(第53章)接触

(第53章)接触

デスギドラはさらに
「『生命』とは肉体に備わるだけでは無いだろう?どんなに捨てようとしても
『生命』を捨て去る事は実は不可能なのだよ!『死』も同じだ!
つまり『生命』が形を変えたのが『死』であり!『生命』と『死』は同一なのだ!
人間達を見よ!彼らはいくら死んでもまた生まれ出てくる!」
ケーニッヒは
「では人の心とは何だ!」
デスギドラは
「無意味なものだ!」
ケーニッヒは
「『人の心』こそ『生命』そのものではないか?」
と冷静に言い返した。
美雪の意識は瓦礫の山の隙間でその『生と死』
のやり取りを聞きながらとても驚いていた。
「そんな……論理を戦いながら続けるって?
本当に怪獣って何なのか分からなくなってきたわ……
それに私の体に宿っていた意識って?まさかケーニッヒのお母さんなの?」
と辛うじて言う事が出来た。
それでもこの一言で限界である。
まだ恐怖と絶望が心に残ってはいたが、
美雪は次第にその3体の怪獣の会話に興味を持ち始めていた。
それは人間の女性だからか?
分子生物学者だからか?理由は彼女には今のところ分からなかった。

すすり泣き始めた浩子に向かって、保護派の中條信一の弟、
中條信二は
「もう!ゴジラモスラを目の敵にするのはやめましょうよ!」
と訴えた。
しかし浩子は
「ウルサイ!あなたに父を失った悲しみがわかるもんですか!」
と反論した。
別の場所でも他の抹殺派の母親と保護派の子供の激しい論争が続いていた。
やがてその子供はとうとう泣きながら
「大人達の分からず屋!」
と言った。
一部の抹殺派の人々が驚いた様子で母親と子供に注目した。
母親は息子の言い方に腹が立ち、怒りをこらえるのに必死な様子だった。
するとその子供は
「どうして!僕が飼っている黒ラブは可愛がるのに怪獣はいじめるの?
同じ動物なのに……どうして戦争するの?」
と泣きじゃぐりながら言った。
その母親はとまどった様子でその言葉を聞いていた。
母親の次の言葉が出て来る間も浩子と新二の会話は続いていた。
「私もその記事を読みました。2002年5月17日ですよね……」
と優しく静かに言った。浩子は涙をこらえながら頷いた。
信二は
「あなたがゴジラを激しく憎悪する気持ちは痛い程、良く分かります!
でも!憎悪に憎悪を重ねるだけでは亡くなった貴方の
父親や他の大勢の人々も浮かばれないのでは?」
浩子はとうとうこらえきれず泣き崩れた。

ケーニッヒギドラの冷静な質問を聞いたデスギドラは
「心か。否定はしない!しかし本能のみで生きる生物達の事はどう考える?」
ケーニッヒは
「それは・・・」
ゴジラ
「本能そのものが生命だ!」
とデスギドラの質問に答えながらも、3体の怪獣はデスギドラ
の隙を狙って攻撃されない様に油断無く身構えていた。
デスギドラは
「フッ!『生命』も『死』も『見えない力』なのだから、
いくらでも解釈が出来るのだ!
『失えば二度と帰って来ない』と言うのも、
自分の肉体は二度と帰ってこないと言う意味にすぎない!
しかし貴様が言った様に『生命』が心なら、肉体が死んで
もそれは『生命』を失った事にならない!そうだろう?
見えないからな。
『本能』も同じだ。それにしても肉体など幾らでも
生まれてくる!生も死も同じだと貴様も言っていることになる」
と主張した。
モニターでデスギドラの圧倒的な強さをまざまざと見せつけら
れ、轟天号の乗組員全員は驚きと戦慄を隠せなかった。
ジェレルは
「そんな……ゴジラやケーニッヒギドラさえも押し退けるなんて……このままじゃ!」
カンナはあわてて
「このままじゃ!ミニラが殺される……早く何とかしなきゃ!」
ニックは
「でも!小美人が多分テレパシーで聞いた話だと!あいつは通常の武器で殺せないらしいな!」
グレンは
「でも!3体の力を借りれば!」
ニックは
「無理だろ!さっきまでモスラゴジラと激しい戦いをしたばかりだぞ!
拡声器で『協力して戦ってくれ!』なんて都合のいい言葉を『はい!そうですか』と耳貸すような怪獣達だと思うか?」
と言った。確かにニックの意見はもっともである。
艦長のダグラスゴードン大佐は波川指令と連絡を取っていた。
デスギドラはケーニッヒの方を見ると
「それに貴様!あの家畜の女と2回も接触したな!」
ケーニッヒは
「何の事だ!」
と言い返した。
デスギドラは答えず、火砕流撃弾を3つの首から一斉に放ち、
ケーニッヒを容赦無く吹き飛ばした。
デスギドラは
「お前の、あらゆる攻撃をはじき返す強力なバリアを使っても、
俺の眼はごまかせんぞ!」
怒りの唸り声を上げた。

(第54章に続く)