(第16章)謎の海底洞窟

(第16章)謎の海底洞窟

 再び小笠原怪獣ランドの地下研究所『アルカドラン』。
 部屋の中に1人閉じ込められていた美雪は強い危機感の中、
なんとか尾崎達にこの状況を伝えようと考えた。
だが地下研究所故、完全にシャットダウンされていて、
脱出する事はおろかその情報を外部に漏らす事も出来なかった。
 美雪はふとあのジラのいた研究所で北村とローランドが資料をめくり、
何か英語で話していた事を思い出した。
「ジラの他、あの裏切り者のサンドラがゴジラ細胞を使って
大量に製造した数多くの生物兵器の内、
実用化の見込みがある生物兵器は僅か2体しか発見されなかった……」
「それは?」
「ひとつは北海道にいる野生のヒグマにゴジラ細胞を移植した『Gα』、
もう一つはドクハキコブラの一種のリンカルスに移植して作り出した『G堯戮澄」
「じゃ?ゴジラ細胞とギドラ細胞を移植して突然変異させた『Gβ』は?」
「駄目だ!首が8本ありおまけに毒を吐く危険な奴だ!
どう考えても我々の技術じゃ奴を制御出来ない!実用化は無理だ!」
それから美雪は再び我に返り、
「きっと……奴らはサンドラのデータを持っているんだわ!」
つまりジラの他にサンドラが製造した生物兵器の幾つかが実用化される可能性が高い。
 そう考えると、この小笠原怪獣ランドの地下に造られた
『アルカドラン』の目的が明らかに怪獣達を利用した
生物兵器の開発研究及び製造工場だとようやくはっきりと理解出来た。
 きっとマーク達はゴジラ細胞やG塩基を始め、
アカツキシソウやアオシソウの寄生生物を利用した新しい生物兵器を作り出し、
表の小笠原怪獣ランドの12体の怪獣達と同じように飼育研究をしているのだ。
それから実用化の目処がつけば、大量生産のラインを作り出して行く。
 この施設があれば『MWM社』製造の生物兵器を世界中や
もしかしたら宇宙の他の惑星に補給し続ける事が可能だろうと思った。
 だからこそここはあまりにも危険だし……ましてや
生物兵器禁止条約』や『化学兵器禁止条約』が発効されているこのご時世、
もちろんマーク達の怪獣達の研究は完全に違法行為である。
 どんな事情があるにせよ、神に等しい力を持つ
ゴジラ』の細胞を生物兵器として利用するのは言語道断。
 ただ……サンドラ達の様な考えを持った
過激なテロリストグループが怪獣達を兵器として使用した場合、
合法的に防衛策研究の為、どう使用されるのかの研究もしなければならない……
つまり「M塩基の研究と治療薬」「怪獣達の飼育による生態調査及び被害対策」と偽り、
違法な生物兵器を極秘に研究製造する事も可能だと言う訳である。
 だからこそ彼女はこの曖昧な境界線を悪用したマーク達の行為が許せなかった。
しばらく彼女はそのマークに対する恨みと怒りと極度の不安や焦りで精神が安定せず、
ベッドに寝転び脱出方法を考え続けていた。

