(第8章)対峙

(第8章)対峙

 午前9時10分。
「ドックン!ドックン!」と大きな心臓音が海底の底から聞こえていた。
 または自分を求めて大戸島の海に潜った。何故か海に潜っても呼吸ができるらしく全く平気だった。
 しばらく海面を移動していると、よりも大きい同じ姿の怪獣が目に入った。
自分と同じゴジラと言う種族だった。
やっと仲間が見つかった。
 は交信しようと背びれを真っ白に発光させた。
 たまたま海底の岩の間を縫って泳いでいたゴジラは、2年前の人間の夫婦と同様、驚いた表情をした。
何故ならその恐竜は1954年の初代ゴジラと瓜二つだったからである。
 ゴジラは長く大きな黒い鱗と背びれに覆われた身体をくねらせ、
この初代ゴジラと瓜二つの怪獣が、
人間達が自分を引き寄せる為に仕掛けた罠では無いか疑い、考えたが、
どうやら違うらしいと判断した。
 ゴジラは海面に向かって移動しながら、オレンジ色の目で初代ゴジラらしき影をじっと見つめた。
それでもは健気にゴジラに話しかけるように何度も背びれをパチパチと真っ白に点滅させた。
 しかしゴジラはオレンジ色の目でを睨みつけると背びれを青く発光させた。
どうやら彼を怒らせてしまったらしいは酷くがっかりし、背びれを光らせるのを止めると、
Uターンしてすごすごと泳ぎ去った。
 ゴジラは初代ゴジラに瓜二つの怪獣が泳ぎ去るまで、背びれを青く光らせた。
しかし初代ゴジラがかなり遠くへ泳ぎ去ると、それから5時間、ゴジラは海底の岩の間でじっとしていた。
 
 大戸島の米軍基地のとある監視塔の中で、
黒い帽子と黒服に身を包んだ凛はバイオリンのケース
を冷たい床に置いた。そしてガチャッと鉤を開けた。
 この大戸島にある大戸島米軍基地は軍用の航空基地で、
また米軍の五軍の一つである合衆国海兵隊がこの基地に所属している。
しかもこの米軍基地は2004年にX星人の攻撃事件を受けてから、
アメリカの地球防衛軍の援助を受け、建設された。
それ故地元住民の反発も根強く、過去の普天間基地と同じ移設問題が最近、浮上しつつあった。

 凛はケースの中に入っていたドラグノフ狙撃銃を素早く的確に組み立てた。
そして開けっぱなしの窓からスコープを覗いた。
化学薬品工場らしき建物からエバート・ウィルソン上級大佐
と数人の若い米軍兵が出て来た。
 凛は冷静にウィルソン上級大佐の頭部に照準を合わせた。
「御免ね」
と引き金を引こうと親指に手を掛けた。心臓の鼓動が高まり、
周りの空気はピーンと張り詰めた。
 そして彼女の緊張がピークに達した時、「バアアアン!」
とドアが乱暴に開く音が聞こえた。緊張の糸が切れ、あわてて振り返った。
凜の周りを、拳銃を持った米軍兵10人が取り囲んでいた。
 凛は大きくため息をつき、ドラグノフ狙撃銃を潔く捨てた。
ここで派手に戦えばあとが面倒だと考えたからである。
10人の米軍兵の真ん中に不敵な笑みを浮かべた
アメリカの地球防衛軍上級大佐エバート・Fウィルソンと、米軍のオニール軍曹が立っていた。
凛は、不敵に笑うウィルソン上級大佐の顔を見た時思わずフッと笑みを洩らし、
「成程、全ては貴方達、アメリカの組織の仕業だったのね!」
「その通り、さあ、おとなしく我々に捕まるんだ。」
エバート・F・ウィルソン上級大佐
「君は若くてセクシーでいい身体つきをしている、金になるぞ!」
オニール軍曹はペロッと舌なめずりをし、凛に迫った。
それに対し、凛は僅かに笑って
「残念だけどそっちは先約があるのよ!」
と答えた。
「しかしどうやって逃げるつもりかね?」
エバート・F・ウィルソン上級大佐
「奴の衣服を脱がせろ!」
とオニール軍曹。
米兵二人が凜の上着を取り外しに掛かったとき、
上着の裏から小さな手榴弾に似たものがバラバラと床に落ちた。
凛は素早く、10個まとめてそれを蹴散らした。
 途端に辺りに真っ白な稲妻の閃光と強烈な不協和音がけたたましく響き渡った。
 しばらくして不協和音と稲妻の閃光が収まり、全員、辺りを見渡すと、
先程立っていた凛の姿はおろか、凶器のドラグノフ狙撃銃やバイオリンのケースまでもが消失していた。
 その後、ウィルソン上級大佐やオニール軍曹と10人の米軍兵は米軍基地内を懸命に捜索したが、
彼女は影も形も見当たらなかった。

 大戸島にあるモーテル風のホテル。
 10時10分。
「遅いよ、凛ちゃん何しているんだろう?」
「携帯は?」
「今やっているんだけど!全然、電話が全然つながらないんだ!」
とイライラと山岸は携帯で凛の電話番号を押していた。
「一体?娘に何が?」
と覇王は山岸のイライラした表情を見た。
 30分前。
 山岸がベッドから下着姿で起き上がると隣に寝ていたはずの凛の姿が忽然と消えていた。
あったのは彼女の下着だけだった。
 そして山岸は後で起きて来た真鍋、蓮、凛の実の父親の覇王
に居場所を尋ねても誰も知らなかった。
 しかしフロントの若い男性が、
バイオリンケースを持ってホテルを出て行くブロンドの髪の女性の姿を目撃していた。
それからずっと連絡しようと試みているが、一向に彼女の携帯は繋がらなかった。
 突然、誰かの携帯が鳴り始めた。
山岸は期待を込めてこう言った。
「もしかしたら凛ちゃんかも?」
「君の携帯じゃないか?」
と覇王は蓮が履いているジーンズのポケットを指さした。
蓮は彼に指を指されたポケットから携帯を取り出すと
「もしもし?凛か?」
と携帯に話しかけた。
しかしそれは凛では無く、見ず知らずの女性からだった。

(第9章に続く)