(第14章)Y染色体アダムとミトコンドリア・イヴ

(第14章)Y染色体アダムとミトコンドリア・イヴ

 山岸は自宅のパソコンで「保怪獣者」について調べていたが、
情報通の山岸でさえも完全にお手上げの状態だった。
 実際、「保怪獣者」が身近に2人もいながらである。
しかもその中の一人が彼の恋人である事も全く知らずに。
 山岸はしばらくヤフーで検索を続けていたがとうとうあきらめ、
パソコンをシャットダウンして机に両手を付き物思いに耽り始めた。
 最初に山岸が思い出したのは、高校の修学旅行で
北海道の網走のオホーツク海の流氷を見ようと観光用の船に乗った時、
海から突如現れた怪獣に襲われたことだった。
数名の凛のクラスメイトが怪我をしたので、
網走厚生病院に全員入院となり、さらに悪い事にロシアのテロリストグループが
ゴジラ細胞を利用したウィルスをばら撒く」
と脅して凛のクラスが入院している病棟に堂々と立て籠った。
 まだ記憶に新しく真冬の生々しい
「北海道網走厚生病院立て篭もり事件」である。
 次に山岸が思い出したのは、修学旅行の前の夏の日に
「TAGRAT社」の社員と名乗る中国のテロリスト集団が彼の自
宅に押し入り、恋人の凛を連れ去ったいわゆる
「音無凛拉致事件」である。
 山岸はその出来事を懐かしそうに思い出しながら
「まさか?自分の家に覆面のテロリスト達が来るとは思わなかったな……
ただ……一つ疑問なのが……どうして?あの人達は凛ちゃんを誘拐したんだろう?」
 実際、山岸は彼女が誘拐されてからしばらく
テレビのニュースを見ていたが、犯人の要求は一切無かった。
テレビのニュースで国際警察とテロリストの交渉を録画した取材テープが公開されていた。
テロリスト達は国際警察に対して「身代金の要求は無い!」
その衝撃の一言に国際警察の刑事の一人は
「どうして?」
と尋ねるとテロリストのリーダらしき中国人の女性が
「何故なら!すぐに我々は億万長者になれるからだ!」と。
 それから凛は国際警察やアメリカのCIA、FBI
地球防衛軍の尾崎達の活躍によって無事怪我も無く救出された。
しかしこの凛の誘拐事件が無事解決してから現在でも、
テロリスト達の本当の目的は世間では不明のままである。
「北海道網走厚生病院立て篭もり事件」
のロシア人のテロリスト達も同様である。
山岸は
「確か凛ちゃんを誘拐した中国人のテロリスト達も、
北海道網走厚生病院に僕達を人質にして立て籠ったロシア人の
テロリスト達も、何故か凛ちゃんや蓮君の事も知っていた?
だとしたら一体?あの2人にどんな秘密があるんだろう……」
としばらく考え込んだ。
しかしいくら考えても何も思い浮かばないので
とりあえず蓮と凛の秘密について考えるのはあきらめ、
パソコンのあるデスクの椅子から立ち上がり、
再びテレビの前の椅子に戻ると『ゴジラ』のDVDの続きを一時停止から再生した。

 小笠原怪獣ランドの『アルカドラン』の研究所内の部屋。
 マークは遺伝子操作で改良したジラをどうやって
生物兵器に利用するのかについてと先程の
ジラの視力検査で完全に盲目だった事について美雪に話していた。
 彼女は驚きと悲しみの入り混じった心痛な顔でマークの目を見た。
 マークもその悲しみに満ちた視線に耐えかね、すぐに話題を変えた。
「知っているかい?今の地球人いや!全ての人類は母方の家系を辿ると、
約15~30万年前にアフリカ大陸に住んでいた一人の女性に辿り付くんだよ!」
美雪は少し笑いながら
「カリフォルニア大学出身のレベッカ・キャンと
アラン・ウィルソンのグループが、色々な民族から
147人のミトコンドリアDNAの塩基配列を解析して系統樹を作成したら、
全人類に共通する一人の女性がアフリカに存在していたって言う
ミトコンドリア・イヴ仮説』ね!」
マークは『ミトコンドリア・イヴ仮説』について興奮した口調で
「なあ!凄いと思わないか?あと6万年頃には
Y染色体アダム』と言うのもいてね!」
すかさず美雪はマークが言い終わるか終らない内に
「これもスタンフォード大学のピーター・アンダーヒルと……えーと?もう一人誰だっけ?」
と早口で答えた。
マークも興奮した口調で
「カヴァッリ・スフォルツァだよ!」
「そうだっけ?確か『ミトコンドリア・イヴ』
と同じような方法をY染色体で検討したら
ミトコンドリア・イヴ』とほぼ同じパターンが確認されていて……」
「つまりその『Y染色体アダム』は『ミトコンドリア・イヴ』
の夫である可能性が高いんだよ!」
「なんだかロマンチックね……」
「覇王君と君みたいに?」
美雪は思わず顔から耳まで真っ赤にして
「えっ?そんな事が……」
マークはそんな彼女の屈託の無い笑顔に暗い心を癒され、
至福の時を味わっていた。

「ピンポーン」と東京の2階建ての家のチャイムが鳴った。
「はい!はい!」
と慌てふためいて洋子が玄関に出た。
 玄関には若き女社長の山梨友紀が買い物袋を持って立っていた。
洋子は嬉しそうな声で
「まさか?友紀ちゃんが生まれて初めてデザインした
下着の発売予定日が決定したなんて……信じられないわ!」
と興奮した口調で話した。
友紀はとビールやワイン食べ物の入った買い物袋の一つを洋子に渡し
「凛ちゃんにも蓮君にも電話したよ!」
洋子はもう一つの買い物袋をリビングに運びながら
「来るの?」
友紀は少し笑いながら
「2人共あと5時間以内に仕事を片付けてから来るって!」
「山岸君は?」
「凛ちゃんと一緒に来るわよ!2人共、かなり忙しそうだったけど……大丈夫かな?」
と2人は不安に思いながらもパーティの準備を始めた。

(第15章に続く)

あと2章変更します。