(第45章)行き場の無い感情……新たな強敵!!

(第45章)行き場の無い感情……新たな強敵!!

混乱して動きが止まったケーニッヒの隙を狙い、
ようやく動ける様になったゴジラは立ち上がりざまケーニッヒの
腹にパンチを食らわせた。
ケーニッヒがひざをついて倒れた途端、脳裏に自分が今までした事が
頭の中を走馬灯のように駆け巡った。
今まで自分がした事を生まれて初めて後悔した。
それでも苦しみは止まらず、ケーニッヒはもがき苦しみ、
頭部や全身から激しく噴水の様に血が吹き出した。

美雪の意識は頭部と全身が焼ける様な痛みを必死にこらえながら
「さっきの走馬灯の様な映像は何なの??」
小美人は
「感情を受け入れようとして身体がアレルギーの様に反応して
います!しかし!本能がそれを許していません!」
その時、美雪の脳裏に再び、不特定多数の一般市民の理不尽なクレームの嵐が聞こえ始めた。
美雪はあわてて両耳を塞いだがそれでも頭に反響するように聞こえ続けた。
美雪はその場に座り込み大声で
「やめて!!何で!!お願いやめて!!」
と何度も何度も絶叫した。しかし隣にいた小美人は凛とした声で
「現実から目を背けないでください!!彼も戦っています!過去の古傷と!!」
と苦しみ悶えながらも懸命に立ち上がろうとするケーニッヒの姿を指さした。
美雪の痛みや苦しみとケーニッヒの痛みや苦しみはお互い感じ合い、心の深い傷は共鳴していった。
さらに美雪の脳裏には理不尽なクレームの嵐や小中高学校にあった同じクラスのいじめや嫌がらせ、
また数々の悲劇を生んだ社会や大人に対する激しい憎しみと不信感、
何よりいじめに遭った時の痛みや苦しみを分かってくれない両親や教師に対する言い表せ
ないほどの憎悪の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
美雪はその事を思い出し、リストカットを試みた事や激しい憎悪を毎日の様にぶ
つけていた自分に対する後悔の嵐が同時に胸の中にどっと襲いかかった。
それは今までそれを忘れたいたが為に、無意識の内に心の奥底に封印していた
忌わしい記憶がここで鮮明に蘇った瞬間だった。
そして美雪の意識はその忌まわしい記憶にもう一度、
向き合い、ケーニッヒと同じ様に懸命に生き残る為に立ち上がろうとした。
するとケーニッヒもその美雪の意識に応える様に苦しみながら
も傷だらけのまま立ち上がり、
「己は刹那……に向かって……止まれ!!お前はあまりにも美しいから!!
と叫びたい!!……己のこの世に残す痕は劫を歴ても滅びはすまい!!
そう云う大きい幸福を予想して!……今!!己は最高の刹那を味わうのだあああぁぁっ!!」
その激しい絶叫に共鳴して美雪もたまらず絶叫した。
2人の声が響き渡った。
傷だらけでその場を動けないゴジラやミニラは、
戦いの最中に突然ケーニッヒが苦しみ悶え倒れた様子を見て、
驚きと混乱でその様子を呆然と眺めていたが、
やがてゴジラとミニラはケーニッヒの痛みや苦しみを感じた様に悲しげに吠え始めた。
モスラは美雪の意識もケーニッヒと同じ様に痛みや苦みを感じている事を悟った。
しかしモスラは静かにその様子を見守る様に瓦礫の上でじっとしていた。

