(第58章)特別な液体

(第58章)特別な液体

病院に着くと、すぐに医療スタッフやトオルが集まった。
看護婦は
「輸血用の血液が足りないんです!」
覇王は
「輸血とは何だ?ファウストに登場した
悪魔のメフィストフェレスが言っていた『特別な液体』の事か?」」
ゴードン大佐は
「そうだ!彼女の血が足りないんだ!血液型の合うのはお前だけだ!」
覇王は
「つまり?俺の血を?」
ゴードン大佐やトオルは頷いた。覇王は
「少し考えさせてくれ!」
しかしトオル
「でも!時間がないんです!早く処置をしないと手遅れになります!」
しかし覇王は廊下を行ったり来たりしながら考えた。
(仮に血液型が同じでOKだったとしても俺の血は人間とは違う!
苦し紛れに暴れ出すかも知れ無い!でもほっておけば彼女は……)
尾崎は
「しかし!彼の血は人間とは違う!」
ゴードン大佐はそれには答えず、覇王に向かって大声で
「何を迷っている!今のあいつにはお前が必要なんだ!」
覇王はしばらくして決断した。
「分かった……懸けてみよう!血はどれくらいあれば助かるんだ?」
と言った。医師は
「かなりの量が必要です!すぐに輸血の準備を!」
というと医師達は慌ただしく戻った。
そして覇王の血液はすぐに輸血された。
真鶴の病院にある集中治療室の外の椅子では杏奈が
悔しそうにゴードン大佐の事を思い出し、泣いていた。
尾崎が
「何を一人で泣いているの?」
と聞いた。杏奈が
「なんでも無いわ!」
というと
あわててカバンからハンカチを取り出し涙を拭いた。
尾崎が
「ゴードン大佐の事なら……もう別れたんだろ?」
と言った時、杏奈は突然、悔しさの余り尾崎の胸に抱き付き泣き始めた。
尾崎は自分が酷い事を言ったと思いあわてて
「御免!」
と謝った。
しかし杏奈は
「いいの……」
と言うとそのまま声がかれるまで泣き続けた。
尾崎はどう慰めてやればいいのか分からず杏奈の髪を優しく撫でた。

地球防衛軍の一室では女性FBI捜査官が
分子生物学者の音無美雪さんは地球防衛軍のミュータント兵により、無事救出された。
しかしその際にサラジアのテロ組織に撃たれ、意識不明の重体になった。
やがて意識を取り戻したがしばらくは軽い失語症不眠症になやんだ。
根気良くカウセリングや精神安定剤の治療を行い徐々に体調や精神は回復に向かっている。
また怪獣による火山活動の影響により東京は壊滅状態になり、
3体のゴジラは海へ去ったが、ケーニッヒギドラは再び我々の前からその姿を消し、
その後の行方は不明である。

また地球防衛軍の覇王圭介に関して、彼の正体があのケーニッヒギドラだと言う
複数の証言があったが、その先は国連の極秘情報扱いになり、
ケーニッヒと覇王の関連は極めて曖昧なままである。

彼の体内からM塩基とは異なる未知の塩基が見つかったとされるがそれも極秘情報扱いになっている。
その為、調査はここで暗礁に乗り上げた。彼は地球防衛軍を辞めるようである。
CCIが強行したインファント島攻撃作戦も必要があったのか?
日本やロリシカ政府は固く口を閉ざし、真相は曖昧のままである。

一説にはCCIの局長で内閣官房副長官の野中元が怪獣に
対する積年の恨みを晴らす為に数年前から日本やロリシカ共和国の複数の国会議員に対して
多額の賄賂や激しい恐喝を行い、日本国憲法の第9条があるのにも関らず
「自分が提案した法案をロリシカ共和国のトップや
内閣総理大臣防衛庁長官を通して強引に可決させるよう指示した」
とされる。しかし怪獣が起こした火山活動に巻き込まれて本人と共に詳しい真相は闇に葬られた。以上」
と書き終えるとワシントンのFBI本部にメールで送信した。

数日後、インファント島では小美人のモスラの歌が聞こえていた。
洞窟の祭壇には巨大な卵が置かれていた。どうやらインファント島攻撃前にモスラが産んだものだ。
インファント島に住む長老を始め先住民族達は全員モスラの卵に祈りを捧げていた。
卵にヒビが入り始め、次々と割れて行った。
中から産声を上げながらモスラの幼虫が誕生した。
その様子は全国テレビで放映されて大反響を呼んだ。子供達も大喜びだった。
かつての抹殺派の人々が
「嬉しいです!」
とインタビューに答えていたが、やはり一部では怪獣を
敵視する人達も根強くあり、モスラの幼虫の誕生に
「また町を壊されるのでは?」
と懸念する声もあった。新しい命の誕生を素直に喜びながらも、
心の傷は完全に癒えた訳では無いので、ゴジラモスラ、ミニラ、ケーニッヒに
人類を救われたとしても、怪獣達の心を完全に許していない人々もいた。

(第59章に続く)