落ちてきた大小の岩を注意深く退かし始めた。その間FBI捜査官の男性は大
小の岩の隙間で、赤茶色に錆付いた机から白いファイルを見つけた。
彼はそれを周りの岩を崩さないように慎重にゆっくりと取り出し、土と錆の破片
を払いのけ、中の文章を読み始めた。

(第42章に続く)