(第37章)希望の灯

(第37章)希望の灯

ゴードン大佐は
「やっぱりな……だったらその緑色の本体を破壊すれば!
手足として動いている赤いデストロイアを死滅させられる!
しかし奴は急激な進化を続けている……どうすればいいんだ!!」
するとアヤノも
「……火器攻撃も冷凍攻撃も効かないのに……どうすれば!」
さらに健太郎
「またデストロイアは予想を上回るスピードでアメリカやヨーロッパ、
アフリカを中心に急激に拡大し!特に南米の地球防衛軍本部はほぼ壊滅状態に追い込まれています!
また世界中に
『超高低温Gメ―サー耐性微小デストロイア』が蔓延しています!」
カンナは
「そんな……超高温や低温それに薬剤はおろかGメ―サーまで克服しているなんて……」
尾崎は
「まずいな!圧倒的に不利だ!」
ニックが
「万事休すだな……」
ジェレルが
「すでにデストロイアによって新轟天号内部の30%が破壊されています!
マズイぞ!新轟天号内のドッグに向かってその微小デストロイア
集合体のデストロイアが進行中です!」
ゴードン大佐は
「何??」
と大声を上げた。友紀や山岸、美雪の姉の杏奈達がいるGメ-サー治療室前の、
隔離廊下の途中を右に曲がった所に、小児科専用の隔離廊下があった。
そこには0歳から10歳までの小児患者が大勢隔離されていた。
Gメ―サー治療室前の隔離廊下とは全く正反対で、
この小児科専用治療室前の隔離廊下にいる子供達は不気味な程静かで、
小児患者はただ無言のまま、目に見えず、何か分からない不安と
極限の恐怖に全員怯えきっていて、誰もがキョロキョロ落ち着き無く周りを見渡していた。
その張りつめた様な重く息苦しい空気が漂う中、突然1人の子供が
「お姉ちゃんどこ?」
さらに別の方から小さい声で
「お兄ちゃんどこ?」
と通り過ぎて行く看護婦や医師に向かって必死に尋ねた。
しかし看護婦や医師は治療で忙しく、その質問に答えた者はほとんどいなかった。
「ママはどこ?パパはどこ?」
と何度も質問を続ける子供達も大勢いた。
看護婦や医師は隣のGメ―サー治療室であった惨劇を思い出し、言葉を詰まらせ涙を流した。
そんな緊張感の中、一人の10歳くらいの年の男の子がある出来事を思い出していた。
以下のような話で、誰かから聞いたことだった。
それは微小デストロイアに感染した患者が初めて緊急の外来で運ばれた時の事である。
友紀のお見舞いをした美雪と凛が、M機関に移動する為に友紀の病室を出た時、
ふと隣の病室のドアの前で一人の子供が泣いていた。
凛はその子供の所に歩いて行くと
「どうしたの?ママとパパは?」
と話しかけた。子供はしゃくりあげながら
「分からない……どうなったのか?突然……」
凛が少し困り、母親の美雪に助け船を出してもらおうと歩きだした瞬間、
男の子は爪が食い込む程の力で凛の腕を掴み泣き喚きながら
「お願い!行かないで!ママとパパみたいに置いていかないで!」
と必死に訴えた。凛は痛みと悲しみをこらえながら男の子の方にゆっくりと振り向くと、
ポケットからハンカチを取り出し、
優しく男の子の涙をそっと拭いてあげた。
それから男の子の両肩に手を置き、優しくしかし真剣なまなざしで
「大丈夫……ゴジラ達が付いているわ!強く生きなさい!」
と言った。
男の子は無言でうなずいた。
凛はそのままゆっくりと踵を返し、自然な金髪の髪とスカートをなびかせながら、
そのまま力強く地面を踏みしめ、歩き去った。
その様子を見た男の子は元気をもらったかの様に少し明るい笑顔を見せた。
急にいなくなった凛を探して母親と護衛は病棟を少し歩いていたが、
やがて美雪は凛の姿を見つけると
「ちょっとどこに行っていたの……」
と怒った様に言い掛けたが凛の真剣な顔を見て無言となった。
その真剣な顔や立ち姿はまさに父親の覇王圭介の面影と重なった。

それからその男の子は凛の強い励ましの言葉に勇気付けられ、
両親の帰りを信じて小児科専用Gメ―サー治療室のベッドで、
凛の言う通り強く生きようと、体内に巣食う微小デストロイアと闘い続けた。
この出来事を男の子は他の看護婦や医師達に自慢げに話して聞かせ、
その男の子の話は、その場で聞いた看護婦や医師達から
口伝えで杏奈や山岸や友紀が隔離されているGメ―サー治療室にも伝わり、
極限の死の恐怖の中、絶望しかけた大勢の患者に
かすかな希望の光を灯したのだった。

(第38章に続く)