(第2楽章)ジルの復活祭のオラトリオ


(第2楽章)ジルの復活祭のオラトリオ
 
アメリカ・ニューヨークのマンハッタンにあるコンサートホール『カーネギホール』。
アレックスは自分が撃った弾丸を巧みな剣さばきでいとも簡単に全て弾き返す
高峰龍之介の姿に流石に驚き、目玉が飛び出る程、見開き、口をあんぐりと開けた。
続けていきなり龍之介は獣の咆哮を上げた。
「キシャアアアアアアアッ!」
彼の獣のような吠え声に観客席から小さな悲鳴が幾つも上がった。
父親のバリーと一緒に見ていたポリーは怖がって泣き出した。
それをナタリアとモイラが泣いているポリーをなだめた。
舞台では龍之介はいきなりむんずとアレックスの茶髪の頭部を掴んだ。
アレックスは龍之介の常人離れした手の握力の強さに驚き、
同時に頭が握りつぶされるかと思う程の握力のせいで
酷いガリバー(あたま)痛に襲われた。
更に再び龍之介は口をがばっと大きく開けた。
それを俺は地獄に通じる穴だと思った。
その時、ホッグス(神)の助けか?ジルが龍之介に向かって大声で言った。
「やめなさい!その悪党を逃がしてやるのよ!」
龍之介は開いた口を閉じ、水色にらんらんと輝く瞳でジルを見た。
するとジルは続けてこう言った。
「私は汝の母上にして!寄る辺の女神!私の命令は絶対よ!従いなさい!」
「母上の命令なら仕方がない!」
そういうと龍之介は恐ろしく素直にアレックスを放してやった。
アレックスはまだ残るガリバー痛(頭痛)に両手で抑えつつも
フラフラとした足取りで部下のピートとビリーに合図の口笛を送った。
するとビリーとピートはそれぞれ口を開き、苦し紛れに捨て台詞を吐いた。
「くそったれ!覚えてろよ!」とピート。
「くそっ!イカレ騎士め!」とビリー。
しかしアレックスは自分の命を助けてくれたジル・バレンタインの顔を
見ると彼の心の中で押し倒してその場でセックスしたい衝動に駆られたが
今すべきではないと判断し、おとなしく仲間を
連れて舞台の裏から走り去り、逃亡した。
そして舞台になったカーネギホールの非常口までホール内を3人で全力で
走っている間、アレックスはジルの黒味がかかった茶髪や青い瞳。
何よりむっちりと形が整った丸いおっぱいとおしり。
それらが頭の中から離れなかった。
それが頭の中を支配し、離れなかった。いつかヤリたい。そう、アレックスは思った。
一方、仲間の二人は高峰龍之介の事を「化け物」とか
「絶対!薬で頭がいかれて肉体も変になっちまっているんだ!」
とお互いヒソヒソと噂し合った。アレックスはそんな事はどうでもよかった。
あの女。ジルはあいつを従わせていた?
どうやって?まさか?悪魔とヤッたからなのか?女王様!
だったら!その巨大な力と権力はどうやって手に入れるんだ?
つまり?その女を徹底的にヤッて手に入れればいいのだろうか?
そんな事をアレックスは頭の中でぐるぐると考えていた。
 
