(第43章)暗闇の中の英雄

(第43章)暗闇の中の英雄

美雪は動揺した様に
「どうしてって?芹澤大助博士の因縁を……」
凛は
「聞いたことがある名前だけど……因縁ってなんだっけ?」
と返した。美雪は
「覚えていないの?」
凛は病室の天井の蛍光灯を見ながら
「なんとなく覚えているけど……でも詳しくは覚えていないわ……」
と答えるとさらに
「どうしてここにいるの?」
と聞いた。
美雪は
「大丈夫!ちょっと怪我をしただけだから!」
と言った。凛は
「そう……」
と言った。
地球防衛軍本部の特殊生物病院の個室ベッドに寝ていた凛がふと耳を澄ますと、
ジングルベルの曲が流れていた。
凛は
「ひょっとしてもうクリスマス?」
美雪は無言で頷いた。
凛は
「テレビが見たい……」
美雪はリモコンでテレビを付けた。
テレビではデストロイアに破壊されたアメリカのワシントンの映像が流れていた。
日東アナウンサーの音無杏奈は
デストロイアの破壊により多くの人々が死亡しました!
地球防衛軍アメリカ本部前からの中継です!」
場面が変わり、別のテレビレポーターが
「こちらは地球防衛軍アメリカ本部前です!現在!本部は跡形も無く液化してしまい!
原形を留めていません!多くの米軍の軍事システムがマヒ状態だと
アメリカ大統領が声明を発表しました!」
と報道していた。再び場面が変わった。大統領は広場に立って国民に
「赤い悪魔により亡くなった人々を哀悼の意を示します!
あの赤い悪魔はどこから来たのでしょうか?あの赤い悪魔は我々人類に課せられた試練であり!
乗り越えるべき存在だと兵士たちは信じていました!彼らは英雄としてアメリカ!
全世界の人々の胸に深く刻まれるでしょう!」
と演説をしていた。
美雪は
「あの人達は知らないわ……」
凛は
「何を?」
美雪は
「本当の英雄はあなたの前世の芹澤大助博士だと……」
と言った。
凛は興味深々な顔で
「どうして?」
と尋ねた。
しかし美雪は少し笑うだけで何も答えなかった。
「静かにしなさい……デストロイアと戦って疲れきっている患者がいるんだから」
そしてテレビ画面のニュースに視線を戻した。
「我々は地球防衛軍やCCIのおかげで赤い悪魔を倒すことが出来ました!
この危機を乗り越えられたと言う事はゴジラを退治する自信が付いたのではないでしょうか?
我々にはゴジラに近い生物を倒した経験があります!」
大統領の演説を聞き、美雪は怒った様子でテレビを消した。
その美雪の様子を見ていた娘の凛は
「どうしたの?」
美雪は我に返り
「なんでも無いの……御免……見ていたのね……また……」
と言い掛けたが
凛は
「……いいの」
と答えた。
美雪はほっとした様子で凛の顔を見た。「特殊生物病院」のある病室で、
山岸はうっすらとベッドの上で目が覚めた。
「ここは……どこ?」
別の病室で友紀も目を覚ましていた。
友紀は
「あたし……生きているの?」
とつぶやいた。
やがて2人に『生きている』実感がじわじわと
心に浸透して行き、目頭が熱くなり、喜びの涙を流した。
凛の個室では、備え付けられている白いテーブルの上に小美人が現れた。

(第44章に続く)