(第46章)優香以外の被害者

(第46章)優香以外の被害者

美雪は心の底で、思い出したく無い過去を振り返りながら
「どうして薄物のガウン一枚で、凍り付く海に飛び込む気になれたんだろう?」
と考え事が止められなかった。
その時CCIの職員の一人が
「着きましたよ!早くして下さい!予定より一時間も遅れているんです!」
とせかす声が聞こえた。彼女にとってその言葉は救いとなった。
彼女は
「御免なさい……」
と言うとあわててエレベーターから出て、仲間の調査グループ
と共に、地下に案内された。そしてデストロイアに襲われた大学生に話を聞いた。
すると大学生は
「あれは……いつだったかしら?いつもの様に銀座の街で遊んでいて、
友人の所に泊まりに行く途中……マンションの所で緑色の服を着た人影を見たの……
それで誰だろうって……思って近づいたら……人間じゃなかったの!
緑色のカニの様な化け物よ!その化け物は……長い尻尾で……上に乗っかって来たの!
お腹に熱い痛みがあって!それでそのあと化け物は姿を消したの!
しばらくして起き上がってお腹を見たら……」
そこで両手で頭を抱え、あの時の恐怖を思い出し、
ついには完全に黙り込んでしまった。
その後彼女は地元の病院に搬送され、病院から緊急連絡を受けた
CCIの関係者が彼女と生まれた子供をここへ運んだという事だった。
別の高校生の女性も、やはり最初は人影に見えて、近づいた途端襲われたと証言した。
17歳の高校生も一緒で、腹に熱い痛みを感じた後に腹が膨らみ始めたと、
その時の状況はもちろん一致した。
緑色の本体のデストロイアは人間に擬態して街中に潜んでいたのでは無いかと推測された。
美雪と神宮寺博士はその2人の女性から生まれた子供を見せて
欲しいと頼んだが、CCIの関係者は
「残念ながら……その子供は死産しました!」
と言った。神宮寺博士は
「それじゃ?」
CCIの関係者は
「はい!死体は現在!さらに地下の極秘施設にあります!
現在は調査中で残念ですが!遺体を見せることは出来ません!
ここまでしか我々は協力する事は出来ません!」
と言った。
CCIの研究所から帰る途中、施設の公園らしき所で2歳位の3姉妹が遊んでいた。
美雪はその様子をしばらく眺めていたが、
やがて車に乗り込み、研究所を後にした。
その3つ子は車に乗る美雪の姿を不思議な顔で見ていた。
長女は微笑しながら
「どこかで会った気がしない?」
次女
「なんでだろう?ゴジラと一緒だったような気がするね!」
三女
「分からないね!」
と美雪についてあれこれ話している内に2人の母親らしき声がした。
「のぞみ!かなえ!たまえ!もう帰りましょ!」
すると3姉妹は
「はーい!」
と元気良く返すと研究所の方へ走って行った。
デストロイア被害調査グループ』の面々は国連の車に乗って真鶴の空港に向かっていた。
途中、ふと尾崎は隣に座っていた。
美雪に
「ねえ……何となく思ったんだけど……
もしかしたら狼男や半獣人のケンタウロスは、
ただの空想の話じゃなくて本当にいるとしたら?どうする?」
美雪は尾崎の顔を見て呆れていたが
「それじゃ何?人魚姫や半魚人も吸血鬼も実在していたとか?」
尾崎は
「凛ちゃんやデストロイアの子供を見て以来……
良くそういう考えが思い浮かぶんだ!」
と言いながら椅子に座り直した。
美雪は
「そうすると八大竜王とか四海竜王の伝承も実は事実に基づいて書かれている訳ね。
バガンにも関係するけど……キトラ古墳では、四方の四神が書かれた壁の下に
3体獣人の顔があるって凛から聞いたわ!
ヨーロッパ地方ではドラゴンメイドって言う半分人間のドラゴンの話や、
ドラゴンに変化した女性の伝説があるみたいだし……半蛇半人で
ドラゴンの翼があるメリュジーヌの伝説も聞いたことがあるわ!」
尾崎は
「龍の子太郎は?」
美雪も
「確か……聞いたことがある様な気がするけど……今度調べてみる!」
と答えた。
神宮寺博士は、偶然スーパーの監視カメラが捉えた、
人間に擬態したデストロイアの写真を見せた。
8本のカニ足を綺麗に折りたたみ、翼で足元と顔半分を隠し、
少し太い2本足で地面に立ち、長い尻尾をベルト代りにして、
いかにも緑色のフードを被った怪しい男に変装している様子が何枚も映されていた。
デストロイア被害調査グループ』は真鶴の空港から雪ちらつく東京へ帰って行った。

冬が終わり、黄緑色の雪が溶けて、温かくなった。
今年の3月の桜の花弁はピンク色では無く、デストロイアの血の色をしていた。
凛が病院を退院してからしばらくしてようやく高校は再開され、
また友紀も山岸も無事退院して高校に通えるまでに回復していた。
しかし友紀はデストロイアの襲われた影響でエビやカニ等の甲殻類がまるで食べられ無くなっていた。

(第47章に続く)