一方、カーネギホールの舞台となったメインホール。
邪魔な悪党少年アレックス、ビリー、ピートを綺麗さっぱり追い払った後、
高峰龍之介は改めて鋼牙と向き合った。
そして龍之介はふふふっと不敵に笑って見せた。
続けて龍之介はその場で自ら身体を一回転させた。
その瞬間、全身が薔薇の花弁に包まれた。
やがて全身、覆いつくしていた赤い薔薇の花弁が消えた。
同時に高峰龍之介は魔獣ホラー・アグトゥルスに変身していた。
観客はその人間から鎧を着た騎士の姿に息を飲んだ。
そのホラーの姿はー。
頭部に鳥のような羽根を持ち、まるで鳥の仮面を被ったような顔をしていた。
全身は赤い鎧を纏い、まるで中世の高貴な騎士を思わせた。
背中からも真っ赤に輝く鳥の羽根が生えていた。
アグトゥルスは棘の付いた長剣を両手で構えた。
「さあ―黄金騎士ガロとなれ!今夜こそ!今夜こそ!本当の物語の主役が誰なのか?
私にはっ!我がメシア一族の寄る辺の女神にして私の母上がいる!
そして寄る辺の女神である母上にして地母神は!
これから30年後に人間として一生を終え!
死に新たなる創造主として目覚めん!転生の輪から解脱し!人を超える!
故に寄る辺の女神にして私の母上!地母神がいる限り!
私は今夜こそ!今夜こそ!負けたりはしないのだ!」
「おいおい!あいつ予言までもしゃべったぞ!」とザルバ。
「本来、人間達には秘密にしなければならない事実をしゃべりすぎだ!
これ以上!闇の事実を知られるとマズイ!さっさと封印してしまおう!」と鋼牙。
「故に寄る辺の女神にして!私の母上がいる限り!
私は今夜こそ!負けたりしないのだああああっ!」
そう迫力のある太い力強い声で長台詞を言うと
青いドレス姿のジルを茶色の瞳で見据えた。
鋼牙も迫力のある力強い声でこう返した。
「ああ!高峰龍之介!いや!アグトゥルス!望むところだ!」
続けて彼は頭上で魔戒剣をひゅっと空を切り、一振りした。
間も無くして頭上に円形の裂け目が現れた。
更に円形の裂け目から黄金の光が差し込んだ。
そして黄金の光は舞台全体を覆いつくした為、
ほとんどの観客達は両手で眩しくて顔を覆っていた。
間も無くしてゴルルッ!と狼の唸り声がしたので全員は
両手を退けて観客達は舞台を見た。
「あの鎧!どこから来たんだ?」
「オーマイガー!」
「アメィジング!あの火事に巻き込まれた子供を救い出したあの騎士だわ!」
「顔は怖そうだけどかっこいいな!」
観客がそれぞれ感想を述べ、舞台に現れた狼を象った
黄金騎士ガロの鎧を纏った鋼牙が立っているのを見た。
更に何人かの観客は彼の手に持っている銀色に輝く魔戒剣が
黄金に輝く両刃の長剣『牙浪剣』に変化している事に気づいた。
「あれ?剣が変化しているぞ?!」
「どうやって?手品なら?どんなトリック?」
舞台上では黄金騎士ガロとなった鋼牙は両手で牙浪剣を構えた。
しばしの沈黙。それを見ていた全ての観客は
どうなるのだろう?と真剣な表情でアグトゥルスと
黄金騎士ガロが動く瞬間をかたずを飲んで見守った。
僅か10分後。
先に動いたのはアグトゥルスだった。
彼は棘だらけの両刃の長剣を右斜めに大きく降った。
対して鋼牙も動き出した。
彼は牙浪剣を水平に構えた。
同時にバチバチと火花を散らし、アグトゥルスの棘の付いた
両刃の長剣が牙浪剣の中央の刃に衝突した。
その瞬間、観客数名が「おおっ!」「うおおおっ!」と何度も歓声を上げた。
実際、バリーも含んだ観客の多くは激しくどよめいていた。
舞台ではアグトゥルスの剣攻撃に対して鋼牙は黄金の鎧に
覆われた右脚を一気に振り上げた。振り上げた鋼牙のガロの鎧を纏った
右脚のつま先はアグトゥルスの鳥の仮面を勢いよく蹴り上げた。
鋼牙に蹴り飛ばされた勢いでアグトゥルスの身体は真上に吹っ飛ばされた。
しかしアグトゥルスはグルリとバック転をすると両脚を振り下ろしながら
舞台のフローリングの上に華麗に着地した。
すると数人の観客はアグトゥルの運動力に驚き、歓声を上げた。
更に観客の女の子までもが黄色い声で歓声を上げていた。
不意に鋼牙の指に嵌められた魔導輪ザルバはすかさず警告した。
「鋼牙!来るぞ!」
そしてザルバの警告通り、鋼牙は素早く身構えた。
後にアグトゥルスの仮面に似た顔に変化が起こった。
ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!
アグトゥルスの顔から機械のように仮面が次々と離れた。
そして顔から離れた仮面はどんどん4つに増えた。
続けて増えた仮面は一列に並んだ。
次の瞬間、赤色、黄色、緑色、黒色の龍に変身した。
「おおっ!すげええっ!どんな仕掛けだ!」
観客だったがっちりとした体格の男性が言った。
しかし興奮してしゃべる観客のがっちりとした体格の男性に対して
舞台の鋼牙は鋭い目を向けつつも落ち着いた口調でこう言った。
「分身か?いつも通りだな?」
やがてアグトゥルスの顔から分離した仮面が変化した4体の龍は
両手をそれぞり振り、長い尾をそれぞれ振り、
鋼牙を睨みつけて獣のように何度も唸った。
そして彼は広いカーネギホールの天井に向かってこう叫んだ。
「私こそ!本当の主役!主役なのだ!」
そのアグトゥルスの叫びを聞いたジルはようやく口を開いた。
「ただ自分が主役をやりたいからこうしているのね……」
するとジルの脳裏でジルの精神の中の内なる魔界に住んでいる
魔女王ホラー・ルシファーはこう語りかけた。
「やれやれ可愛い奴よのう!目立ちたがり屋で一生懸命でのう!」
「ええ、そうね」とジルは青い瞳でアグトゥルスを見ていた。
その表情はまるで一生懸命頑張る我が子を見ている
かのようにとても穏やかな優しい表情を浮かべていた。
やがてジルの携帯が鳴り始めた。
「もしもし?」とジルが電話に出ると女の子の声が聞こえた。
「ママ!あたしのお気に入りのクッションどこ?」
「庭の物干しざおにあるから帰ったら取ってあげる。今日はもう寝なさい。
ほら?明日の朝、『イット・カム・デザート』が観たいんでしょ?じゃ!
早く寝ないと。朝の9時に起きられないわよ」
「うん!分かった!じゃ!お休み!」「ママ愛しているわ!おやすみ!」
「おやすみ!アリス!トリニティ!ママも愛しているわ!」
ジルは携帯を切り、フフフと嬉しそうに笑った。
 
(第3楽章に続く)