 凛は不審な女とUFOの写真が撮られたと言う東京港区の倉庫へ車を走らせていた。
 彼女は車を運転しながら、酷く思いつめた表情である出来事を思い出していた。

 それは彼女が蓮の知らせを受けて東京港区の倉庫に向かう30分前。
 「小笠原諸島の海域で発生した『怪獣猟奇殺人事件』に関する報告書を書く為、
数人の国連関係者と話していると、携帯がズボンのポケットの中で鳴り始めたので、
彼女は
「失礼!ちょっと電話が……」
と言うとあわてて携帯を捜し、それから普段人が通らない休憩室で電話に出た。
「もしもし?……」
しかし返事は無い。
彼女はもう一度
「もしもし!」
と呼びかけたがまだ返事は無い……イタズラ電話かと思ったが、
念の為、もう一度
「もしもし!」
と呼びかけようとした、まさにその時、
切羽詰まった若い男の声が聞こえた。
「もしも……もしもし!凛ちゃん!よかった!」
その電話の主は凛の恋人の山岸雄介だった。
「実は俺は今……CCIの真鶴にいるんだ……」
「真鶴に?そんな所で何しているの?」
「今……見つかって……閉じ込められた……」
「誰に?どこに閉じ込められたの?」
「君の……本当の君が知りたくて……なんで君が……
中国やロシアのテロリストに狙われたのか?……うまく言えないけど……君が好きで……
君が知りたい……馬鹿な事をしたと反省しているよ!
御免……あいつらの狙いは……僕と君との子供らしい……理由は僕には全く分からない!
みんなあいつらに狙われている!洋子ちゃんも!蓮君も!友紀ちゃんも!」
とまではちゃんと聞きとれたのに急に何も聞こえ無くなり
「もしもし?」
と凛が何度も呼びかけてもそれっきり彼の返事は無かった。
 その事を思い出した彼女は再び我に返り、車のハンドルを右に回し、
高速道路の出口で通行料を支払った。
通行料を料金所の職員が計算している間、凛はバックミラーを見ると後ろに蓮の黒い車が見えた。

 一方、地球防衛軍本部のオペレーションルームでも新たな動きがあった。
 スピーシバック部隊の一人のジェレルが大きな地図をテーブルに広げると、
尾崎は黒い字で書かれた×印の小笠原諸島の青い海を指差し説明を始めた。
「ここが先程、ジラらしき巨大生物が目撃された場所!……それから」
と言い黒い×印から今度は近海に20個以上の赤い×印を指差しながら
「ここがCCIの海底調査によって発見された怪獣達の変死体があった場所だ!」
そこにゴードン上級大佐が咳払いをしながら
「実は……CCIの海底調査で怪獣の変死体と同時に巨大洞窟が発見されたようだ……」
ニックは興味駸々な表情で
「それは?どんな洞窟だ!」
ジェレルは、ほんの2年位前に行方不明になった
凛を捜して中国の遺跡の地下洞窟を探検した際に
危うく暁色のアメーバ状の化け物に殺されかけた事を思い出しながら
「また……真っ暗闇の洞窟か……」
とつぶやいた。
その時、隣にいたアヤノが
「どうしたの?」
と心配したので
彼は
「いや!なんでもないよ!」
と答えた。
 その間にもゴードン上級大佐は海底の衛星写真を取り出した。
 全員が海底の衛星写真を見ると心臓の右半分の大静脈の左心房と右心房を掛け合わせ、
そのまま肥大化させたかのような形の巨大な地底湖が広がっていた。
 さらにその大静脈の形をした地底湖の先に3つの巨大な洞窟が
父島と母島、伊豆・小笠原海溝に向かって伸びていた。
 またもう一つの大静脈の形をした洞窟は火山列島硫黄島に向かって伸びていた。
ジェレルは
「なんか……この心臓の形……聞いたことのある高校の友達の心臓に似ているな……」
ゴードン上級大佐は再び口を開き
「実はこの辺りで……あのCCIの海底調査船の暗視カメラがジラらしき巨大生物の姿を捉えている。」
「それで?そのジラらしき巨大生物は?」
とグレン。
ゴードン上級大佐は再び彼は地底湖の3つに分かれた巨大な洞窟の内、
小笠原海溝に向かって伸びている1本の洞窟の狭い2つ付き出た岩の隙間を指さし
「ここで姿を消した……」
と答えた。
「追跡出来なかったの?」
と杏子。
「ジラが消えた所は岩の隙間があまりにも狭く、
しかも潮の逆流が激しくて!それ以上先に全く進めなかったそうだ!」
ニックはジラが消えた狭い2つ付き出た岩の隙間を指さし
「この岩の隙間を通った海底洞窟の先はどうなっている?」
「まだ……良く分からないが……この先は恐らく……」
と言いゴードン上級大佐はジラが消えた洞窟の先をずっと指でなぞり始めた。
 全員が彼の指を見ていると伊豆・小笠原海溝を通り、
さらにずっと太平洋の北回帰線を通過し、ハワイ諸島を通過し、
そのままカリフォルニア半島も通過し、とうとう北アメリカ州に上陸し、
最終的にアパラチア山脈の辺りで止まった。
「長いな……」
とニック。
「という事は?奴はアパラチア山脈に向かって進んでいると言う事か?」
と腕を組み、グレンが答えた。

(第17章に続く)