真鶴の仮設研究所で謎の男は
「これは申し遅れました!私は金田トオルです!それで先程話した最大の謎につ
いてですが!あくまでも僕の仮説に過ぎませんが……もしかしたら『ギドラ族』
は何らかの原因によって……例えば宇宙人に生物兵器として利用されて数が激減
したので……人間に変身したとか?原因はいくらでも考えられますが?
あなた達はどう考えるでしょうか?」
すると杏奈は激しく取り乱した様に
「そんな事いくら考えたって!!全く分からないわ!何で彼がX星人じゃなくて
怪獣だなんて??そんな空想みたいな話が本当にあるんですか??」
すると神宮寺博士が
「杏奈さん落ち着いてください!!」
杏奈はさらに大声で「こんな事を言われて落ち着いていられません!!だって!!怪獣と人間は……」
そこにトオル
「それは本当にあり得ない事でしょうか?」
杏奈は
「それはどう言う事ですか??」
トオル
「我々人類を初め他の動物達は、この地球の環境に適した生態系として存在できたからこそ、
太古の昔から現在に至るまで種を存続させる事が出来ました!
しかし環境の変化に適応できないか、あるいは人間によって根絶やし
になるまで狩られればその種は滅びてしまいます!
これまで知られたギドラ族の姿も、宇宙を渡り歩く生き物のありかたの氷山の一角に過ぎません!
もしかしたら人間と同等の知能を持っているものもあるかも知れません。
宇宙には我々がまだ知らない生物がいるかも知れませんよ!
ギドラ族もよく考えればまだ謎の多い生物です!
これからケーニッヒギドラについて調べれば、
もっとすごい発見があるかも知れません!
認めたくないことを頭から頑なに否定するのは凄く簡単で手っ取り早い方法です!
しかしケーニッヒギドラを長い期間調べた末に未知の現象を見つけられたら!
それまで安易に判断を下さないのが真に科学的な態度というものです!」
杏奈は無言でその熱意のこもったトオルの説明を聞いていた。

東京の廃墟の上空を飛行する新轟天号でジェレルは
「一体?ケーニッヒギドラの身に何が……」
と言った。
アヤノは
「現在!地下鉄を通っていたマグマ状の物体は行き止まりにぶつかりました!
もうすぐで怪獣達のいる地上へ噴き出します!
また火砕流も間も無く怪獣達にぶつかります!」
と言った。
その時、尾崎が少し混乱した様に
「まただ!またファウストの台詞だ!それに美雪の声も……」
と言ったが、尾崎以外の乗組員にはそれらしき声は聞こえていない様だった。
ニックは心配そうに
「どうしたんだ……」
と言った。
グレンも
「心配するな!美雪は大丈夫さ!」
と励ますように言った。
尾崎は無言となり、考え込んでしまった。

ミサイル基地から突然発生した火砕流は時速100kmのスピードで
次々と建物をなぎ倒しながら4体の怪獣達に襲いかかった。
ゴジラは高温のマグマからミ二ラを守ろうと強く抱きしめた。ケーニッヒも両手を組み、
その火砕流から自分を守った。
モスラはフラフラと飛ぶがたちまち火砕流に巻き込まれ、
そのまま4体の怪獣は物凄いスピードでたちまち押し流された。
美雪の意識も高温の熱を感じ、痛みで悲鳴を上げた。
真鶴の病院では美雪の身体中に強い痙攣が起こり、心臓が停止した。
医師や看護婦達があわてて電気ショックを何度も行った末、ようやく心臓は回復し、容体が安定した。
地下鉄のトンネルでは、マグマ状の物体は、
ケーニッヒとゴジラの戦いにより崩れた瓦礫の山の壁にぶつかり、
その崩れた天井の下にマグマ溜まりが出来始めていた。
やがて火砕流が収まった後、激しい地震と共に
地下鉄の穴がオレンジと赤色に発光し、物凄い爆音と共に
ドロドロに溶けたオレンジと暁色が入り混じった真っ赤なマグマが巨大な噴水の様に
「ビューッ!!」
と勢い良く噴き出した。
火砕流に押し流された4体の怪獣はフラフラと立ち上がった途端、
今度はさらなる爆風で再び倒れた。
マグマは竜の形に変化を始めた。
ゴジラとケーニッヒは驚いてその様子を見ていた。
小美人が
「来るわ……」
とつぶやいた。

(第46章に続く)